温泉地や温浴施設の周辺で地籍調査を行う場合は、一般的な宅地や農地とは異なる確認が必要になることがあります。土地の中に源泉井戸がある、隣接地から引湯管が通っている、土地所有者とは別の事業者が温泉を採取または管理しているなど、土地の筆界と温泉施設の利用範囲が一致しないケースがあるためです。
実務で使われる「温泉権」という言葉は、名称だけで権利の内容を一律に特定できるものではありません。国税庁の財産評価基本通達では温泉権と引湯権が区別して扱われていますが、実際の権利関係は、土地所有権、契約、地域の慣習、源泉や配管の管理実態などによって異なります。したがって、「温泉権がある」という説明だけで、採取できる範囲、分湯を受けられる量、配管を敷設できる場所、土地へ立ち入れる範囲まで決まっているとは限りません。([国税庁][1])
地籍調査で中心となるのは、一筆ごとの所有者、地番、地目を調査し、筆界の位置と面積を測量して、地籍図と地籍簿を作成することです。温泉を採取する権利や供給契約の有効性を、地籍調査だけで最終判断するものではありません。([地籍ポータル][2])
一方で、源泉井戸、引湯管、機械室、管理通路などを無視して調査を進めると、施設を損傷する危険や、筆界と施設利用範囲を混同する問題が生じます。重要なのは、土地に関する情報、温泉に関する私法上の権利関係、温泉法上の許可や確認、現地施設の位置を分けて整理し、必要な範囲で相互に照合することです。
本記事では、地籍調査の実務担当者が、土地に温泉権や温泉利用関係が絡む場合に確認しておきたい4項目を解説します。
地籍調査と温泉権の関係を最初に整理する
地籍調査は、主に市町村などが実施主体となり、一筆ごとの土地について所有者、地番、地目を調査し、筆界の位置と面積を測量する調査です。調査成果は地籍図と地籍簿にまとめられ、認証などの手続を経て登記所へ送付されます。([地籍ポータル][2])
ここで確認する筆界は、登記された一筆の土地と隣接する土地を区画する線です。源泉施設の柵、建屋の外周、管理通路、配管ルート、当事者間で定めた使用範囲が、筆界と一致するとは限りません。地籍調査は新しい利用範囲を自由に決める手続ではなく、既存の筆界を資料や現地の状況に基づいて調査するものです。([国土交通省][3])
温泉が関係する土地では、三種類の情報を分けて整理すると混乱を防げます。
第一は、登記事項証明書、登記所備付地図、公図、地積測量図、既存の地籍調査成果、境界確認書など、土地と筆界に関する情報です。
第二は、土地賃貸借契約、源泉管理契約、温泉供給契約、分湯契約、引湯管の敷設契約、地役権設定契約、組合規約など、私法上の権利や利用条件に関する情報です。
第三は、温泉法に基づく掘削、増掘、動力装置、採取、公共の浴用または飲用に関する許可や確認など、行政上の情報です。温泉法では、温泉を湧出させる目的の掘削、湧出路の増掘、湧出量を増加させるための動力装置、反復継続的な温泉採取、公共の浴用または飲用への供用について、それぞれ所定の手続が設けられています。([e-Gov 法令検索][4])
この三種類を混同すると、「土地所有者だから温泉についてもすべて決定できる」「採取許可を受けた者だから土地も所有している」「引湯管が通っている線が筆界である」といった誤解につながります。
特に重要なのは、温泉法上の許可と私法上の権利を同一視しないことです。環境省の温泉法逐条解説は、温泉採取の許可について、温泉権や採取権を発生させるものではなく、可燃性天然ガスによる災害防止上の要件を満たす場合に採取を認める行政処分であると説明しています。
地籍調査の担当者は、温泉権の存在や帰属を独自に確定するのではなく、筆界調査に関係する事実と資料を整理します。契約の有効性、慣習上の権利の成否、配管撤去の可否などに争いがある場合は、筆界の問題と切り分け、弁護士、土地家屋調査士、司法書士、所管行政庁など、争点に応じた専門家や機関へ確認できる状態にしておくことが安全です。
確認項目1 土地所有者と温泉関係者を区別する
最初に確認する項目は、土地所有者と温泉に関係する個人や法人の対応関係です。
温泉が関係する土地では、登記上の所有者だけを確認しても、現地施設を管理する者や契約上の利用者を把握できないことがあります。土地は個人が所有し、別の事業者が土地を借りて源泉井戸を管理している場合があります。源泉の管理者と温泉の採取者が異なる場合や、源泉を管理する組合と引湯管を管理する組合が別である場合も考えられます。
関係者を整理するときは、登記上の土地所有者、共有者、相続人または相続関係者、土地の賃借人、源泉井戸の所有者、源泉管理者、温泉採取者、温泉供給者、引湯管管理者、温泉利用施設の運営者、管理組合などを区別します。
土地所有者については、最新の登記事項証明書を基礎とし、必要に応じて戸籍関係資料、法定相続情報一覧図、法人の登記事項証明書、委任状などで現在の権限関係を確認します。共有地の場合は、共有者の範囲と、立会いに出席する者の代理権の内容を確認します。登記名義が古いままの場合でも、固定資産税の納税者や現地管理者だけを土地所有者とみなすことは避けます。
温泉関係者については、源泉管理契約、土地賃貸借契約、温泉供給契約、分湯契約、引湯契約、施設管理契約、組合規約、覚書などから把握します。契約書の名称だけで判断せず、対象となる源泉、土地、設備、供給量、利用期間、立入り範囲、維持管理責任、承継条項、契約終了時の取扱いを本文と添付図面で確認します。
古い温泉地では、過去の所有者名や旧法人名のまま契約が残っていることがあります。土地の相続や売買が済んでいても、温泉関係の契約や組合名簿が更新されていない場合があります。反対に、温泉事業の運営主体だけが変わり、土地所有者は変わっていない場合もあります。
温泉法上の許可についても、種類や承継原因に応じて承認申請や届出などの手続が必要になる場合があります。ただし、許可名義が承継されていることと、土地所有権、温泉権、引湯権、契約上の地位がすべて同時に承継されていることは別問題です。行政資料だけで私法上の権利帰属を断定しないようにします。([e-Gov 法令検索][4])
立会い対象者を整理するときは、筆界の確認に関与する土地所有者等と、温泉施設の現況を説明できる管理者を分けると実務が進めやすくなります。源泉管理者や配管管理者は、施設位置、安全上の注意、工事履歴を説明できても、土地所有者の代理権を当然に持つわけではありません。
関係者名簿には、氏名または法人名だけでなく、対象土地との関係、温泉施設との関係、連絡先、立会いで説明できる事項、代理権を示す書類の有無を記録します。個人情報を含むため、利用目的、保管場所、閲覧権限も合わせて管理します。
土地所有者と温泉事業者の間に紛争がある場合は、同じ立会いの場で契約解釈や配管撤去の可否まで結論を出そうとすると、筆界確認が進まなくなる可能性があります。事前に双方の主張を整理し、地籍調査で確認する筆界と、当事者間で別途協議する利用関係を明確に分けます。
確認項目2 源泉井戸と関連施設の位置を確認する
二つ目の確認項目は、源泉井戸と温泉関連施設の位置です。
温泉が絡む土地では、源泉井戸の位置だけでなく、井戸口、保護管、揚湯設備、機械室、貯湯槽、分湯設備、計測設備、引湯管、電気設備、排水設備、点検口、管理通路、保安柵などを確認します。これらが一筆の土地にすべて収まっているとは限りません。
源泉井戸は所有地内にあっても、機械室や貯湯槽が隣接地に設置されている場合があります。引湯管が複数の民有地を通り、道路や水路を横断していることもあります。施設の配置や長年の使用状況だけを見て筆界を推定すると、施設利用範囲や占有範囲を筆界と誤認するおそれがあります。
現地では、まず源泉井戸の位置を特定します。地上に見える建屋、蓋、バルブの中心が、地下の井戸中心と一致するとは限りません。改修で建屋だけが拡張されている場合や、配管の取り回しが変更されている場合もあります。
源泉位置図、掘削申請時の位置図、施設配置図、工事図面、配管図、竣工図、測量図、過去の写真などがあれば、現地と照合します。座標が記載されている図面では、座標系、基準点、作成年、測量方法、図面の縮尺を確認します。図面上の寸法が井戸中心、建屋外壁、敷地使用範囲、筆界標のどれを基準にしているかも確認が必要です。
古い図面の線や行政申請用の位置図は、地籍測量と同じ精度で作成されているとは限りません。概略位置を示す図面を、そのまま筆界線や筆界点の根拠にすることは避けます。
引湯管については、地上配管だけでなく、地中埋設管の可能性を確認します。配管ルートは筆界そのものではありませんが、筆界標示杭の設置、測量機器の設置、掘削を伴う確認作業の安全性に影響します。
杭や標識を設置する予定箇所の近くに埋設管がある場合は、安易に打設してはいけません。施設管理者が保有する図面と現地表示を照合し、必要に応じて探査や試掘などの方法を管理者と協議します。地中設備の位置や深さが不明な状態では、実施主体の安全管理手順に従い、打設方法や標識方法を変更します。
温泉管は高温になる場合があり、漏えい箇所や蒸気が発生する場所では、やけどや視界不良などの危険があります。また、温泉採取施設では可燃性天然ガスが発生する可能性があり、温泉法には災害防止のための採取許可またはガス濃度確認の制度があります。([環境省][5])
源泉施設内へ立ち入る場合は、土地所有者の了解だけでなく、施設管理者の許可、安全上の指示、立入可能時間、保護具の要否を確認します。換気が不十分な設備室、高温配管の周辺、回転機械や電気設備の近くでは、通常の屋外立会いとは異なる安全管理が必要です。
安全上の理由で筆界点付近へ直接立ち入れない場合は、無理に接近せず、周辺の既設点、図面、写真、測量成果などから確認できる方法を実施主体と検討します。地籍調査には、現地立会いのほか、図面や写真などを用いて所有者等に筆界案を確認してもらう方法もありますが、適用の可否は地籍調査作業規程準則などに従って実施主体が判断します。([地籍ポータル][6])
源泉井戸、建屋、擁壁、側溝、フェンス、石積みが筆界付近にある場合は、構造物の外周が筆界を示す根拠を持つのか、それとも施設管理の都合で設置されたものかを確認します。見た目が境界らしいという理由だけで筆界点を決めないことが重要です。
現況記録は、源泉井戸、建屋、配管、点検口、道路、水路、既設の境界標などの位置関係が分かるように作成します。近景だけでなく、周辺の固定物を含む全景も撮影し、撮影日、撮影位置、撮影方向、対象地番、筆界点番号、確認者を関連付けます。
写真やGNSSなどの位置記録は、現況を再確認するための補助資料です。使用機器の精度や測位条件を確認せず、写真の位置情報だけで筆界を確定したり、測量成果と同等に扱ったりしてはいけません。
確認項目3 契約書と行政上の許可を照合する
三つ目の確認項目は、温泉に関する契約書と行政上の許可や確認を照合することです。
温泉に関係する土地には、登記記録だけでは分からない使用関係が存在することがあります。源泉井戸を設置するための土地賃貸借契約、井戸周辺を使用する契約、引湯管を敷設するための契約、温泉水の供給契約、分湯契約、管理通路への立入りを認める契約などです。
契約書を確認するときは、契約の名称ではなく、対象と権利内容を確認します。「温泉利用契約」と記載されていても、温泉水の供給を受ける権利だけなのか、源泉施設の維持管理、土地への立入り、配管の敷設や更新まで含むのかは契約ごとに異なります。
対象土地については、所在地、地番、旧地番、面積、契約締結時の所有者、添付図面を確認します。契約締結後に分筆、合筆、換地、地番変更が行われている場合は、現在の登記記録との対応表を作成します。
契約書に「井戸を中心とする一定範囲」「源泉敷地」「専用部分」「管理区域」「境界」といった表現があっても、それが登記上の筆界を意味するとは限りません。契約当事者間の使用範囲を示す線である可能性があります。
契約範囲と筆界は別々に整理します。契約書の添付図面に描かれた使用範囲を、そのまま地籍調査の筆界として採用してはいけません。反対に、地籍調査で筆界が確認されたからといって、土地賃貸借、地役権、配管敷設契約、引湯契約などが当然に消滅するわけでもありません。
次に、温泉法上の資料を確認します。温泉を湧出させる目的で土地を掘削する場合は、原則として都道府県知事の許可が必要です。許可申請者は、掘削に必要な土地を掘削のために使用する権利を有する者でなければなりません。既存の湧出路を増掘する場合や、湧出量を増加させるために動力を装置する場合にも許可制度があります。([e-Gov 法令検索][4])
温泉源から反復継続的に温泉を採取する場合は、採取場所ごとに採取許可を受けるか、可燃性天然ガスの濃度が災害防止措置を必要としないものとして確認を受ける必要があります。また、温泉を公共の浴用または飲用に供する場合は、所管行政庁の利用許可が必要です。利用許可に関する事務は、地域によって都道府県のほか、政令で定める市や特別区が担当する場合があります。([e-Gov 法令検索][4])
確認候補となる資料には、掘削許可、増掘許可、動力装置許可、採取許可、可燃性天然ガス濃度確認、温泉利用許可、それぞれの申請書、位置図、配置図、変更関係書類、承継関係書類、工事完了または廃止の届出などがあります。
これらの資料から、申請者または許可を受けた者の名称、源泉所在地、採取場所、施設位置、申請時の地番、設備構成などを確認し、現在の登記記録と現地施設に対応付けます。
ただし、掘削許可、採取許可、利用許可の名義人が、土地所有者や温泉権者であるとは限りません。掘削許可の申請には土地を掘削のために使用する権利が必要ですが、その権利は土地所有権に限られず、契約内容に基づく権利である場合もあります。環境省の逐条解説も、土地所有権、地上権、地役権、借地権などが問題になり得ることを示しています。
行政資料の位置図も、筆界証明資料として作成されたものとは限りません。縮尺、測量精度、基準点、作成年が不明な図面は、施設の概略位置を確認する参考資料として扱い、筆界判断の根拠資料と混同しないようにします。
契約書と行政資料の名義が異なる場合は、直ちに違法や無効と判断せず、役割分担や承継経緯を確認します。土地所有者、掘削許可を受けた者、採取者、温泉供給者、利用施設の運営者が別々であることはあり得ます。
一方で、許可を受けた法人が解散している、相続や合併後の手続が未確認である、施設譲渡後も旧名義の書類しかない場合は、現在の管理責任者と所管行政庁を確認します。地籍調査担当者が許可の有効性を独自に判断せず、資料上の不一致として記録し、照会先を明確にします。
確認項目4 立会い内容と未確定事項を記録する
四つ目の確認項目は、立会いで確認できた内容と、確認できなかった内容を分けて記録することです。
温泉が関係する土地の立会いでは、筆界についての話と、温泉に関する権利や施設管理についての話が混ざりやすくなります。土地所有者が筆界案を確認していても、温泉事業者が配管管理への影響について意見を述べる場合があります。反対に、施設の利用範囲には争いがなくても、隣接土地所有者間で筆界の認識が一致しない場合があります。
記録では、誰が、どの資格で、何について説明または確認したのかを区別します。「関係者全員が合意した」と一括して記載するのではなく、土地所有者等が筆界案を確認したのか、施設管理者が設備位置を説明したのか、温泉利用者が契約上の使用範囲について意見を述べたのかを明確にします。
立会記録には、確認日、場所、対象地番、出席者、出席資格、代理権の根拠、使用資料、確認した筆界点、既設標識、源泉施設との位置関係、立入制限、安全上の注意、関係者の意見を記載します。
代理人が立ち会う場合は、委任の範囲を確認します。現地案内だけを委任されているのか、筆界案の確認まで委任されているのかによって扱いが異なります。温泉施設の管理担当者であることだけを理由に、土地所有者の代理人として扱わないようにします。
筆界点が源泉施設内や配管付近にある場合は、確認方法も記録します。現地で直接確認したのか、周辺の測量点と図面から位置関係を確認したのか、施設管理上または安全上の理由で立ち入れなかったのかを残します。
筆界標示杭などを設置しなかった場合は、その理由を記録します。地中配管との干渉、高温設備、稼働中の機械、立入制限など、客観的な事情を明確にし、代替となる位置管理方法がある場合は、それも資料に関連付けます。
温泉権に関する主張が出た場合は、筆界確認と分けて記録します。「この範囲を長年、源泉管理用地として使用している」という主張は、現況や占有状況を示す事情にはなりますが、それだけで筆界がその線にあると決まるわけではありません。
筆界の調査では、登記記録、登記所備付地図、地積測量図、既存の地籍成果、過去の境界資料、地形や地物などを確認します。温泉施設の使用実態や関係者の説明は参考情報として整理できますが、施設利用範囲と筆界が一致するという前提を置かないことが重要です。([国土交通省][3])
温泉関係者から「温泉を使う権利があるので土地も所有している」といった主張があった場合は、温泉利用関係と土地所有権が混同されていないかを確認します。反対に、土地所有者から「自分の土地だから配管を直ちに撤去できる」といった主張があっても、契約、地役権、賃借権、慣習上の権利などの検討が必要になる可能性があります。
地籍調査の場で解決できない私法上の争点について、無理に結論を出してはいけません。筆界について資料が不足している場合や、関係者の確認が得られない場合は、その状況を記録し、実施主体の手続に従って追加調査や筆界未定などの取扱いを検討します。
現行の地籍調査には、現地立会いによらず図面等で筆界案を確認する方法があります。また、現地調査等の通知を複数回行っても反応がない所有者等に筆界案を送付し、20日以上意見の申出がない場合に確認したものとみなす制度も設けられています。ただし、通知、資料、対象者などの要件を満たして実施主体が適用する制度であり、関係者に異議がある場合や、筆界案を作成する根拠が不足する場合に機械的に適用できるものではありません。([国土交通省][7])
立会い後は、写真番号、筆界点番号、図面上の位置、発言者、確認内容が対応するように記録を整理します。後日、施設改修や契約上の紛争が起きても、地籍調査で確認した事項と、参考情報として聞き取った事項を区別して説明できる状態にします。
温泉地の地籍調査で起こりやすい認識違い
温泉地の地籍調査では、長期間の施設利用によって、現況、登記情報、契約上の利用範囲が異なっていることがあります。
代表的な認識違いは、源泉施設のフェンスがそのまま筆界だと思われているケースです。フェンスは、安全管理や第三者の立入り防止を目的として、管理に必要な範囲へ設置されることがあります。筆界に沿っている場合もありますが、契約上の使用範囲や作業スペースに合わせて設置されている場合もあります。
引湯管の位置が筆界だと思われるケースにも注意が必要です。配管ルートは、勾配、施工性、道路横断、保守性、既存構造物などを考慮して決められます。筆界と平行に見えても、境界を示すために設置されたものとは限りません。
源泉建屋の壁面や基礎外周も同様です。筆界から離して建てられている場合もあれば、古い施設では筆界付近に設置されている場合もあります。建物の角を筆界点とみなすには、地積測量図、境界確認書、施工時の測量資料など、別の根拠が必要です。
「温泉法上の許可を持っている人が土地所有者または温泉権者である」という認識も避けます。許可資料は施設位置や管理主体を調べる重要な資料ですが、採取許可は私法上の温泉権や採取権を発生させるものではありません。
反対に、「登記上の土地所有者であれば温泉も自由に扱える」とも限りません。土地賃貸借、地役権、温泉供給契約、分湯契約、組合規約、地域の慣習などが関係している可能性があります。権利の成否や第三者への対抗関係は、個別の資料と事実関係に基づく法的検討が必要です。
古くからの温泉地では、書面が十分に残っておらず、地域の慣行や関係者の記憶に基づいて管理されている場合があります。聞き取りは重要ですが、誰から、いつ、どのような内容を聞いたのかを記録し、登記資料、図面、過去の写真、契約書、行政資料と照合します。
源泉名と土地の地番が似ているため、同じ範囲を示すと誤解されることもあります。源泉名は管理上の名称であり、土地の地番や筆界とは別の体系です。一つの源泉から複数施設へ供給している場合や、複数源泉をまとめて管理している場合もあります。
過去の契約書に記載された面積と登記面積が一致しないこともあります。契約面積が概算であった、当時の公簿面積を使用した、分筆や合筆が行われたなど、複数の原因が考えられます。面積が異なるという事実だけで、契約または地籍調査成果のどちらかが誤りだと断定しないようにします。
現地立会いまでに進めたい実務手順
温泉が関係する土地では、現地立会いの当日に初めて関係資料を見るのではなく、事前準備を進めることが重要です。
最初に、対象地と隣接地の登記事項証明書、登記所備付地図、公図、地積測量図、既存の地籍調査成果、境界確認書などを収集します。分筆、合筆、換地、地番変更の履歴がある場合は、旧地番と現地施設の対応を整理します。
次に、航空写真、現況図、道路台帳、施設配置図などを参考に、源泉井戸、建屋、配管、道路、水路、擁壁、フェンスの概略位置を確認します。この段階で筆界を決めるのではなく、現地で確認すべき施設と安全上の注意点を洗い出します。
その後、土地所有者等へ聞き取りを行い、源泉施設の所有者、管理者、土地の賃借人、採取者、温泉供給者、引湯管管理者、管理組合などを確認します。土地所有者が設備管理の詳細を把握していない場合は、施設管理責任者の連絡先を確認します。
温泉関係者が判明したら、源泉位置図、配管図、施設配置図、契約書、許可関係資料、工事履歴の有無を問い合わせます。原本や全ページの提供が難しい資料では、対象土地、当事者、契約期間、利用範囲、施設位置など、地籍調査に必要な部分を確認できる方法を検討します。
現地踏査では、既設境界標の有無、源泉施設への進入経路、立入制限、危険箇所、配管の表示、測量機器を設置できる場所を確認します。施設が稼働中の場合は、立会い日時、作業範囲、立会いが必要な施設担当者を調整します。
立会い資料では、筆界案、施設位置、契約上の使用範囲、配管ルートを異なる線種や注記で区別します。同じ種類の線で表示すると、参加者が配管位置や契約範囲を筆界と誤認するおそれがあります。
立会い開始時には、確認対象が筆界であり、温泉供給条件、契約の有効性、施設所有権を最終判断する場ではないことを説明します。そのうえで、土地所有者等から筆界に関する認識を確認し、施設管理者から設備位置と安全上の注意を確認します。
意見が一致しない場合は、その場で長時間の契約解釈を続けず、相違点を特定します。筆界点の位置が争われているのか、配管の使用継続が争われているのか、施設への立入りが争われているのかを分けて記録します。
立会い終了後は、現地記録と既存資料を照合します。説明と図面が一致しない場合は、追加資料や工事履歴を確認します。記憶だけを根拠に図面を修正せず、変更の根拠、確認者、確認日を残します。
地籍調査後の資料管理で注意すること
温泉が関係する土地では、地籍調査終了後も、源泉施設の改修、土地の売買、相続、道路工事、配管更新などの際に記録が参照される可能性があります。
資料を保存するときは、地籍調査の正式な成果、筆界調査の根拠資料、温泉施設に関する参考資料、関係者からの聞き取り記録を区別します。契約書や配管図が筆界調査の参考になった場合でも、それ自体が地籍図や地籍簿の一部になるとは限りません。
写真には、撮影日、撮影位置、撮影方向、対象地番、筆界点番号、施設名を関連付けます。源泉井戸や配管は改修で外観やルートが変わる可能性があるため、いつの現況を記録した資料かが分かるようにします。
関係者から受領した契約書、許可書、配管図には、個人情報や営業上の情報が含まれる場合があります。保存期間、保存場所、閲覧権限、複製の可否、返却方法を、実施主体の情報管理規程に従って管理します。
地籍調査の結果、地番、地目、面積などが整理された場合でも、温泉関係の契約書や許可資料の変更が自動的に完了するわけではありません。変更や届出の要否は、契約当事者と所管行政庁が個別に確認できるよう、必要な情報を整理します。
源泉施設の近くに筆界標示杭などを設置した場合は、土地所有者と施設管理者が位置を確認できる記録を残すと、設備更新時の損傷防止に役立ちます。安全上の理由などで標識を設置しない場合は、座標、周辺点、点の記など、実施主体が採用した復元方法を明確にします。
スマートフォンなどで撮影した位置情報付き写真は、現況共有を効率化する補助資料として利用できます。ただし、端末の位置情報は測量成果と同じ精度を保証するものではありません。筆界点の位置管理には、地籍測量の成果、基準点、点の記など、所定の精度と手続を満たす資料を使用します。
まとめ
地籍調査で土地に温泉権が絡む場合は、土地の筆界、温泉に関する私法上の権利、温泉法上の許可や確認、現地施設の位置を分けて整理する必要があります。
一つ目の確認項目は、土地所有者と温泉関係者を区別することです。登記上の所有者、土地の賃借人、源泉管理者、採取者、温泉供給者、引湯管管理者、施設運営者が異なる場合があります。筆界確認に関与する者と、施設の現況を説明する者を分けて整理します。
二つ目は、源泉井戸と関連施設の位置を確認することです。井戸、機械室、貯湯設備、引湯管、管理通路などが複数の土地にまたがる可能性があります。フェンス、建屋外周、配管ルートを、そのまま筆界と判断してはいけません。
三つ目は、契約書と行政上の許可や確認を照合することです。契約上の利用範囲と、掘削、増掘、動力装置、採取、公共利用に関する資料を、現在の地番や現地施設と対応付けます。ただし、契約範囲や行政資料の位置図は、筆界を直接証明する資料とは限りません。
四つ目は、立会いで確認できた事項と未確定事項を分けて記録することです。土地所有者等による筆界の確認、施設管理者による現況説明、温泉利用者による契約上の主張を混同せず、出席者の資格と確認内容を具体的に残します。
温泉地の地籍調査では、施設を安全に扱いながら、筆界と利用範囲を混同しないことが最も重要です。位置情報付き写真や現況図は共有と記録に役立ちますが、筆界の確定や復元は、地籍調査の手続と測量成果に基づいて行います。