土地の地籍調査を進めていると、対象地や隣接地について「昔から通路として使っている」「前の所有者から通行を認めてもらった」「通行承諾書を交わしている」と説明されることがあります。住宅地の細い私道、農地への進入路、山林の管理道、建物の裏側へ続く通路などでは、土地の所有者と実際の利用者が異なることもあります。
このような土地では、現地に見えている通路の端がそのまま筆界なのか、通行承諾書に示された範囲を地籍調査へどう扱うのか、過去の承諾と現在の所有者との関係をどう整理するのかが問題になります。通行条件をめぐる認識差が大きい場合には、筆界を確認する立会いが通行の可否や利用条件の話し合いへ変わり、調査の目的が曖昧になることもあります。
ただし、地籍調査で調べる筆界と、私人間の承諾や契約などに基づく通行範囲は、原則として分けて整理する必要があります。通行が認められているからといって、通路の外縁が自動的に筆界になるわけではありません。また、地籍調査で筆界の位置が整理されたからといって、それだけで通行承諾の効力や通行権の有無が確定するわけでもありません。
さらに、「通行承諾」という呼び方だけでは、法的な性質を決められません。土地所有者の好意による利用許可、当事者間の契約、通行地役権、公道に至るための他の土地の通行権などでは、成立要件や当事者、承継、利用範囲の考え方が異なります。地籍調査の担当者は、権利関係を断定するのではなく、筆界の調査に必要な事実と資料を整理する立場を明確にしておくことが大切です。
本記事では、地籍調査の対象となる土地に通行承諾がある場合に確認したい4点を中心に、資料の読み方、現地での確認、当事者関係、記録上の注意点を実務担当者向けに解説します。
地籍調査と通行承諾の関係を整理する
地籍調査は、毎筆の土地について所有者、地番、地目を調査し、境界と地積に関する測量を行い、その結果を地図と簿冊にまとめる調査です。実施主体は主に市町村であり、現地調査や図面などを用いて筆界の位置を調べ、測量成果を地籍図や地籍簿として整理します。
ここでいう筆界は、土地が登記された際に、その土地の範囲を区画するものとして定められた線です。筆界は所有者同士の合意だけで自由に移動できるものではなく、所有権が実際にどこまで及ぶかを示す所有権界とは一致しない場合もあります。
一方、通行承諾は、一般に、ある土地の所有者などが他人による土地の通行を認める場面で使われる表現です。書面による契約がある場合だけでなく、口頭の合意、過去からの利用、黙認と説明される場合もあります。ただし、長年利用されている事実や「承諾があった」という当事者の説明だけで、特定の法的権利が成立していると即断することはできません。
そのため、筆界と通行範囲は一致することもあれば、一致しないこともあります。例えば、一筆の土地の中央部分だけを近隣住民の通路として利用させている場合、通路の左右の端は筆界ではありません。一つの筆の内部に、通行に使われている帯状部分があるにすぎない場合があります。
反対に、一続きに舗装された通路の内部に筆界があり、左右の土地所有者がそれぞれ所有地の一部を通路として使用させている場合もあります。現地では一つの道路状空間に見えていても、登記上は複数の筆にまたがっている可能性があります。
通路部分だけが独立した地番になっている場合や、複数人の共有地になっている場合もあります。通路の見た目だけから、所有者、地番、筆界、通行権の内容を判断することはできません。
通行に関する根拠も一様ではありません。土地所有者による利用許可、契約に基づく通行、土地の便益のために設定される通行地役権、公道に通じない土地について民法上問題となる通行などが考えられます。名称が似ていても、必要な資料や確認事項は異なります。
実務担当者は、「通行承諾がある」と聞いた段階で一つの権利関係に決めつけず、誰が、誰に対し、どの土地のどの範囲を、何の目的で、いつから、どの条件で通行させているのかを確認します。
地籍調査は、通行契約の有効性、通行地役権の成否、民法上の通行権の具体的範囲などを最終的に裁定する手続ではありません。地籍調査の担当者が一方の主張を採用して、私人間の権利関係を確定したかのように記録することは避ける必要があります。
調査の初期段階で、「今回調べる筆界」と「通行に利用している範囲」または「通行を認めたとされる範囲」は別の事項であると関係者へ説明しておくことが重要です。この区別が曖昧だと、通行を継続したい側が通路の外縁を筆界だと主張したり、土地所有者が通行条件を変える目的で筆界の位置に関する主張を変えたりすることがあります。
筆界に関する資料と通行に関する資料は、まず分けて整理します。そのうえで、同じ図面上に別の線種や注記で表示し、位置関係を比較する進め方が安全です。
確認する点1 通行承諾の根拠と条件
最初に確認する点は、通行承諾が何を根拠としているのかです。
関係者から通行承諾があると説明された場合は、通行承諾書、覚書、契約書、売買時の書類、境界確認書、相続時の引継資料、工事関係書類などが残っていないかを確認します。書面が見つかったときは、表題だけで判断せず、本文、別紙、添付図面、署名者、作成年月日を一体として確認します。
「通行承諾書」という名称でも、通行だけでなく、排水管や給水管の設置、塀や門扉の管理、通路の補修、境界に関する確認などが一つの書面に記載されていることがあります。筆界に関する記載と、通行利用に関する記載を分けて読み取る必要があります。
まず確認したいのが通行の目的です。日常生活のための徒歩通行なのか、自転車や自動車による出入りなのか、農作業や山林管理のためなのか、工事車両や資材運搬を含むのかによって、想定される利用方法は異なります。
徒歩通行が認められているからといって、自動車や重機の通行まで当然に認められているとは限りません。反対に、車両通行が認められていても、通路内での駐車、資材の仮置き、掘削、埋設物の設置まで含むとは限りません。書面の文言と作成経緯を個別に確認します。
次に、通行できる経路と幅を確認します。書面に地番だけが記載され、「対象地を通行することを認める」と書かれている場合、土地のどの部分を通るのかが明確でないことがあります。
「従来の通路を通行する」と記載されている場合も注意が必要です。書面作成時の通路と現在の通路が同じ位置とは限りません。建物の建て替え、舗装工事、擁壁工事、側溝の付け替え、植栽の成長などによって、見た目の通行経路が変化している場合があります。
幅員が数値で示されている場合は、どの位置を基準に測るのかも確認します。塀の内側、側溝の内側または外側、通路中心線など、基準の取り方によって現地での範囲が変わります。数値だけでなく、基準点や基準線を特定できるかが重要です。
添付図面がある場合は、方位、縮尺、対象地番、基準となる地物、測点、作成年月日、作成目的を確認します。手書きの略図や縮尺のない位置図は、当事者が想定したおおまかな経路を把握する資料にはなりますが、測量成果と同じ精度があるとは限りません。
図面に太い線で経路が描かれている場合、その線の幅全体が通行範囲なのか、線の中心が経路を示すのかを確認します。着色範囲も、実測した区域ではなく説明用の概略表示である可能性があります。
通行可能な期間も確認します。期限を設けずに認めたのか、特定の工事期間だけなのか、特定の人が居住または所有している間だけなのかによって、現在の関係を検討するための資料が変わります。
期限の記載がなくても、作成経緯から一時的な承諾だった可能性があります。建築工事中の資材搬入を目的とした承諾が、工事完了後の日常通行まで当然に含むとは限りません。
通行時間、門扉の開閉、鍵の管理、路面補修、除草、除雪、損傷時の修復、事故時の対応などが定められていることもあります。これらは筆界を直接示す情報ではありませんが、承諾時に想定された通路の位置や利用形態を把握する手掛かりになります。
書面が見つからない場合は、関係者から利用の経緯を聞き取ります。いつ頃から、誰が、何の目的で、どの経路を通ってきたのか、土地所有者がどのように認識していたのかを確認します。
ただし、「昔から通っている」という事実だけで、通路の外縁が筆界であると判断したり、特定の通行権が成立していると断定したりすることは避けます。長年の利用には、明確な許可、近隣関係による黙認、土地の範囲に関する誤認、共同利用との認識など、複数の背景が考えられます。
聞き取りでは、発言内容だけでなく、発言者の立場と情報源も記録します。承諾当時の本人による説明なのか、現在の所有者が先代から聞いた話なのか、近隣住民の記憶なのかでは、資料としての性質が異なります。
承諾書や聞き取り結果を整理する際は、確認できた事実、書面の記載、当事者の主張、担当者の推測を混ぜないようにします。実務記録に「通行承諾あり」とだけ記載すると、書面が存在するのか、口頭説明だけなのか、現在の当事者が認めているのかを後から判断できません。
通行承諾の根拠を明確にする目的は、地籍調査で通行権を確定することではありません。筆界の調査に際し、通行の実態や書面上の範囲を境界そのものと誤認しないために整理するものです。
確認する点2 通行範囲と筆界の位置関係
二つ目に確認する点は、通行が認められているとされる範囲と筆界の位置関係です。
現地で通路が舗装され、砂利が敷かれ、側溝や縁石が連続していると、その端が境界のように見えることがあります。しかし、舗装端や砂利敷きの端は施工範囲または利用範囲を示しているだけで、筆界と一致するとは限りません。
舗装工事では、排水や施工上の都合により、筆界をまたいで施工されている場合があります。反対に、所有者が筆界まで舗装せず、所有地の一部を未舗装のまま残している場合もあります。
塀、擁壁、側溝、縁石、法面、植栽なども同様です。これらの地物は筆界を検討する参考になりますが、一つの地物だけを根拠に筆界を決めることはできません。
例えば、塀を自分の敷地側へ控えて設置している場合、塀の外側にも同じ所有者の土地が残っている可能性があります。側溝も、筆界に沿って設置されている場合と、一方の土地の内部に設置されている場合があります。
現地調査では、通路の外縁、舗装端、側溝、塀、擁壁などの現況線と、既存の境界標や恒久的地物を別々に確認します。そのうえで、公図、地積測量図、過去の測量成果、境界確認資料、地籍調査関係資料などと照合します。各資料は、作成目的、作成年月日、縮尺、現地復元性を確認し、一つの資料だけで結論を出さないことが重要です。
通行承諾書に添付図面がある場合は、その図面上の範囲を現在の地番や現況へ対応させます。ただし、図面の精度や基準が不明な場合は、正確な位置を復元できないことがあります。その場合は、筆界の根拠資料ではなく、承諾当時の説明内容を示す参考資料として扱います。
承諾書作成後に分筆や合筆が行われている場合は、書面に記載された旧地番と現在の地番を対応させます。旧地番の土地が複数の筆に分かれていると、現在のどの筆に承諾範囲が含まれると説明されているのかを整理する必要があります。
現況通路と書面上の範囲または筆界資料の位置が異なる場合は、ずれの理由を確認します。舗装だけが広がったのか、通行経路自体が変更されたのか、境界標が亡失または移動した可能性があるのかによって、調査上の意味は異なります。
災害や工事により、一時的に別の場所を通行している場合もあります。現在の走行跡が明確であっても、それが承諾された本来の経路や筆界を示すとは限りません。
通路が一筆の土地の内部にある場合は、通路の両端を筆界として扱わないように注意します。通行部分とそれ以外の部分で利用形態が違っていても、分筆されていなければ登記上は同じ一筆です。
反対に、通路の内部に筆界があり、左右の土地所有者がそれぞれ土地の一部を通路として利用させている場合もあります。通行者から見れば一つの道でも、地籍調査では筆ごとの位置関係を確認しなければなりません。
通路部分だけが別地番になっている場合は、その筆の現在の所有者、共有の有無、周辺土地との関係を確認します。ただし、その筆が道路状に利用されていることだけで、誰にどのような通行権があるかを判断することはできません。
現地での確認では、「この線まで通行してよい」という説明と、「この線が筆界である」という確認を明確に分けます。同じ線を指していても、発言者が異なる意味で使っている可能性があります。
土地所有者が「この塀まで使ってよい」と発言しても、塀の位置が筆界だという意味とは限りません。所有地の一部を通行に利用させているだけの可能性があります。
通行者が「ここまでが通路です」と説明しても、それは日常的な利用範囲を示しているだけで、所有境界に関する認識を述べたものではない場合があります。
図面では、確認対象の筆界、確認済みとして整理した筆界、現況通路の外縁、承諾書上の範囲、利用者が主張する範囲を区別して表示します。線種、記号、注記を分けないと、後日、通行範囲を筆界と誤読されるおそれがあります。
筆界について関係者の認識が一致しない場合に、通行承諾書だけを根拠として筆界を処理することは避けます。承諾書が筆界を検討する参考資料になる場合はありますが、通行条件の合意を目的に作成された図面と、筆界を明らかにするための測量成果は性質が異なります。
長年の利用や占有を理由に所有権の範囲について争いがある場合も、筆界と所有権界を区別します。地籍調査で扱える範囲を超える問題があるときは、実施主体と協議し、必要に応じて登記や法律の専門家への相談につなげます。
確認する点3 承諾した人と現在の関係者
三つ目に確認する点は、誰が通行を承諾し、誰が承諾を受けたのかという当事者関係です。
通行承諾書が残っていても、現在の土地所有者が承諾当時と同じとは限りません。売買、相続、贈与、法人の承継などによって、通路を提供する側と利用する側の関係者が変わっている場合があります。
まず、承諾した人が、承諾当時に対象地を所有していたか、または所有者から権限を与えられていたかを資料上確認します。登記上の所有者本人が署名しているのか、代理人が署名しているのか、共有者の一部だけが署名しているのかによって、確認すべき事項が変わります。
通路部分が共有地の場合は特に注意が必要です。共有者の一人が通行を認めたと説明していても、共有者間でどのような意思決定がされていたかは別途確認が必要です。署名者だけでなく、承諾当時の共有関係、委任の有無、他の共有者の関与を確認します。
承諾を受けた側についても、特定の個人に対する許可なのか、特定の土地を利用するための合意なのかを確認します。
個人名だけで承諾されている場合、その人の転居、死亡、土地の売却後に、新しい所有者や利用者が同じ条件で通行できるかは、書面の文言だけでなく法的性質や経緯を踏まえて検討される問題です。地籍調査担当者が自動的な承継を認定しないようにします。
一方、特定の土地の便益と結び付いた通行地役権であると説明される場合は、便益を受ける土地と通行に使われる土地、目的、範囲、設定契約、登記の有無などを確認します。
ただし、登記の有無や契約書の一文だけで、地籍調査担当者が権利の有効性や第三者との関係を最終判断することは避けます。資料を整理したうえで、必要に応じて登記所、実施主体または専門家へ確認します。
承諾書に「将来の所有者へ引き継ぐ」などの記載がある場合も、その文言だけで現在の当事者間の権利義務がすべて確定するとは限りません。契約の性質、登記、土地取得時の事情などによって法的評価が異なる可能性があるためです。
地籍調査の実務では、現在の登記名義人、承諾当時の所有者、実際の利用者、書面上の当事者、経緯を知る人を分けて整理します。
相続が発生している場合は、相続人の一部だけが現地確認へ参加することがあります。通行承諾の経緯を詳しく知る人と、地籍調査上の所有者等として確認を求める相手が異なる場合もあります。
例えば、現地を長年管理してきた親族が通行の経緯を知っていても、現在の登記名義人や相続関係者とは別人であることがあります。反対に、現在の名義人は筆界調査の関係者であっても、過去の通行承諾について十分な情報を持っていない場合があります。
聞き取りでは、土地所有者としての発言、通行者としての発言、過去の経緯を知る参考人としての発言を区別して記録します。誰の発言かを曖昧にすると、後から承諾の主体や筆界に関する認識を取り違える原因になります。
所有者が代替わりしている場合は、通行条件に対する認識が変化していることもあります。以前の所有者は自動車通行まで認めたと説明される一方、現在の所有者は徒歩だけの許可だったと理解している場合があります。
また、以前は一世帯だけが利用していた通路を、土地の分割や建物の増加によって複数世帯が利用するようになることもあります。通行人数や車両数の増加が承諾当時の想定を超えているとして、当事者間で争いになる可能性があります。
このような通行条件の対立があると、当事者が筆界の位置を交渉材料として扱うことがあります。しかし、通行を制限したいから筆界を動かす、通行を確保したいから通路端を筆界として扱うという整理はできません。筆界は当事者の都合によって変更するものではないためです。
現地での確認では、筆界に関する説明と、今後の通行条件に関する話し合いを分けます。地籍調査の機会に新しい通行条件について話し合うとしても、その合意を筆界の確認と混同しないようにします。
新しい通行条件を書面化する場合は、地籍調査の筆界確認資料とは別の書面とするのが分かりやすい方法です。一つの書面に記載する場合も、どの記載が筆界に関する確認で、どの記載が通行の合意なのかを明確に区分する必要があります。
通行承諾の効力、承継、契約違反、通行地役権などについて争いがある場合は、地籍調査担当者だけで結論を出さず、実施主体と対応を協議し、必要に応じて法律や登記の専門家への相談を案内します。
確認する点4 現地立会いと記録の方法
四つ目に確認する点は、現地での確認をどのように進め、結果をどう記録するかです。
地籍調査の筆界確認は、現地立会いだけに限られるものではありません。図面などによる確認が行われる場合があり、法令上の要件を満たす無反応所有者等については、筆界案の送付や公告など所定の手続を経て確認したものとみなす制度も設けられています。実際の方法は、調査年度の法令、作業規程、実施主体の手順に従って判断します。
通行承諾がある土地では、筆界に関する資料だけでなく、現況通路の位置や利用状況も確認するため、扱う情報が多くなります。準備をせずに現地確認を始めると、通行の可否をめぐる話に時間を取られ、本来の筆界調査が進まなくなることがあります。
現地へ行く前に、登記情報、公図、地積測量図、過去の測量成果、境界確認資料、通行承諾書、添付図面、道路や建物に関する資料などを整理します。
資料ごとに、作成年月日、対象地番、作成者、作成目的、縮尺、測量の有無、現地復元性を確認します。古い資料では、現在の地番、建物配置、道路形状と異なることがあるため、分筆、合筆、工事、災害などの変遷も可能な範囲で整理します。
現地確認用の図面には、対象地と隣接地の地番、既存の境界標、筆界を検討するための参考線、現況通路、承諾書に示された範囲を区別して記載します。
現地確認の冒頭では、参加者へ目的を説明します。地籍調査として筆界を調べること、現況の通路や関係資料も参考情報として記録すること、通行承諾の法的効力や今後の通行条件をその場で最終決定する手続ではないことを伝えます。
この説明がないと、通行者は将来の通行を保証してもらう場だと考え、土地所有者は通行承諾を解除または変更する場だと考える可能性があります。
現地では、まず境界標や恒久的地物の有無を確認します。境界標がある場合は、種類、形状、表示、周囲の状態を記録します。傾き、破損、露出、移動の疑いがある場合は、その状況も残します。
境界標が見つかったからといって、直ちに正しい筆界点と断定することはできません。工事や車両通行により移動している可能性、境界標ではなく通路管理用の目印である可能性、別の測点である可能性もあるため、資料や周辺点との整合を確認します。
次に、通路の現況を確認します。舗装範囲、砂利敷き、側溝、縁石、塀、擁壁、門扉、段差、走行跡、通行を妨げる構造物などを記録します。
通路幅が途中で変化している場合は、一つの数値だけで表現しないようにします。入口は広くても奥で狭くなる場合や、車両が曲がる場所だけ広がっている場合があります。必要な位置ごとに測定し、測定基準も記録します。
通行承諾書の図面がある場合は、書面上の範囲、現在の利用範囲、筆界資料上の線を比較します。両者が異なる場合は、いつ頃から、どのような事情で通行位置が変わったと説明されているのかを聞き取ります。
工事や災害による一時的な迂回、植栽や構造物による経路変更、所有者の口頭承諾による利用範囲の変更など、複数の理由が考えられます。聞き取った内容は事実として断定せず、発言者の説明として記録します。
写真を撮影する場合は、通路全体の位置関係が分かる写真と、境界標や特徴的な地物を確認できる近接写真を分けます。
撮影位置や方向が分からない写真は、後日の照合に使いにくくなります。図面上に撮影地点と撮影方向を示し、写真番号、測点番号、撮影日時などを対応させます。個人情報や私生活に関わるものが写り込む場合は、実施主体の取扱規程に従います。
山林や農地では似た景観が続くため、写真だけで場所を特定することが難しい場合があります。特徴的な樹木や仮設物だけに頼らず、測点、座標、恒久的地物などと結び付けて記録します。
関係者から聞き取った内容も、発言者ごとに記録します。「昔からこの道を使っている」とまとめるのではなく、誰が、いつ頃から、何の目的で、どの範囲を使っていると説明したのかを整理します。
土地所有者と通行者の説明が一致しない場合は、その場で無理に一つの内容へまとめません。それぞれの主張を分けて記録し、書面、登記資料、過去の測量成果、工事資料などとの整合を検討します。
筆界について確認できた場合は、その筆界点と現況通路の外縁を区別して図面へ記載します。通路端に杭や鋲がある場合も、それが筆界標なのか、舗装や管理のための目印なのかを確認します。
筆界を確認できない場合に、通行承諾書から便宜的に境界を設定することは避けます。通行承諾の存在は参考情報になり得ますが、筆界調査に代わるものではありません。
現地確認後は、当日に確認できた事項、確認できなかった事項、追加で必要な資料、関係者間の認識差を整理します。
記録には、承諾書の有無、対象地番、通行目的、書面上の範囲、現在の利用状況、筆界との位置関係、当事者の変更、未確認事項を具体的に記載します。
「通行承諾あり」「現地確認済み」といった短い記載だけでは、何を確認したのか分かりません。筆界を確認したのか、通路位置を測ったのか、承諾書の内容を確認したのか、当事者の説明だけを聞いたのかを区別します。
通行に関する新たな合意が現地で成立した場合も、地籍調査の記録と混同しないようにします。書面化が必要かどうかや文言については、当事者が専門家へ相談することも検討します。
通行承諾がある土地で起こりやすい問題
通行承諾がある土地で起こりやすい問題の一つが、通路の外縁を筆界と誤認することです。
現地で舗装や側溝がはっきりしていると、その線を境界として扱いたくなります。しかし、現況施設は土地利用や工事の結果として設置されたものであり、筆界と一致するとは限りません。
特に、道路状に整備された私有地では、利用者が「道路として使っているため自分の土地ではない」と考えたり、所有者が「舗装した範囲すべてが自分の土地だ」と考えたりして、認識が食い違うことがあります。利用形態と土地の区画を分けて確認する必要があります。
二つ目は、承諾当時の通路と現在の通路が異なる問題です。
当初は徒歩用の細い通路だったものが、自動車の利用や舗装工事によって広がっていることがあります。通行者は現在使っている幅全体が認められていると考え、土地所有者は当初の幅しか承諾していないと説明する可能性があります。
土地所有者が長年異議を述べなかった場合でも、地籍調査担当者がその事実だけで現在の通路全体について法的権利が成立していると判断することはできません。
三つ目は、書面の対象地を特定できない問題です。
古い通行承諾書には旧地番が記載されていることがあります。分筆や合筆を経て現在の地番が変わっている場合、承諾されたとされる通路が現在のどの筆に含まれるのかを整理する必要があります。
添付図面に地番、縮尺、方位、測点がなく、建物や樹木だけを基準としている場合もあります。建物の建て替えや土地造成が行われていると、当時の位置を現地で復元できないことがあります。
四つ目は、所有者や利用者の変更による認識差です。
以前の所有者同士では問題なく利用されていても、売買や相続によって新しい所有者へ変わると、通行承諾の存在や条件が十分に伝わっていないことがあります。
新しい所有者が土地取得後に初めて通行利用を知り、通行者との間で対立する場合もあります。反対に、通行者側の土地利用が変わり、以前より多くの人や車両が通るようになる場合もあります。
五つ目は、通行承諾と建築関係法令上の道路を混同する問題です。
私有地が日常的に道路として使われていても、建築関係法令上の道路に該当するか、接道条件を満たすか、セットバックなどが必要かは別途確認が必要です。また、建築上の道路として扱われることと、土地の所有権や私人間の通行権の内容も同じではありません。
地籍調査の現場で、通路が道路に見えるという理由だけで、建築の可否や道路の法的位置付けを断定しないようにします。必要な場合は、道路管理または建築を担当する行政窓口へ確認します。
六つ目は、通行と設備利用を混同する問題です。
人や車両の通行を認めることと、水道管、排水管、ガス管、電線などの設置、維持、更新のために土地を使用することは別の問題です。通行できるからといって、掘削や配管の設置まで当然に認められているとは限りません。
通路内に埋設物がある場合は、通行承諾とは別の契約、覚書、登記、工事資料がないかを確認します。地籍調査の結果だけで設備の使用権や工事権限まで判断することは避けます。
七つ目は、通行をめぐる感情的な対立が筆界確認へ影響する問題です。
騒音、車両台数、駐車、路面損傷、除雪、門扉の開閉などについて不満があると、土地所有者が筆界に関する確認でも通行者の説明に反発することがあります。
通行者も、将来通れなくなることを心配し、現在の利用範囲を筆界または当然の通行範囲として主張する場合があります。
実務担当者は、それぞれの説明を記録しながら、筆界調査の目的を見失わないことが重要です。通行条件の調整と筆界の調査は、必要に応じて別の手続または話し合いとして整理します。
地籍調査を円滑に進める実務手順
通行承諾がある土地では、資料確認、関係者整理、事前説明、現地確認、記録整理の順で進めると、調査の混乱を抑えやすくなります。
最初に、対象地と隣接地の登記情報を確認します。現在の所有者、地番、地目、分筆や合筆の履歴を整理し、公図や地積測量図などから土地の位置関係を把握します。
次に、通行承諾に関する書類を集めます。書面がある場合は、作成年月日、承諾者、利用者、対象地番、目的、経路、幅、期間、費用負担、維持管理、承継に関する記載を確認します。
添付図面がある場合は、現在の地形や地物に対応させられるかを検討します。精度や基準が不明な図面は、確定的な位置を示す資料ではなく、聞き取りや現地照合のための参考資料として扱います。
書類がない場合は、関係者ごとに利用の経緯を聞き取ります。現在の所有者だけでなく、必要に応じて承諾当時の事情を知る人からも情報を得ます。ただし、過去の経緯を知る人の説明と、現在の権利関係について判断できる資料は区別します。
その後、筆界に関する情報と通行に関する情報を分けて図面化します。筆界を検討するための線、既存境界標、現況通路、承諾書上の範囲、舗装端、側溝、塀などを識別できるようにします。
現地確認の前には、参加者へ目的を説明します。筆界を調べる地籍調査であること、通行承諾の有効性や将来の通行条件をその場で裁定するものではないこと、通行範囲と筆界が一致しない可能性があることを伝えます。
現地では、筆界に関する確認と通行に関する聞き取りを分けて進めます。話題が混在すると、関係者自身も何に同意または反対したのか分からなくなるためです。
まず、既存の境界標、恒久的地物、地形、資料上の位置関係を確認します。その後、現況通路と承諾書に示された範囲、現在の利用範囲を確認します。
関係者の説明が異なる場合は、どちらか一方へ合わせるのではなく、相違点を記録します。通行範囲について意見が一致しないことと、筆界を確認できないことは同じではありません。
通行条件では対立していても、客観的資料と現地状況から筆界の調査を進められる場合があります。反対に、通行条件について合意していても、筆界の位置を明らかにできない場合があります。実際の処理は作業規程と実施主体の判断に従います。
現地確認後は、追加資料の有無を確認します。過去の売買書類、工事図面、古い写真、測量成果、相続時の資料などが、土地や通路の変遷を確認する手掛かりになる場合があります。
ただし、資料の作成目的に注意します。建物配置図、施工図、固定資産関係の略図などは、筆界を測量する目的で作成されたものとは限りません。記載された線をそのまま筆界として扱わないようにします。
調査結果を整理する際は、筆界について確認できた事項、通行承諾について確認できた事項、現況として記録した事項、関係者の主張、未解決事項を分けます。
未確認事項を推測で埋めず、「承諾書の添付図面では幅の基準を特定できない」「現在の所有者間で車両通行の範囲に認識差がある」など、何が未解決なのかを具体的に記載します。
通行権や契約の効力について専門的な判断が必要な場合は、問題の種類に応じた相談先と連携します。筆界や表示登記、契約や物権、道路や建築では、確認すべき制度と担当先が異なります。
現地作業では安全管理も必要です。現在使われている通路に測量機器や資材を置く場合は、歩行者や車両の通行を妨げないようにします。
狭い通路では、参加者が集まるだけで通行を止めてしまうことがあります。作業時間、機器設置場所、車両誘導、近隣への周知などを事前に調整します。
境界標を設置または復元する場合は、地籍調査の作業規程、実施主体の指示、必要な確認手続に従います。通行の都合だけを理由に、実際に調査した筆界点と異なる位置へ境界標を置くことはできません。
筆界点への標識設置が困難な場合の記録方法や保全方法も、担当者の判断だけで決めず、実施主体が定める手順に従います。
地籍調査で重要なのは、現地で結論を急ぐことではなく、何を、どの資料と説明に基づいて確認し、何が未確認なのかを後から追跡できる記録として残すことです。
まとめ
地籍調査の対象となる土地に通行承諾がある場合は、通行範囲と筆界を同じものとして扱わないことが基本です。
第一に、通行承諾の根拠と条件を確認します。承諾書や覚書の有無だけでなく、通行目的、経路、幅、期間、利用者、車両利用、維持管理などを整理します。書面がない場合は利用の経緯を聞き取りますが、聞き取りだけで権利関係や筆界を断定しないことが重要です。
第二に、通行範囲と筆界の位置関係を確認します。舗装端、側溝、塀、擁壁、走行跡などの現況線は、筆界と一致するとは限りません。登記関係資料、測量成果、境界標、恒久的地物、関係者の説明を区別しながら総合的に整理します。
第三に、承諾した人と現在の関係者を確認します。売買や相続などで所有者が変わっている場合は、承諾当時の所有者、現在の名義人、実際の利用者、書面上の当事者を区別します。承諾が現在の関係者へどのように及ぶかについて争いがある場合は、地籍調査だけで結論を出さず、実施主体や専門家へ確認します。
第四に、現地確認と記録の方法を整えます。筆界、現況通路、承諾書上の範囲、利用者が説明する範囲を別々に図面へ示し、写真、測点、発言者、資料名と対応させます。確認できなかった事項や認識差も具体的に残します。
通行承諾がある土地では、筆界、所有権、契約、登記、道路、建築、設備利用など、複数の問題が重なることがあります。地籍調査で扱う範囲を明確にし、問題の種類に応じて実施主体、行政の担当部署、登記所、専門家と連携することが、安全で円滑な調査につながります。
現場では、筆界点、境界標、通路の外縁、書面上の通行範囲、写真の撮影位置など、多くの情報を位置と結び付けて管理する必要があります。紙図面と写真が分散すると確認が難しくなるため、位置情報付きの写真、測点、図面、聞き取り記録を同じ案件単位で整理し、立会い後も根拠を追跡できる記録体制を整えることが重要です。