相続人が多数いる土地で立会前の整理が重要な理由
地籍調査は、主に市町村などが実施主体となり、一筆ごとの土地について所有者、地番、地目を調査し、筆界の位置と面積を測量する事業です。一筆地調査では、登記所に備え付けられた地図や地図に準ずる図面、既存の測量資料、現地の境界標や地形、土地所有者等の確認などを総合して調査を進めます。
一般には「境界立会い」と呼ばれますが、地籍調査で主に確認するのは登記上の土地の区画を示す筆界です。塀、植栽、耕作範囲などの利用上の境や、当事者間で合意した所有権の範囲が、必ずしも筆界と一致するとは限りません。実務担当者は、現況の利用線だけで位置を決めず、資料と関係者の認識を照合する必要があります。
登記名義人が生存し、本人が土地の位置や過去の経緯を把握している場合は、立会いの連絡先を比較的整理しやすいでしょう。しかし、登記名義人が亡くなり、相続登記が終わっていない土地では、現在の関係者を確認する作業から始めなければなりません。
登記名義人の死亡後、その配偶者や子も亡くなっている場合には、数次相続によって関係者が十数人、場合によってはさらに多くなることがあります。相続人が全国各地や海外に居住している、住所が変わっている、親族間の交流が途絶えているといった事情が重なると、通知、日程調整、資料共有、委任書類の確認に時間を要します。
土地を管理している人、固定資産税に関する通知を受け取っている人、親族間の連絡役となっている人がいても、その事実だけで他の相続人を代理して筆界を確認できるとは限りません。税務上の代表者、親族間の連絡担当、地籍調査上の代理人は役割が異なるため、分けて確認する必要があります。
遺言、遺産分割、相続放棄などの事情がなく、相続登記もされていない場合、遺産である不動産は共同相続人の共有状態として扱われます。ただし、具体的な相続人の範囲や持分は、戸籍、遺言、遺産分割の有無などによって変わります。地籍調査の担当者が独自に法律関係を確定するのではなく、実施主体の手続と必要に応じた専門的確認に基づいて整理することが重要です。
地籍調査の立会いは、相続人間で土地の取得者を決める遺産分割協議とは別の手続です。地籍調査を行っても、相続人間の持分や取得者が自動的に決まるわけではなく、相続登記が完了するわけでもありません。この違いを最初に説明しておくと、立会いへの参加が遺産の取得意思や相続放棄の判断に直結するという誤解を減らしやすくなります。
相続人が多数いる土地では、立会日を先に決めるより、登記名義、相続の発生状況、連絡先、代表者の権限、未確認事項を順番に整理することが重要です。準備が整っていれば、委任の不足や関係者の見落とし、資料の認識違いによる再立会いを防ぎやすくなります。
手順1 登記名義と相続の発生状況を確認する
最初に、対象土地の登記記録を確認し、誰が登記名義人となっているかを把握します。現地を管理している人や税金に関する連絡を受けている人の説明だけで現在の権利関係を判断せず、土地の所在、地番、地目、地積、名義人の氏名と住所、共有名義の有無を土地ごとに整理します。
同じ名義人が調査区域内に複数の土地を所有している場合や、一筆が当初から共有名義となっている場合もあります。地番を取り違えると、通知書、位置図、委任状、立会記録の対象が食い違うため、土地ごとに管理番号を設け、関連書類をひも付ける方法が安全です。
登記名義人が亡くなっている場合は、死亡年月日と、その時点で相続人となり得る者を確認します。その後に相続人の一部が亡くなっていれば、さらに相続が発生している可能性があります。最初の相続だけを確認して終わらせず、立会い時点までの相続関係をたどる必要があります。
例えば、登記名義人である父の死亡後、相続登記をしないまま長男も亡くなった場合、長男が承継した地位は、長男の相続人へ引き継がれている可能性があります。登記名義人の存命中の子だけへ通知し、すでに亡くなった子の配偶者や子を一律に除外すると、必要な関係者を見落とすおそれがあります。
相続関係の確認には、戸籍関係書類、戸籍の附票や住民票に関する情報、遺言書、遺産分割協議書、相続放棄に関する書類、相続登記の状況などが関係します。ただし、これらの取得、閲覧、利用は、実施主体が法令と内部手続に基づいて行う必要があります。委託事業者の担当者が、権限や利用目的を確認しないまま個人情報を収集してよいわけではありません。
遺言書や遺産分割協議書が提示された場合は、書類の有無だけで取得者を断定せず、対象不動産、作成時期、関係者、登記状況を確認し、実施主体の取扱いに従います。書類の有効性や相続人間の権利関係に争いがある場合は、行政内部の担当部署や司法書士、弁護士などへの確認が必要になることがあります。
相続放棄をしたという申出があっても、「家族に土地はいらないと伝えた」「遺産分割の話合いに参加していない」といった事情だけで、法律上の相続放棄が成立したとは判断できません。家庭裁判所での手続の有無と、実施主体が確認を求める資料を確かめます。
遺産分割によって特定の相続人が土地を取得する内容が決まっていても、相続登記が未了の場合に誰を立会関係者とするかは、提出資料や自治体の運用によって異なることがあります。担当者が独自に立会人を限定せず、遺産分割協議書などの確認方法と必要書類を事前に実施主体へ確認することが大切です。
この段階では、対象土地を「名義人が生存」「相続登記済み」「名義人死亡で相続登記未了」「数次相続あり」「相続関係を確認中」などに区分すると、その後の連絡と書類確認を進めやすくなります。
固定資産税に関する代表者や納税管理の担当者が判明している場合、その情報は連絡先を探す手掛かりにはなりますが、単独所有者や正式な代理人であることを示すものとは限りません。登記上の関係、相続上の関係、税務上の連絡先を別欄で管理すると誤認を防ぎやすくなります。
手順2 相続人の範囲と連絡経路を整理する
登記名義と相続の発生状況を確認した後は、立会いに関係する相続人の範囲と連絡経路を整理します。相続人の人数が多い案件では、氏名を一覧にするだけでは不十分です。どの相続から関係しているか、連絡が届いているか、土地の状況を知っているか、本人が立会うか、代理人を立てるかを分けて記録します。
相続関係は、登記名義人を起点にした関係図で整理すると分かりやすくなります。配偶者、子、代襲相続が関係する可能性のある者、後に亡くなった相続人とその相続人をつなぎ、死亡者と存命者を区別します。数次相続がある場合は、相続開始の順序が分かるように年月日も記録します。
この関係図は、地籍調査の連絡と手続を管理するための作業資料です。養子、認知、代襲相続、相続放棄、遺言、廃除などが関係し、相続人の範囲に疑義がある場合は、担当者の推測で確定しないようにします。
連絡先一覧には、氏名、住所、連絡方法、登記名義人との関係、通知発送日、配達状況、回答日、回答内容、委任書類の提出状況を記録します。本人が立会予定なのか、代表者へ委任する予定なのか、判断を保留しているのかも区別すると、進捗を共有しやすくなります。
相続人の一人が親族への連絡を取りまとめる場合があります。この連絡役は調整上重要ですが、親族へ情報を転送する権限と、筆界確認を代理する権限は同じではありません。連絡担当、日程調整担当、正式な立会代理人を分けて記録します。
土地の位置や過去の利用状況を知っている人も確認します。現在の相続人が全員遠方に住み、土地を見たことがない場合には、近隣に住む親族、過去の管理者、耕作者、草刈りをしていた人などが、境界標や土地利用の経緯に関する情報を持っていることがあります。
ただし、現地に詳しい人の説明は参考情報です。長年草刈りをしてきた範囲、農作業に使っていた範囲、地域で慣習的に通行してきた範囲が、そのまま筆界と一致するとは限りません。聞き取り内容は、登記所の資料、既存の測量図、境界標、地形、隣接土地所有者等の認識と照合します。
最初の連絡では、地籍調査の目的、対象土地、登記名義人が亡くなっているため関係者の確認が必要であること、今後予定される立会いまたは書面確認、委任手続の概要を簡潔に伝えます。説明なしに委任状や同意だけを求めると、税負担、相続放棄、遺産分割の話と混同されるおそれがあります。
立会いへの参加が相続の承認や土地の取得を決めるのかと質問された場合は、地籍調査は相続人間の取得者を決める手続ではないと説明します。ただし、相続の承認、放棄、遺産分割の効力などに関する個別判断は行わず、必要に応じて法務局や専門家への相談を案内します。
通知が返送された場合は、返送理由、確認日、再調査の内容を記録します。通知は届いたが返答がない人と、住所が不明で通知自体が届いていない人では、適用できる手続が異なる可能性があります。
相続人の氏名、住所、親族関係は重要な個人情報です。業務上必要な担当者だけが閲覧できる状態で管理し、相続人全員の住所や連絡先を他の相続人へ一括開示しないようにします。メールで複数人へ連絡する場合も、宛先が相互に見えない方法を用いるなど、実施主体の情報管理ルールに従います。
手順3 代表者と委任手続きを実施主体に確認する
相続人の人数と連絡状況が分かったら、誰が立会いに参加し、誰が代理人となるかを整理します。相続人全員が参加できない場合、代表者や代理人を定める運用を採用している自治体は多くありますが、必要書類と成立要件は一律ではありません。
自治体によっては、相続人代表者届、代表相続人選任通知書、相続人申出書、委任状などの専用様式を使用します。欠席する相続人ごとの委任状を求める運用もあれば、相続人全員が記載する代表者選任書類を使用する運用もあります。全国共通の一つの様式があると考えず、対象区域の実施主体へ確認する必要があります。
委任状の署名や押印、原本提出、本人確認資料、提出期限、対象地番の記載方法も自治体ごとに異なります。過去に別の自治体や別事業で使用した委任状をそのまま流用すると、不備になる可能性があります。
代表者を選ぶ際は、年長者や近隣居住者という理由だけで決めず、土地の位置を把握しているか、資料を理解できるか、他の相続人へ確認内容を説明できるか、反対意見を正確に伝えられるかを確認します。相続人間で境界に関する意見が対立している場合は、代表者選任の方法自体を慎重に検討する必要があります。
委任する権限の範囲も重要です。現地立会いへの参加、筆界の確認、境界標の設置に関する確認、関係書類への署名、資料の受領、再立会い、成果の閲覧など、どこまで含むかは様式と実施主体の取扱いに従います。権限が不明確な場合、当日に代理人が対応できず、再度書類を集めることになりかねません。
代表者が参加する場合でも、他の相続人へ何も知らせず、代表者の判断だけで進めることが安全とは限りません。立会い前に対象地番、位置図、確認予定の境界点、分かっている資料を共有し、了承済みの事項、代表者へ判断を任せる事項、保留事項、反対意見を分けておきます。
相続人が多い案件では、委任書類の収集に時間がかかります。立会日の直前に依頼するのではなく、相続関係の確認ができた段階から、実施主体の様式と提出期限を案内します。遠方や海外に居住する相続人がいる場合は、郵送日数や署名方法の確認も必要です。
提出された書類は、委任者、代理人、対象地番、委任事項、作成日、署名等の必要事項を照合します。地番がない、対象土地が違う、代理人名が立会予定者と異なる、委任範囲が不足しているといった不備は、立会日前に確認します。
固定資産税に関する代表相続人として登録されている人でも、それだけで地籍調査の代理権が認められるとは限りません。税務上の届出を、地籍調査の代表者選任書類や委任状の代わりにできるかは、必ず実施主体へ確認します。
手順4 境界資料と現地状況を事前に共有する
代表者と委任の方針が決まったら、立会日前に境界資料と現地状況を共有します。相続人が多数いる土地では、当日に初めて土地を見せて、その場で判断を求めても確認できないことがあります。
共有する資料としては、対象土地の位置図、地番を示した図面、登記所の地図や地図に準ずる図面を基にした調査図、既存の地積測量図、過去の境界確認資料、現地写真、確認できている境界標の位置などが考えられます。資料ごとに作成時期、作成者、用途、精度が異なるため、確定資料なのか参考資料なのかを分けて説明します。
特に、公図と呼ばれる地図に準ずる図面の線を、現地の正確な筆界としてそのまま示すのは適切ではありません。作成時期や地域によって精度が異なるため、図面上の線、現地の塀や水路、現在の利用範囲、境界標の位置を区別して示します。
現地写真には、撮影方向、撮影日、境界点番号を付けます。「道路側の角」「山側の杭」といった表現だけでは、人によって想定する場所が変わります。図面上の点番号と写真を対応させ、どの点からどの点までを確認するのかを分かるようにします。
既設の境界標がある場合は、標識の種類、状態、周囲の状況を記録します。杭が傾いている、工事で移動した可能性がある、土砂や草木に埋もれているといった状態も写真に残します。境界標らしい物があるという理由だけで正しい筆界位置と断定せず、関連資料や関係者の認識と照合します。
土地の状況を知る相続人や関係者からは、過去に塀を設置した経緯、水路や農道の位置が変わった時期、以前存在した境界標、隣接所有者との話合いなどを聞き取ります。聞き取り内容には、発言者、確認日、情報の出所を記録し、客観的資料と区別します。
資料を見ても判断できない相続人へ、無理に事前同意を求めてはいけません。「現地を見なければ分からない」「隣接土地所有者の説明を聞きたい」「過去の図面を確認したい」という回答も重要な情報です。保留事項として記録し、立会当日に説明できるよう準備します。
隣接土地側にも相続人が多数いる場合は、双方の連絡、代表者、委任書類、資料共有の状況を確認します。一方だけ準備が整っても、相手側の確認ができなければ筆界調査が進まないことがあります。
道路、水路、公園などの公有地に接する場合は、管理者側の資料や立会いが必要になることがあります。民有地同士の境界と同じ連絡先や判断手続になるとは限らないため、管理部署を確認して別に調整します。
現地確認前に草木や障害物の除去が必要な場合でも、所有者や管理者の承諾なく樹木を伐採したり、境界標と考えられる物を動かしたりしてはいけません。作業範囲、実施者、復旧方法を確認し、必要に応じて作業前後の写真を残します。
資料共有の目的は、立会前に筆界を一方的に決めることではありません。確認対象と根拠資料を明確にし、相続人が判断に必要な情報へアクセスできる状態にすることです。不確かな点や未確認部分も含めて伝えることで、参考線を確定線と誤解するリスクを下げられます。
手順5 立会当日の確認事項と記録方法を整える
立会当日は、参加者の氏名、本人または代理人の区分、対象地番、代理関係を最初に確認します。本人確認資料の提示や委任書類の原本確認が必要かどうかは、実施主体の運用に従います。
予定していた代表者とは別の家族が来た場合、その人が親族であるという理由だけで代理権があるとは判断できません。権限を確認できない場合は、参考人として説明を聞くのか、正式な確認は後日にするのかを実施主体と判断します。
現地では、対象土地と隣接土地の位置関係を説明し、確認する境界点の順番を共有します。特定の杭だけを示して同意を求めるのではなく、登記所の資料、既存の測量図、境界標、地形、構造物、関係者の説明をどのように照合したかを伝えます。
境界点ごとに、確認の根拠と経緯を記録します。既設の標識を双方が確認した、過去の地積測量図と整合した、隣接土地所有者等の認識が一致した、資料から筆界案を検討したなど、判断材料を具体的に残します。
代表者が立会う場合は、他の相続人から聞いている内容も確認します。全員が資料を見ているのか、代表者に判断を委ねているのか、一部に反対意見や保留があるのかを区別します。「たぶん問題ない」という回答だけで、必要な関係者全員の意思を確認したと扱わないようにします。
立会いの途中で新しい境界標、古い図面、関係者の異なる説明が見つかった場合は、その場で結論を急がず、追加確認や再立会いを検討します。事前に共有されていなかった位置について、遠方の相続人へ確認する機会を設けずに同意を求めると、後日の異議につながるおそれがあります。
意見が一致しない点は、単に「不同意」と記すだけでなく、誰がどの位置を主張したか、根拠は何か、どの資料が食い違うかを記録します。利用範囲の認識違いなのか、既設杭の真正に疑問があるのか、公図と現況の不一致なのかを整理すると、次の調査方針を決めやすくなります。
写真は、境界点の近景だけでなく、道路、建物、水路、法面など周囲との位置関係が分かる遠景も撮影します。点番号、撮影方向、撮影日時、撮影者を管理し、図面と対応させます。
確認書類への署名や押印を求める場合は、対象地番、確認した内容、保留事項、代理人が署名できる範囲を説明します。署名欄だけを示して手続を進めず、何について確認した書類なのかを本人または代理人が理解できるようにします。
立会い後は、参加者、対象地番、確認した境界点、未確認点、追加提出資料、再確認の要否を整理します。代表者から他の相続人へ説明してもらう場合も、担当者側で同じ図面や記録を用意し、伝達内容が変わらないようにします。
関係者による確認が得られず、資料調査、再通知、公告など適用可能な手続を行っても筆界を確認できない場合は、筆界未定として処理される可能性があります。筆界未定になると、後の分筆や合筆、地積更正などに支障が生じ、解消のために関係者間の確認、測量、登記手続などが必要になる場合があります。
立会いでは同意を急がせるのではなく、必要な資料と検討時間を確保し、再立会い、書面確認、実施主体が利用できる法定の手続を適切に選ぶことが重要です。
欠席者や無反応の相続人がいる場合の対応
相続人が多数いる土地では、全員から速やかに回答を得られるとは限りません。通知は届いたが返事がない人、郵便が返送された人、連絡先が分からない人、調査に関わりたくないと回答した人を分けて整理します。
立会日に参加しない相続人がいる場合は、代表者への委任、別日の立会い、図面による確認など、どの方法を利用できるかを実施主体へ確認します。現地立会い以外の方法を採用できる場合でも、対象地番、筆界案、回答期限、本人または代理人の確認方法を明確にします。
返事がないことを、現場担当者が当然の同意として扱ってはいけません。通知の発送日、配達状況、再通知、電話連絡、送付した資料、回答期限を記録し、実施主体が定める手続に従います。
2024年6月施行の地籍調査作業規程準則の改正により、現地調査等の通知を複数回行っても反応がない所有者等について、一定の手続の下で筆界を確認したものとみなして調査を進める仕組みが設けられました。筆界案を送付し、20日以上の期間を設けても意見の申出がないことなどが要件となるため、単なる無回答だけで直ちに適用できる制度ではありません。
所有者等の所在を必要な方法で調査しても分からない場合には、客観的資料を総合して筆界案を作成し、公告などの手続を経て調査を進められる場合があります。所在不明者が一部だけなのか、関係者全員の所在が不明なのかによっても取扱いが異なります。
これらの手続を適用するかどうかは実施主体が判断します。委託を受けた調査担当者は、通知、探索、資料調査、聞き取り、筆界案作成の経緯を正確に記録し、判断に必要な情報を提出します。
海外在住者がいる場合は、書類の送付期間、連絡方法、署名や本人確認の方法を早めに確認します。未成年者、成年被後見人などが関係する場合は、法定代理人の関与や利益相反への対応が必要になる可能性があるため、担当者だけで判断せず実施主体や専門家へ確認します。
調査期間中に相続人が亡くなった場合は、新たな相続が発生します。すでに提出された委任状や確認書類をそのまま使用できるとは限らないため、立会い直前や再立会い前に関係者の状況を確認します。
相続人同士の意見が一致しない場合の進め方
相続人が多数いる土地では、日程だけでなく筆界について意見が分かれることがあります。長年土地を管理してきた相続人と、遠方に住む相続人で認識が異なる場合や、売却、遺産分割、費用負担をめぐる対立が立会いへ影響する場合もあります。
最初に、筆界位置に関する意見の相違と、誰が土地を取得するか、売却するかという相続人間の方針対立を分けます。「土地を売りたくない」「特定の人に取得させたくない」という意見は、必ずしも筆界位置への反対ではありません。逆に、遺産分割方針が一致していても、隣接地との筆界が不明な場合はあります。
筆界に関する主張が異なる場合は、それぞれの主張位置を図面上に示し、根拠を確認します。既設の境界標、過去の測量図、塀や水路の位置、耕作範囲、売買時の資料、近隣者の説明などを分けて記録します。
代表者が一つの位置を主張していても、他の相続人から明確な反対意見が出ている場合は、相続人間で確認が済んでいるものとして扱わないようにします。代表者の権限、反対意見の内容、資料の食い違いを実施主体へ報告し、追加資料の収集や再確認を検討します。
親族間の感情的な対立が強い場合、立会現場で遺産分割の話合いまで始めると、筆界確認が進まなくなります。担当者は立会いの目的と確認範囲を説明し、相続財産の配分や売却方針は別の手続で協議するよう案内します。
地籍調査の担当者には、相続人間の紛争を裁定したり、民事上の所有権の帰属を最終判断したりする権限はありません。確認できた事実、使用した資料、各人の主張、未確認事項を記録することが重要です。
筆界について確認できない場合は、無理に署名を求めず、保留または不同意として扱います。状況に応じて、土地家屋調査士、司法書士、弁護士への相談、法務局の筆界特定制度など、適切な専門窓口や手続を案内します。
立会後に保存する資料と相続登記へのつなぎ方
立会い後は、相続関係の整理資料、通知履歴、委任状、代表者選任書類、立会記録、確認図、写真、追加資料、保留事項を案件ごとに保存します。相続人が多数いる土地では、後日別の相続人から確認経緯を尋ねられる可能性があるため、誰が、どの権限で、どの資料を確認したかを説明できる状態にすることが重要です。
記録には、対象地番、立会日時、参加者、代理関係、確認した境界点、使用資料、説明内容、関係者の意見、追加確認の要否を含めます。再立会い、書面確認、筆界案の送付、公告などを行った場合は、最初の記録と関連付けます。
相続人へ結果を伝える場合は、代表者の口頭説明だけに頼らず、対象地番と確認位置が分かる図面や記録を用意します。他の相続人の住所、連絡先、戸籍情報などを含む資料は、必要な範囲を超えて開示しないようにします。
地籍調査の成果が認証されて登記所へ送付されると、登記所では成果に基づき地図や登記記録の地積、地目などを改める手続が行われます。ただし、地籍調査だけで、亡くなった登記名義人から相続人へ所有権名義が変更されるわけではありません。相続による所有権移転の登記は別途必要です。
相続登記は2024年4月1日から申請が義務化されています。相続や遺言により不動産を取得した相続人は、自己のために相続が開始したことと、その不動産の所有権を取得したことを知った日から、原則として3年以内に相続登記を申請する必要があります。遺産分割が成立して不動産を取得した場合にも、成立日から3年以内にその内容を反映した登記申請が必要です。
2024年4月1日より前に開始した相続も義務化の対象です。この場合には経過措置があるため、具体的な期限は相続開始や認識の時期に応じて法務局へ確認する必要があります。
期限内に通常の相続登記を行うことが難しい場合には、相続人申告登記によって基本的な申請義務を履行できることがあります。ただし、相続人申告登記は不動産の持分や最終的な権利関係を公示する登記ではありません。遺産分割が成立した後は、その内容に応じた相続登記が別途必要であり、遺産分割成立後の追加的な申請義務を相続人申告登記だけで履行することはできません。
地籍調査の担当者が相続登記を代理するわけではありません。相続登記が未了の土地については、地籍調査と相続登記の違いを説明し、法務局、司法書士などの相談先を案内することが、将来の所有者不明化を抑えることにつながります。
実務担当者が避けたい5つのミス
一つ目のミスは、固定資産税に関する代表者や親族の連絡役を、単独の所有者または正式な代理人として扱うことです。税務上の連絡先が判明していても、登記上と相続上の関係、地籍調査で必要な委任を別に確認します。
二つ目のミスは、「家族から任されている」という口頭説明だけで代理権を認めることです。誰が、どの土地について、どの範囲を委任したかが分からなければ、立会い後に確認の有効性を説明できません。実施主体の様式と運用に従います。
三つ目のミスは、資料を共有せずに同意や委任だけを求めることです。対象地番や確認予定の境界点が分からない状態では、相続人が何を確認し、何を任せたのか不明確になります。
四つ目のミスは、筆界確認と遺産分割を同時に解決しようとすることです。誰が土地を取得するかという問題と、登記上の筆界をどこで確認するかという問題は分けて整理します。
五つ目のミスは、通知、電話、資料送付、委任書類の不備、保留事項を記録しないことです。相続人が多い案件ほど長期化しやすく、担当者が交代する可能性もあります。記憶に頼らず、土地ごとの管理表、相続関係図、連絡履歴、委任書類、境界点別の記録を関連付けて管理します。
これらのミスを防ぐには、自治体の様式と確認手順を早い段階で統一し、担当者間で同じ管理表を使用することが有効です。書類の名称や必要人数は自治体によって異なるため、他地域の例をそのまま当てはめないようにします。
まとめ
地籍調査の対象土地について登記名義人が亡くなり、相続人が多数いる場合は、立会日を決める前の整理が重要です。
最初に登記記録を起点として、相続の発生状況と数次相続の有無を確認します。次に、相続人ごとの住所、連絡状況、土地に関する知識を整理し、親族の連絡役と正式な代理人を区別します。
全員が現地へ来られない場合は、対象区域の実施主体が定める代表者選任書類や委任状を確認します。必要な書類、署名や押印、対象地番、委任範囲は自治体ごとに異なるため、全国一律の方法と考えないことが大切です。
立会い前には、位置図、調査図、既存の測量資料、現地写真、境界標の状況を共有し、確定情報と参考情報を区別します。立会当日は、参加者の権限を確認し、境界点ごとに資料、現地状況、関係者の認識を照合して記録します。
欠席者や無反応の相続人がいても、担当者が独自に同意と扱うことはできません。委任、書面確認、再通知、土地境界のみなし確認制度、所在不明者に関する公告手続など、実施主体が利用できる手続を要件に沿って選びます。
地籍調査は筆界や地積などを明確にする重要な機会ですが、相続登記や遺産分割を完了させる手続ではありません。立会後も、確認資料、代理関係、連絡経緯を保存し、必要に応じて相続登記の相談先へつなげることが、将来の所有者不明化や境界トラブルを防ぐことにつながります。