地籍調査の対象土地について、登記名義人がすでに亡くなっており、親族から「相続放棄をした人がいる」と説明されることがあります。この場合、申告された人を単純に連絡先や立会い対象者から外すだけでは、適切な処理にならない可能性があります。
まず確認したいのは、家庭裁判所への相続放棄の申述が受理されているか、どの被相続人について誰が放棄したのか、放棄後に誰が相続人となるのか、地籍調査で誰に境界確認を求めるべきかという点です。登記名義人の死亡から長期間が経過している土地では、その後の死亡による相続が重なり、関係者が想定以上に増えていることもあります。
地籍調査は、主に市町村等が一筆ごとの土地所有者、地番、地目、境界、面積などを調査し、その成果を地籍図と地籍簿にまとめる事業です。作成された地籍図と地籍簿は閲覧に供された後、成果の写しが登記所へ送付されます。境界の確認は、土地所有者その他の利害関係人や代理人などに協力を求めながら進められるため、相続関係を誤ると、通知漏れや権限が不明確な人による確認、閲覧時の誤り等の申出などにつながるおそれがあります。(地籍調査の流れ)
この記事では、地籍調査の実務担当者が、相続放棄した人のいる案件を処理するときに確認したいポイントを4つに整理して解説します。なお、必要書類や運用は実施主体や事案によって異なるため、個別案件では庁内の法務担当部署、管轄家庭裁判所、法務局または法律専門職への確認が必要です。
地籍調査と相続放棄が重なると確認が難しくなる理由
地籍調査における相続関係の確認が難しくなる大きな理由は、登記記録に記載された所有者と、現在の実体上の権利関係が一致していないことがあるためです。
土地の登記名義人が亡くなった後も相続登記がされていなければ、登記記録には亡くなった人の氏名が残ります。一方、相続は死亡によって開始するため、相続放棄、遺言、遺産分割などの有無によって、実際に確認すべき人の範囲が変わります。
相続人の一部が相続放棄をすると、その人は当該相続について初めから相続人とならなかったものとみなされます。先順位の相続人が全員相続放棄した場合には、被相続人の直系尊属や兄弟姉妹など、後順位の親族が相続人になる可能性があります。配偶者は、配偶者自身が相続放棄していない限り、各順位の血族相続人とともに相続人となります。(民法)(相続放棄の案内)
たとえば、亡くなった人に配偶者と子がいる場合、通常は配偶者と子が相続人です。子が複数いるうち一人だけが相続放棄したのであれば、放棄していない子と配偶者が残ります。子およびその代襲者が全員相続放棄した場合は直系尊属を確認し、直系尊属がいない、または相続資格を有しない場合には、兄弟姉妹や一定の甥・姪まで確認範囲が広がることがあります。
また、「相続放棄をした」という親族の言葉が、必ずしも家庭裁判所への相続放棄を意味するとは限りません。「遺産はいらないと家族に伝えた」「遺産分割協議で土地を取得しなかった」「相続分を譲渡した」といった事情を、本人が相続放棄と表現している場合があります。
これらは、家庭裁判所に申述して行う相続放棄とは法的な意味が異なります。地籍調査の実務では、日常用語としての「放棄」と、家庭裁判所で申述が受理された相続放棄を区別しなければなりません。
さらに、相続放棄した人が生前から土地を管理していたり、固定資産税に関する連絡先になっていたりする場合もあります。その人が現地の境界に詳しいからといって、当然に相続人として境界確認ができるわけではありません。現地事情を知る人と、現在の権利者またはその代理人を分けて整理する必要があります。
このように、相続放棄者のいる案件では、「誰が親族か」だけでなく、「どの相続について放棄したのか」「現在の権利者は誰か」「誰に確認を求める権限関係があるか」という視点が重要になります。
確認ポイント1 相続放棄の申述が家庭裁判所で受理されているか
最初の確認ポイントは、相続放棄の申述が家庭裁判所で受理されているかどうかです。
法律上の相続放棄をするには、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述する必要があります。単に親族間で「財産を受け取らない」と合意しただけでは、家庭裁判所への相続放棄にはなりません。申述は、原則として、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行います。相続財産を調査しても判断資料が得られない場合には、家庭裁判所へ期間伸長を申し立てられることがあります。(相続放棄の案内)
実務上は、相続放棄申述受理通知書または相続放棄受理証明書などで受理の事実を確認します。受理通知書は通常、申述が受理された後に申述人へ送られる書面です。受理証明書は、受理されている事実を証明するために家庭裁判所へ申請して取得する書面です。裁判所によって申請様式や添付書類の案内が異なることがあるため、管轄家庭裁判所の案内を確認します。(相続放棄受理証明書の案内)
書面では、被相続人、申述人、事件番号、受理日などの記載事項を確認し、今回の地籍調査対象土地の登記名義人に関する相続放棄であるかを照合します。同姓同名、旧字体、転居、戸籍の改製などがある場合は、氏名だけで判断せず、戸籍、住民票除票、戸籍の附票などを用いて同一人物性を確認します。
本人が通知書を紛失している場合には、受理証明書の取得を依頼する方法があります。申述人本人のほか、被相続人に対する法律上の利害関係人が申請できる場合もありますが、申請資格や必要資料は事案と裁判所の運用によって異なります。
相続放棄が行われたかどうか自体が不明な場合には、「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会」が利用できることがあります。ただし、誰でも自由に照会できるものではなく、一般に相続人または被相続人に対する利害関係人などに限られ、戸籍や利害関係を示す資料が求められます。地籍調査の担当部署が照会資格を有するかは一律には判断できないため、庁内法務担当と管轄家庭裁判所に事前確認するのが安全です。(申述の有無照会の案内)
「家庭裁判所へ書類を出した」「現在手続中である」「期間伸長が認められた」という説明だけでは、相続放棄の申述が受理されたことを意味しません。申述書の提出、裁判所からの照会、期間伸長、申述の受理はそれぞれ別の段階です。地籍調査上の関係者を整理するときは、口頭説明のみで除外せず、原則として受理の事実を確認します。
なお、家庭裁判所による申述の受理は重要な確認資料ですが、相続放棄の有効性をめぐる民事上の争いが将来一切生じないことまで保証するものではありません。単純承認に当たる行為の有無、申述の意思、熟慮期間などをめぐって当事者間に争いがある場合は、地籍調査担当者だけで結論を出さず、法務担当部署や法律専門職へ確認します。
確認した書類については、書類名、確認日、確認者、被相続人、申述人、受理日、事件番号などを調査記録に残しておくと、その後の担当者交代や閲覧対応がしやすくなります。写しを保管する場合は、取得根拠、利用目的、保存期間、アクセス権限など、個人情報の取扱いにも注意が必要です。
確認ポイント2 相続放棄後の権利者・相続人を改めて特定する
相続放棄の受理を確認したら、次に行うのは、対象土地について確認すべき権利者と相続人の再特定です。
相続放棄した人は、その相続について初めから相続人とならなかったものとみなされます。単に法定相続分がゼロになるのではなく、当該相続の相続人の構成から外れる点が重要です。(民法)
ただし、一人の相続人が放棄したからといって、必ず次順位の親族が相続人になるわけではありません。同じ順位の相続人がほかに残っている場合には、その人たちが相続人として残ります。
たとえば、被相続人に配偶者と子が三人いて、子の一人だけが相続放棄した場合、残りの子二人と配偶者が相続人です。この段階で、被相続人の父母や兄弟姉妹まで相続人になるわけではありません。
これに対し、第一順位である子および代襲相続人となる者が全員相続放棄した場合には、第二順位である父母、祖父母などの直系尊属を確認します。直系尊属が相続人とならない場合には、第三順位である兄弟姉妹を確認します。兄弟姉妹が被相続人より先に死亡しているときは、その子である甥・姪が代襲相続人になる場合があります。
配偶者は、子、直系尊属、兄弟姉妹という順位とは別に扱われます。子が全員相続放棄しても、配偶者自身の相続放棄が受理されていなければ、配偶者は後順位の血族相続人とともに相続人となる可能性があります。
実務上、特に注意したいのが代襲相続との混同です。被相続人の子が相続開始前に死亡していた場合などには、その子の子が代襲相続人になることがあります。一方、被相続人の子が存命のまま相続放棄した場合、その子の子が、放棄した親に代わって当然に相続人になるわけではありません。相続開始前の死亡などによる代襲相続と、相続放棄による後順位への移行を、相続関係図上で明確に区別します。(民法)
さらに、登記名義人の死亡後に相続人が亡くなっている場合は、複数の相続を分けて確認します。たとえば、登記名義人である祖父が死亡し、その相続人である長男が相続登記をしないまま後に死亡した場合、祖父の相続と長男の相続は別の出来事です。それぞれについて相続人、相続放棄、遺言、遺産分割の有無を確認します。
長男が祖父の相続を放棄していたのであれば、長男は祖父の土地について初めから相続人とならなかったものと扱われます。そのため、長男の配偶者や子が、長男を経由して祖父の土地の持分を承継することは通常ありません。反対に、長男が祖父の相続について権利を承継した後に死亡した場合は、長男の相続関係も確認対象になります。熟慮期間中に相続人が死亡した場合などは扱いが複雑になるため、個別に法的確認を行います。
相続関係図を作る際は、氏名と続柄だけでなく、生年月日、死亡日、相続放棄の対象となる被相続人、受理確認書類、住所、連絡状況を記録します。「放棄」「死亡」「所在不明」「連絡済み」「委任確認済み」など、地籍調査上の対応状況も別欄で管理すると、通知対象者の漏れを防ぎやすくなります。
法定相続情報一覧図が提出されることもありますが、この書面だけで相続放棄や遺産分割の結果を確認できるとは限りません。法定相続情報一覧図は戸除籍謄本等の記載に基づく法定相続人を明らかにするもので、相続放棄や遺産分割の結果として実際には財産を取得しない人が記載される場合があります。したがって、一覧図に氏名があることだけを理由に現在の権利者と判断せず、相続放棄の証明書類、遺言書、遺産分割協議書、登記記録などを別途確認します。(法定相続情報証明制度)
また、有効な遺言、遺産分割協議、特定財産承継遺言、遺贈、相続登記などにより、対象土地について確認すべき人が法定相続人全員とは異なることがあります。地籍調査は遺言や遺産分割の有効性を判断する手続ではないため、内容に争いがある場合は一方の説明だけで権利者を確定しないことが重要です。
第一順位から第三順位までの相続人が全員相続放棄し、結果として相続する者がいない場合には、相続財産清算人の選任が関係することがあります。相続人不存在の疑いがある案件を相続放棄者本人だけで処理せず、実施主体の法務担当部署や家庭裁判所への確認を検討します。(相続財産清算人の案内)
確認ポイント3 境界確認や立会いを求める相手を整理する
現在の権利者や相続人を整理した後は、地籍調査における境界確認や立会いを誰に求めるかを検討します。
地籍調査の一筆地調査では、土地所有者その他の関係者に、資料や現地の状況を確認してもらいながら境界を調査します。土地所有者、地番、地目なども併せて確認されます。(地籍調査の流れ)
登記名義人が死亡し、遺言、遺産分割または相続登記などによって対象土地の取得者が確定していない場合には、相続放棄していない共同相続人が関係者となるのが基本です。相続人が複数いるときは、一人に連絡すれば常に足りるとは限りません。
相続人の中から代表者または代理人を立てる場合は、誰が誰に、どの土地について、どの範囲の権限を与えたかを明確にします。実施主体が定める委任状の様式、本人確認方法、押印の要否などがある場合は、その運用に従います。
委任状を使用するときは、委任者が現在の権利者または相続人であるか、対象土地が特定されているか、現地調査、図面等による確認、書類提出などの委任事項が記載されているかを確認します。共有者や共同相続人が複数いる土地では、代理人が対応するために全ての所有者等からの委任が必要とされる運用があります。地籍調査Webサイトでも、共有者や相続人が複数いる場合、全ての所有者等からの委任により代理人が現地調査等へ対応できると案内されています。(土地境界のみなし確認制度)
相続放棄した人は、相続人として自らの権利に基づいて境界確認を行う立場にはありません。過去から土地を管理していたとしても、そのことだけを理由に相続人欄へ署名してもらう処理は避けます。
ただし、相続放棄した人が現地事情に詳しく、現在の権利者全員から適切な委任を受けている場合は、相続人本人ではなく代理人として対応できる可能性があります。その場合は、「相続放棄者であるが、現在の権利者から委任を受けた代理人である」という立場を記録上も明確にします。
ここで混同しやすいのが、固定資産税の納税通知に関する代表者や、親族間の連絡役です。納税に関する代表者として届け出られている人が、当然に土地を単独所有しているとは限りません。また、その人にほかの相続人を代理して境界を確認する権限があるとも限りません。
「相続人代表者」「納税に関する代表者」「遺産を管理している人」「地籍調査の代理人」は、それぞれ根拠と権限が異なります。名称が似ていても同一の権限を持つとは限らないため、提出書類ごとに立場を確認します。
相続放棄した人が、放棄の受理を確認する前に地籍調査の立会いをしていた場合も注意が必要です。どの段階まで調査が進んでいたか、本人がどの立場で確認したか、ほかの権利者から委任を受けていたかを確認します。現在の権利者による再確認や追認が必要かどうかは、実施主体の運用と個別事情を踏まえて判断します。
遠隔地に住む相続人については、必ずしも現地立会いだけに限定されません。地籍調査では、図面等の送付や集会所等での確認により境界を確認する方法もあります。現地参加が難しいことと、通知や確認が不要であることは別です。(土地境界のみなし確認制度)
通知に反応しない所有者等については、一定の条件の下で土地境界のみなし確認制度を適用できる場合があります。制度を利用するには、現地調査等や図面等調査の通知が届いていること、実施主体が筆界案を作成して到達確認ができる方法で送付すること、筆界案の到達日から20日間に意見の申出がないことなどが前提です。積極的に立会いや図面等調査を拒む人、通知や筆界案の到達を確認できない人は対象外です。また、制度を適用するかは実施主体の判断であり、無回答案件すべてが自動的に対象になるわけではありません。(土地境界のみなし確認制度)
したがって、相続放棄者がいる案件では、最初に現在の権利者を整理し、その人たちへの通知、委任、図面等による確認、現地立会いなどの方法を検討することが基本となります。
確認ポイント4 戸籍・登記・証明書の内容を突き合わせる
最後の確認ポイントは、相続関係を示す各書類を個別に見るだけでなく、対象土地と時系列に沿って相互に突き合わせることです。
地籍調査で相続放棄者のいる土地を処理する際は、登記事項証明書、登記所備付地図や公図、戸籍、除籍、改製原戸籍、戸籍の附票、住民票除票、相続放棄申述受理通知書、相続放棄受理証明書、遺言書、遺産分割協議書、相続登記後の登記記録、委任状などが関係する可能性があります。
すべての案件で同じ書類が必要になるわけではありませんが、少なくとも次の流れを書類で説明できる状態にします。
- 対象土地と登記名義人は誰か
- 登記名義人が死亡しているか
- 相続開始時の相続人候補は誰か
- 誰が、どの被相続人について相続放棄したか
- 遺言や遺産分割によって対象土地の取得者が決まっているか
- 現在、誰が地籍調査に対応する権限を持つか
まず、登記事項証明書で対象土地の所在、地番、地目、地積、登記名義人の氏名と住所を確認します。地籍調査の通知対象となっている土地と、相続関係を調べている土地が一致しているかを確認するためです。
同じ被相続人が複数の土地を所有していた場合でも、土地ごとに相続後の処理が異なることがあります。ある土地は遺産分割済みで、別の土地は未分割ということもあるため、被相続人が同じだからといって一律に扱うことはできません。
次に、戸籍によって登記名義人の死亡と親族関係を確認します。相続人を漏れなく確認するには、一般に被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍をたどる必要があります。婚姻、離婚、養子縁組、転籍、戸籍制度の改製などによって戸籍が分かれている場合があるため、死亡時の戸籍だけでは子の存在を確認しきれないことがあります。
相続放棄の書類では、被相続人と申述人の組合せを確認します。一人の申述人が複数の相続について放棄している場合もあるため、誰の相続について受理された書面なのかを明確にします。
相続放棄受理証明書に記載されている被相続人が、地籍調査対象土地の登記名義人ではなく、その後に死亡した中間の相続人である場合もあります。この場合、登記名義人の相続と中間相続人の相続を分けて検討しなければなりません。
たとえば、登記名義人である父が死亡し、その相続人である長男が後に死亡したケースを考えます。長男の子が「相続放棄した」と説明していても、それが父の相続に関するものなのか、長男の相続に関するものなのかで結果が異なります。長男の子は、長男の死亡後に長男の相続を放棄することはできますが、死亡した長男本人に代わって父の相続を新たに放棄するわけではありません。
住所の確認も重要です。登記記録の住所、死亡時の住所、戸籍の本籍、現在の相続人の住所はそれぞれ別の情報です。住所が異なるからといって別人とは限らず、同じ氏名だからといって同一人物とも限りません。戸籍の附票や住民票除票などを用い、住所のつながりを確認します。
遺産分割協議書が提出された場合には、対象土地の記載、協議参加者、成立日などを確認します。「すべての不動産を長男が取得する」といった包括的な記載なのか、具体的な所在と地番が書かれているのかによって確認方法が異なります。
遺産分割協議で財産を取得しなかった人は、家庭裁判所で相続放棄した人とは異なります。「土地をもらっていない」という説明だけで相続放棄があったと判断せず、遺産分割の成立状況、対象土地の取得者、相続登記の有無、実施主体の運用などを踏まえて、通知や確認の対象を判断します。
書類を整理するときは、相続関係図と証拠書類の対応表を作成する方法が有効です。相続関係図の各人物について、根拠となる戸籍、死亡確認書類、相続放棄の証明、住所確認書類、遺言・遺産分割関係書類、委任状の有無を記録します。
ただし、個人情報を必要以上に複製したり、地籍調査の目的を超えて利用したりしないよう注意が必要です。原本確認で足りる書類、写しを保管する書類、確認結果のみを記録する書類を庁内ルールに沿って分けます。
相続放棄者がいる地籍調査の実務的な進め方
相続放棄者がいることが判明した場合は、確認作業を場当たり的に進めるのではなく、一定の順序で処理することが重要です。
最初に、対象土地を確定します。所在、地番、登記名義人、登記名義人の住所、共有者の有無を確認し、調査区域内のどの土地に関する案件なのかを明確にします。
次に、登記名義人の生死を確認します。死亡している場合には、死亡日と最後の住所を確認し、相続開始の時点と管轄家庭裁判所を整理します。登記名義人が複数いる共有地では、死亡している共有者ごとに相続関係を調べます。
その後、戸籍を基に相続開始時の相続人候補を整理します。この段階では、相続放棄したと説明されている人も、いったん関係図に記載します。最初から消してしまうと、なぜ同順位者の構成が変わったのか、なぜ後順位の相続人を確認するのかを説明できなくなるためです。
相続放棄については、申述受理通知書や受理証明書などで、被相続人と申述人を照合します。書面がない場合は、本人に取得を依頼するのか、有無照会を検討するのか、未確認として扱うのかを、実施主体のルールに沿って決めます。
受理を確認した後、その人を当該相続の相続人から外し、残る同順位者または後順位者を確認します。先順位者全員の放棄が必要となるケースでは、一人分の証明書だけで次順位へ移ったと判断しないことが重要です。
同時に、遺言書、遺産分割協議書、相続登記などの有無を確認します。法定相続人の範囲と、対象土地について実際に確認すべき権利者が一致しないことがあるためです。
現在の権利者を整理したら、連絡先を調査し、地籍調査の内容、対象土地、境界確認の方法、立会予定などを通知します。複数人が関係する場合は、全員が直接対応するのか、代表者または代理人を選ぶのかを確認します。
代表者や代理人による対応を行う場合には、委任関係を明確にします。電話で「兄に任せています」と聞いただけで処理せず、実施主体が求める委任状を提出してもらいます。対象土地や委任事項が不明確な場合には補正を求めます。
現地調査前には、公図、地積測量図、既存の境界標、過去の測量成果、隣接土地の情報などを整理します。相続人が土地の状況を知らないことも多いため、可能な範囲で図面や写真を事前に提示すると確認が進みやすくなります。
相続人の一部が遠隔地に居住している場合には、図面等による確認や代理人対応を検討します。連絡が取れるにもかかわらず返答がない場合には、再通知や、要件を満たす場合のみなし確認制度など、所定の手続を検討します。単なる未回答を直ちに同意と扱うことはできません。
現地調査または図面等による確認が終わった後は、誰がどの立場で確認したのかを記録します。相続人本人、共有者、委任を受けた代理人、隣接土地所有者、現地精通者などの立場を混在させないことが重要です。
地籍図と地籍簿が作成された後の閲覧段階では、関係者や相続関係に変更がないかを再確認します。調査開始から閲覧までに相続人が死亡したり、新たな相続放棄が受理されたりする可能性があるためです。
地籍調査の結果は、通常20日間閲覧に供され、誤り等がある場合は申出を行うことができます。主要な工程ごとに相続関係の更新の有無を確認すると、後の手戻りを減らせます。(地籍調査の流れ)
地籍調査で起こりやすい相続放棄の誤解
地籍調査で起こりやすい誤解の一つは、「財産を受け取っていない人は相続放棄者である」という考え方です。
遺産分割協議によって土地を取得しなかった人、相続分を譲渡した人、事実上遺産に関与していない人が、家庭裁判所で相続放棄しているとは限りません。相続放棄の申述が受理されているかを確認する必要があります。
次に多いのが、「相続放棄者を名簿から削除すれば処理が終わる」という誤解です。先順位者が全員相続放棄した場合には、後順位の親族が相続人になる可能性があります。削除だけを行い、新たな相続人を確認しなければ、通知漏れが生じます。
また、「相続放棄した人の子が代わりに相続する」という誤解もあります。相続開始前の死亡などによる代襲相続と、存命の相続人が相続放棄した場合は異なります。死亡日、欠格・廃除の有無、相続放棄の受理を区別して確認します。
「固定資産税の通知を受け取っている人が土地所有者である」という判断も危険です。納税に関する代表者は、必ずしも単独所有者ではありません。税務上の連絡先と、地籍調査で境界確認を求める権利者または代理人を分けて確認します。
「土地に詳しい相続放棄者に署名してもらえばよい」という対応にも注意が必要です。相続放棄者は相続人として確認する立場にはありません。現地精通者として事情を聞くことと、権利者として境界を確認してもらうことを区別します。
現在の権利者から適切な委任を受けている場合には代理人として対応できる可能性がありますが、その場合も相続人本人としてではなく、委任を受けた代理人として記録します。
「連絡しても返答がないため、異議がないものと扱う」という処理も避ける必要があります。土地境界のみなし確認制度には、通知の到達、筆界案の作成と送付、20日間の意見申出期間などの要件があります。積極的な拒否や到達未確認の案件は対象外で、制度を適用するかは実施主体が判断します。(土地境界のみなし確認制度)
「相続放棄受理通知書があれば、その土地だけを放棄したと扱える」という誤解もあります。相続放棄は、原則として特定の土地や借金だけを選んで放棄する手続ではなく、その被相続人の権利と義務を一切承継しない選択です。(相続放棄の案内)
そのため、「借金だけを放棄したが、土地については相続している」という説明があった場合には、家庭裁判所への相続放棄ではなく、別の合意や処理を本人が相続放棄と呼んでいる可能性があります。
さらに、「相続放棄が受理された日以後だけ相続人でなくなる」という理解も正確ではありません。相続放棄した人は、当該相続について初めから相続人とならなかったものとみなされます。地籍調査の途中で受理が確認された場合には、それ以前の立会いや署名の扱いも実施主体のルールに従って見直します。
調査を止めないための庁内管理と関係者への説明
相続放棄者のいる案件は、通常の相続未登記案件より確認事項が増えます。担当者ごとの判断に任せると、似た案件でも提出を求める書類や処理方法が異なる可能性があります。
そのため、庁内では相続関係確認用の共通様式を用意しておくと効果的です。対象土地、登記名義人、死亡日、相続人候補、相続放棄者、対象となる被相続人、確認書類、後順位相続人、遺言・遺産分割の有無、連絡状況、代理人、委任状、境界確認日などを一つの記録で管理します。
相続関係図には、戸籍上の親族関係だけでなく、地籍調査上の対応状況も記載します。ただし、図だけでは判断根拠が分からなくなるため、各人を確認した戸籍や証明書の名称も対応付けます。
担当者が異動した場合でも、なぜその人を当該相続の相続人から外したのか、なぜ後順位の親族へ通知したのか、誰の委任によって代理人が対応しているのかを追跡できる状態にしておくことが重要です。
関係者への説明では、「相続放棄した人からは何も聞けない」と伝えるのではなく、立場の違いを丁寧に説明します。相続放棄した人であっても、土地の利用状況や過去の境界標の位置を知っている可能性があります。事実関係を聞き取ること自体は、権利者として境界確認を求めることとは別です。
現在の権利者に対しては、地籍調査が遺産分割や所有権紛争を解決する手続ではないことも説明しておくとよいでしょう。地籍調査の担当者が、誰に土地を取得させるかを決めたり、遺言や遺産分割協議の有効性を最終判断したりするものではありません。
一方で、境界確認の結果は地籍図や地籍簿に反映され、その成果は登記所へ送付されます。相続登記をしていないから地籍調査と無関係になるわけではなく、現在の権利者として対応が必要になる場合があることを説明します。
書類の提出を依頼するときは、「相続放棄したことを証明してください」とだけ伝えるのではなく、誰を当該相続の関係者から外し、誰へ通知すべきかを正確に整理するために必要であると説明します。
親族間に対立がある場合には、担当者が一方の主張だけを前提として処理しないことが大切です。「長男が全部相続した」「弟は放棄した」「遺言がある」といった説明が食い違うときは、客観的な書類の提出を求めます。
法的な争いがあり、提出書類からも現在の権利者を整理できない場合には、地籍調査の範囲で処理できる事項と、当事者間または裁判手続で解決すべき事項を分けます。必要に応じて庁内の法務担当部署や外部の法律専門職へ確認し、判断経過を調査記録に残します。
工程管理では、相続放棄の確認待ちとなっている土地を通常案件と分けて管理するとよいでしょう。書類依頼日、回答期限、再通知日、家庭裁判所への確認状況、後順位相続人の調査状況などを把握し、長期間放置されないようにします。
相続放棄の確認が遅れると、その土地だけでなく、隣接地の境界確認や測量工程にも影響する可能性があります。早い段階で相続関係を調査し、複雑案件を抽出することが、地籍調査全体の遅延防止につながります。
まとめ
地籍調査の対象土地に相続放棄した人がいる場合、本人や親族の申告だけで相続人から除外するのではなく、まず、どの被相続人について家庭裁判所への相続放棄の申述が受理されているかを確認します。
受理を確認した後は、相続放棄者を除外するだけでなく、残る同順位の相続人や後順位の相続人を改めて調べます。遺言、遺産分割、相続登記、数次の相続が関係する場合は、法定相続人の範囲と対象土地について確認すべき権利者を分けて整理します。
境界確認や立会いについては、現在の権利者本人、全員から適切な委任を受けた代理人など、誰がどの立場で対応するのかを明確にします。相続放棄した人が土地に詳しくても、相続人として署名できるわけではありません。
登記、戸籍、相続放棄申述受理通知書、受理証明書、遺言書、遺産分割協議書、委任状などは、それぞれ単独で判断せず、対象土地、被相続人、申述人、死亡日、受理日を時系列で突き合わせることが重要です。
相続関係が複雑な案件ほど、早期に確認を始め、判断根拠を書面で残すことが手戻りの防止につながります。個別の相続放棄の効力や権利者の確定に争いがある場合は、地籍調査担当者だけで判断せず、管轄家庭裁判所、法務局、庁内法務担当部署または法律専門職へ確認してください。