3D CADで寸法公差の積み上げを考える重要性
3D CADを使って機械部品や製品を設計すると、画面上では非常に正確な形状を作成できます。部品同士の位置を一致させ、穴と軸を同軸にし、指定したすきまを確保した状態でアセンブリを構築できるため、設計値だけを見れば問題なく組み立てられるように見えることがあります。
しかし、3D CADモデルは基本的に理想形状を表しています。実際に加工される部品には寸法のばらつきがあり、設計寸法と完全に一致するとは限りません。加工設備の精度、工具の摩耗、材料の状態、温度変化、加工方法、測定方法などの影響によって、完成寸法には一定の変動が生じます。
そのため、製品設計では基準寸法だけでなく、どこまでの寸法変化を許容するかという公差を設定します。
問題になるのは、一つ一つの部品が公差内に入っていても、複数の寸法が連続することで最終的な位置やすきまのばらつきが大きくなることです。これが寸法公差の積み上げです。
たとえば、厚さ10 mm、公差±0.1 mmの部品を3枚積み重ねる構造を考えます。基準寸法で計算すれば全体の厚さは30 mmです。しかし、3枚すべてが10.1 mmで製造された場合は30.3 mmになり、すべてが9.9 mmで製造された場合は29.7 mmになります。
それぞれの部品は図面公差を満たしていても、全体では0.6 mmの範囲で変化する可能性があります。
この変動を設計段階で確認していなければ、組立時に部品が入らない、必要なすきまがなくなる、ガタが大きくなる、締結すると部品へ過度な力が加わるといった問題につながる可能性があります。
3D CADを使う実務担当者にとって重要なのは、モデル上で干渉していないことだけを確認するのではなく、公差を含めた状態でも製品機能が成立するかを検討することです。
特に複数部品で位置を決める構造や、狭いすきまを管理する構造では、公差積み上げ計算が重要になります。
公差計算というと複雑な数式を想像しやすいものの、基本となる考え方は明確です。最終的に守りたい寸法を決め、そこへ影響する寸法を順番に整理し、それぞれの上限と下限が最終寸法へどう影響するかを計算します。
この考え方を3D CADモデルと結び付けることで、図面作成の最後に公差を追加するだけではなく、設計段階から公差が積み上がりにくい構造を検討できるようになります。
寸法公差の積み上げ誤差が発生する仕組み
寸法公差の積み上げを理解するには、まず基準寸法と実際の寸法を分けて考えることが大切です。
たとえば、ケースの内部高さが100 mm、内部へ配置する部品Aの高さが40 mm、部品Bの高さが59 mmだったとします。基準寸法だけで計算すれば、ケースと部品の間には1 mmのすきまがあります。
3D CADモデルではこの1 mmが正確に表示されるため、十分なすきまがあるように見えるかもしれません。
ところが、ケース内部高さに±0.2 mm、部品Aと部品Bにそれぞれ±0.1 mmの公差が設定されているとします。
ケースが最小の99.8 mmになり、部品Aが最大の40.1 mm、部品Bが最大の59.1 mmになれば、すきまは0.6 mmになります。
反対に、ケースが最大の100.2 mm、部品Aが39.9 mm、部品Bが58.9 mmになれば、すきまは1.4 mmです。
つまり、3D CAD上では1 mmに固定されているように見えるすきまも、実際には0.6 mmから1.4 mmまで変化する可能性があります。
ここで重要なのは、一つの寸法だけを確認しても最終的な組立状態は分からないという点です。
設計者は個々の部品図を確認するとき、それぞれの寸法が公差内に入ることを考えます。しかし、組立品では複数の寸法が一つの機能寸法へ影響します。
部品Aの寸法公差、部品Bの寸法公差、ケース寸法の公差がそれぞれ単独では問題なくても、それらが同じ方向へ積み上がれば、最終的なすきまや位置が許容範囲から外れることがあります。
逆に、公差積み上げを過度に恐れて、すべての寸法へ非常に厳しい公差を設定する方法も適切とは限りません。必要以上に厳しい寸法管理は、加工や検査の負担を増やす原因になります。
したがって、公差設計では「公差を小さくする」のではなく、「製品機能を満たすために必要な公差を適切に配分する」という考え方が重要です。
3D CADを活用すれば、設計対象の形状や組立関係を確認しながら寸法連鎖を整理できます。断面表示を利用して部品間の関係を確認したり、基準面から重要形状までの距離を追跡したりすることで、公差計算の対象を明確にできます。
手順1|機能上重要な寸法と基準を決める
公差積み上げ計算の最初の手順は、最終的に守りたい機能寸法を決めることです。
公差解析をするとき、すべての寸法を片端から計算する必要はありません。まず、製品の性能や組立性に直接影響する寸法を特定します。
たとえば回転部品であれば軸方向のすきま、ケース内部であれば部品とカバーのすきま、摺動部であればクリアランス、締結部であれば締結対象となる部品の合計厚さなどが評価対象になることがあります。
3D CAD上で最終的に確認したい二つの面、二つの軸、または面と中心位置などを特定し、その間の距離を機能寸法として設定します。
このとき、単に「すきまがあるか」を確認するのではなく、必要な上限値と下限値まで決めておくことが重要です。
たとえば最低0.5 mmのすきまが必要であれば、最小値が0.5 mm以上になることが設計条件になります。一方、ガタを抑えるため最大1.5 mm以下にしたいのであれば、最大値についても確認しなければなりません。
次に、その機能寸法がどの基準から決まるかを整理します。
3D CADではモデル原点や既定の基準面を利用して設計できますが、その座標系が実際の加工や組立の基準になるとは限りません。
実物では、部品をある面へ押し当てて取り付けたり、穴へ軸を挿入して位置を決めたり、二つの面を接触させて締結したりします。この実際の位置決め方法が公差積み上げでは重要です。
たとえばケース底面へ複数の部品を積み上げる構造なら、ケース底面を起点として各部品厚さを順番に追います。
一方、各部品がそれぞれケースの共通基準面から位置決めされているのであれば、単純な積み重ねとは異なる寸法連鎖になります。
つまり、3D CAD上の拘束関係ではなく、実物の組立でどこが接触し、どこを基準に位置が決まるのかを考えます。
この段階を曖昧にすると、その後の計算を正確に行っても実際の組立状態を表せない可能性があります。
また、機能寸法を決めるときには、製品全体ではなく問題が発生しやすい部分から優先的に解析する方法が実用的です。
すべての寸法を同じ粒度で解析しようとすると管理項目が増えます。組立不能、干渉、過大なガタ、シール不良などにつながりやすい重要部分から公差ループを作ることで、効率よく設計を確認できます。
手順2|寸法連鎖を整理して公差ループを作る
評価する機能寸法が決まったら、その寸法へ影響する各寸法を順番に追跡します。
この関係を寸法連鎖として整理し、基準点から評価点までつながる公差ループを作ります。
たとえばケース内部のすきまSを求めるため、ケース内部高さをA、部品Aの厚さをB、部品Bの厚さをCとします。
この場合、関係が単純であれば「S=A-B-C」と表せます。
公差計算では、このように評価対象を各寸法の加算と減算で表せる状態まで整理することが重要です。
3D CADを使用している場合は、対象部分を断面表示すると寸法連鎖を確認しやすくなります。外観だけでは分かりにくい内部の段差や接触位置も、断面を見ることで追跡できます。
基準面から順番に形状をたどり、評価対象までに通過する寸法を確認します。
このとき注意したいのが、設計寸法として表示されているすべての寸法を公差ループへ入れるわけではないということです。
最終的な機能寸法へ影響しない寸法は含めません。不要な寸法を追加すると計算が複雑になり、本当に重要な公差が分かりにくくなります。
逆に、公差へ影響する寸法を見落とすと、最終的なばらつきを実際より小さく評価してしまいます。
たとえば複数の部品を締結する構造では、主要部品の厚さだけでなく、座面の高さ、スペーサー、調整部材などが最終寸法へ影響する場合があります。
3D CADモデルで一部を簡略化している場合は特に注意が必要です。モデルには表現していない要素であっても、実物で寸法へ影響するのであれば公差計算では考慮する必要があります。
寸法連鎖を整理すると、設計そのものの問題が見つかることもあります。
たとえば機能上重要な面の位置が、複数の中間寸法を経由して決まっている場合、それぞれの公差が積み上がります。
基準面から直接寸法を設定できる構造へ変更すれば、公差ループを短くできる場合があります。
そのため、公差ループの作成は単なる計算準備ではありません。現在の設計が、公差の管理という観点から合理的かどうかを確認する工程でもあります。
手順3|各寸法の公差方向と符号を整理する
寸法連鎖が整理できたら、それぞれの寸法が評価対象へどちらの方向に影響するかを確認します。
公差積み上げ計算では、すべての寸法を単純に加算すればよいわけではありません。
たとえば「S=A-B-C」という関係であれば、Aが増えるほどSは増えます。一方、BやCが増えるほどSは小さくなります。
したがって、最小すきまを求める場合にはAを最小、BとCを最大として計算します。
最大すきまでは反対に、Aを最大、BとCを最小にします。
この方向関係を正しく整理することが非常に重要です。
特に寸法連鎖が長くなると、モデルを見ただけではプラスとマイナスを判断しにくくなります。その場合は、一つの方向を正方向として固定すると整理しやすくなります。
たとえば水平方向の解析なら右方向をプラス、左方向をマイナスと決め、基準位置から評価位置まで順番にたどります。
縦方向であれば上方向をプラスと決める方法があります。
重要なのは、途中で基準方向を変えないことです。
3D CADではモデルを自由に回転できるため、表示方向を変えながら寸法を確認すると符号を取り違えることがあります。公差解析を行うときは正面や断面方向を固定し、同じ視点から確認すると分かりやすくなります。
また、対称形状では寸法の扱いに注意します。
たとえば部品中心を基準として幅を指定している場合、全幅の変化が片側の位置へどのように影響するかは、設計方法によって異なります。
中心を固定したまま幅が変化するのであれば、幅の変動は左右に分かれます。一方、片側面を基準として加工する場合には、変動量が反対側へ現れる可能性があります。
3D CAD上で同じ形状に見えても、基準の取り方によって公差伝達の考え方が変わる点に注意が必要です。
片側公差も同様です。
たとえば基準寸法20 mmに対して+0.2 mm、0 mmという公差が指定されている場合、実寸は20.0 mmから20.2 mmの範囲になります。
これを単純に±0.1 mmとして扱うと、公差幅そのものは同じでも中心位置が変わってしまいます。
そのため、複雑な公差計算では公差記号だけを使うのではなく、各寸法の上限値と下限値を明確にして計算すると間違いを減らせます。
手順4|ワーストケース法で最大値と最小値を計算する
寸法連鎖と符号を整理したら、まずワーストケース法で評価する方法があります。
ワーストケース法では、関連する各寸法が許容範囲内で最も不利な値になった場合を想定し、最終寸法の最大値と最小値を求めます。
たとえばケース内部高さAが100±0.2 mm、部品厚さBが40±0.1 mm、部品厚さCが59±0.1 mmで、すきまSが「S=A-B-C」で表されるとします。
基準寸法では100-40-59となり、すきまは1 mmです。
最小すきまでは、Aを最小値の99.8 mm、Bを最大値の40.1 mm、Cを最大値の59.1 mmとして計算します。
すると、99.8-40.1-59.1となり、最小すきまは0.6 mmです。
最大すきまでは、Aを100.2 mm、Bを39.9 mm、Cを58.9 mmとします。
100.2-39.9-58.9となり、最大すきまは1.4 mmです。
したがって、基準状態では1 mmであっても、寸法公差を考慮すると0.6 mmから1.4 mmまで変動する可能性があることが分かります。
仮に機能上必要な最小すきまが0.7 mmであれば、この設計はワーストケースでは要求を満たさない可能性があります。
この段階で重要なのは、公差計算によって問題が見つかったからといって、すべての公差を一律に厳しくしないことです。
まず、どの寸法が機能寸法へ大きく影響しているかを確認します。
加工しやすく管理しやすい寸法だけを調整する方法もありますし、設計基準や部品構造そのものを変更することで公差連鎖を短くできる可能性もあります。
ワーストケース法の利点は、各寸法が公差内であれば、想定した最大・最小範囲を明確に評価しやすいことです。
一方で、寸法連鎖が長くなると非常に厳しい結果になることがあります。
10個の寸法が連続し、それぞれに公差がある場合、すべてが同時に最悪方向へ偏る状態を想定するため、最終公差が大きくなります。
その結果だけを根拠として個々の部品へ極端に厳しい公差を指定すると、製造負担が増加する可能性があります。
そのため、製品の要求や生産方式によっては、ワーストケース法に加えて統計的な考え方を用いることもあります。
手順5|統計的な方法で寸法ばらつきを評価する
実際の量産では、複数の部品寸法がすべて同時に最大値または最小値になるとは限りません。
製造工程が安定しており、各寸法のばらつきが一定の分布を持つ場合には、統計的な考え方によって最終寸法のばらつきを評価する方法があります。
代表的な考え方の一つに、独立して変動する寸法のばらつきを二乗和平方根で合成する方法があります。
たとえば、3つの寸法についてそれぞれ±0.1 mm相当の変動を考えた場合、ワーストケースで単純に合計すると±0.3 mm相当になります。
一方、独立したばらつきとして二乗和平方根を利用すると、0.1の二乗を3つ足した値の平方根となり、約0.173 mmになります。
この方法を利用すると、すべての寸法が同時に最悪方向へ偏る状態ではなく、製造時に発生するばらつきの組み合わせを統計的に捉えられる場合があります。
ただし、公差値をそのまま二乗和平方根へ入れればよいわけではありません。
図面上の許容公差と、製造工程で観測される統計的なばらつきは同じものではないためです。
統計的な解析を適切に行うには、どのような確率分布を想定するのか、公差範囲と標準偏差をどのように関連付けるのか、工程平均がどこにあるのかといった前提を決める必要があります。
また、各寸法が独立しているという前提にも注意します。
同じ工具で連続加工される寸法や、同じ温度変化の影響を受ける寸法などでは、複数の寸法が同じ方向へ変化する可能性があります。
この場合、単純に独立したばらつきとして扱うと、実際の状態を十分に表現できないことがあります。
量産実績が蓄積されている製品であれば、実際の測定データを利用して平均値やばらつきを確認する方法が有効です。
たとえば公差中心が20.0 mmであっても、製造実績が20.05 mm付近へ偏っているのであれば、その平均値の偏りも最終寸法へ影響します。
ばらつき幅だけを見るのではなく、中心のずれまで考えることが重要です。
新規設計では実測データが存在しない場合もあります。その場合には、まずワーストケース法によって基本的な成立性を確認し、試作や量産準備が進んだ段階で実際の加工データを用いて統計的評価を追加するという進め方も考えられます。
重要なのは、ワーストケース法と統計的方法のどちらが優れているかを一律に決めることではありません。
製品機能、安全性、製造数量、工程能力、不良発生時の影響などを踏まえ、目的に適した方法を選ぶ必要があります。
手順6|計算結果を3D CADモデルへ反映して検証する
公差計算によって最大値と最小値を求めたら、計算結果を数値だけで終わらせず、3D CADモデルへ戻して確認します。
公差計算では一次元の寸法関係へ単純化することが多いため、計算上は成立していても、実際の三次元形状では別の部分が干渉する可能性があります。
たとえば計算上の最小すきまが0.3 mm残っていても、周辺に傾斜面や突起、フィレットなどがあれば、別の位置で接触することがあります。
反対に、計算対象とした面ではすきまが大きくても、製品機能上は問題にならない場合もあります。
3D CADでは最大条件、最小条件を想定して主要寸法を変更し、周辺形状との関係を確認すると理解しやすくなります。
さらに、組立時の自由度も確認します。
3D CADアセンブリでは部品を完全に拘束していることがありますが、実物では穴と軸の間にすきまがあったり、ボルト穴径が締結部品より大きかったりするため、部品位置がわずかに移動できることがあります。
その場合、寸法公差だけでは最終位置のばらつきを説明できません。
たとえば穴位置によって部品を取り付ける構造では、穴そのものの位置ばらつきに加え、穴と締結部とのクリアランスによる移動が生じる可能性があります。
3D CAD上では穴中心を完全一致させているため、この自由度を見逃しやすい点に注意が必要です。
また、公差計算で問題が判明した場合には、個別公差の変更だけでなく構造変更も検討します。
たとえば複数部品を順番に積み上げて位置を決める構造なら、それぞれを一つの共通基準面から位置決めする構造へ変更できないか検討します。
調整可能な部品を設ける、位置決め面を追加する、基準となる部品を変更するといった方法によって、公差積み上げの影響を小さくできる場合があります。
3D CADの利点は、こうした設計変更を形状として確認しやすいことです。
公差計算で数値上の問題を発見し、3D CAD上で構造的な対策を検討し、再び公差計算を行うという流れを繰り返すことで、製造性と組立性を考慮した設計へ近づけられます。
公差積み上げ計算で起こりやすい失敗
公差積み上げ計算では、数式そのものよりも、解析条件の設定を間違えることで誤った結論になるケースがあります。
特に多いのが、3D CAD上の基準寸法だけで組立性を判断することです。
モデルで0.5 mmのすきまがあるから問題ないと判断していても、公差を考慮すると最小状態で0 mm以下になる可能性があります。
3D CADの干渉確認で問題が表示されないのは、基本的に現在設定されている理想寸法の形状を評価しているためです。
公差範囲の端まで自動的に考慮しているとは限らないため、別途公差解析が必要です。
次に注意したいのが、寸法連鎖の見落としです。
主要部品の厚さだけを計算し、スペーサーや座面の高さなどを除外すると、最終寸法のばらつきを過小評価する可能性があります。
設計上は小さな寸法でも、評価対象と同じ方向へ影響するのであれば、公差ループへ含める必要があります。
反対に、同じ寸法を二重に数えてしまうケースもあります。
図面に参考寸法や全体寸法、中間寸法が併記されている場合、それらをすべて計算へ含めると同一の寸法関係を重複して評価する可能性があります。
公差ループは基準点から評価点まで一つの経路として整理し、同じ形状変化を重複して数えないことが重要です。
符号の間違いも代表的です。
寸法が大きくなることで機能寸法も大きくなるのか、反対に小さくなるのかを一つずつ確認します。
複雑なアセンブリでは、断面を固定して一定方向から追跡することで判断しやすくなります。
設計変更後の更新漏れにも注意が必要です。
3D CADモデルの寸法を変更した後、別資料で管理している公差計算を更新し忘れると、最新モデルと解析結果が一致しなくなります。
特に基準面や組立方法を変更した場合は、単純に寸法値だけを差し替えるのではなく、公差ループそのものを再確認する必要があります。
設計変更履歴と公差解析を対応付け、どの設計状態について計算した結果なのか分かるように管理すると、後工程での混乱を抑えられます。
公差の積み上がりを抑える3D CAD設計の考え方
公差積み上げの問題は、計算によって発見するだけでなく、設計構造によって減らせる場合があります。
基本的な考え方の一つが、機能上重要な形状をできるだけ安定した共通基準から定義することです。
たとえば重要な穴位置が、端面Aから寸法B、その位置から寸法C、さらにそこから寸法Dという連鎖で定義されている場合、各寸法の公差が最終穴位置へ影響します。
一方、製造方法として成立するのであれば、共通の基準面から重要穴まで直接位置を管理することで、連続する寸法の影響を減らせる場合があります。
ただし、3D CAD上で寸法連鎖を短くすることだけを目的にしてはいけません。
実際にその基準から加工できるか、測定できるかも確認する必要があります。
設計基準が製造工程と大きく異なっていると、加工現場では別の寸法へ変換する必要が生じ、その過程で新たな公差管理が必要になる場合があります。
そのため、設計基準、加工基準、組立基準、測定基準をできる範囲で整合させることが有効です。
また、公差配分も重要です。
複数の寸法で一つの要求値を満たす場合、すべてへ同じ公差を割り当てる必要はありません。
加工しやすい部分、機能上重要な部分、測定しやすい部分などを考慮して配分します。
たとえば最終寸法の許容範囲が決まっている場合、その範囲を各構成寸法へ配分しますが、単純な均等配分ではなく、製造能力を踏まえて調整する方法があります。
さらに、設計の早い段階で主要な公差ループを確認することも重要です。
詳細な3D CADモデルが完成してから公差積み上げの問題を発見すると、複数の部品を変更しなければならない可能性があります。
構想設計や基本設計の段階で、主要部品の配置、基準面、重要すきまなどを簡単に計算しておけば、公差が積み上がりにくい構造を選択しやすくなります。
3D CADは寸法を正確に入力できるため、どうしても基準寸法そのものへ意識が向きやすくなります。
しかし実際の設計では、「理想寸法で成立しているか」に加えて「ばらついても成立するか」を確認することが重要です。
寸法公差だけでは評価できない組立誤差にも注意する
ここまでの計算は、主に一次元の寸法公差を対象としています。
しかし、実際の3D CADモデルや組立品では、寸法以外の形状ばらつきも最終位置へ影響します。
たとえば板厚が公差内に入っていても、接触面が傾いていれば、部品を積み重ねたときの上面位置は一様ではありません。
穴径が公差内でも、穴中心の位置がずれていれば、軸や締結部品が入らない場合があります。
軸の直径が適切でも、軸方向が傾いていれば、相手部品との組立性に影響することがあります。
このような形状、位置、姿勢のばらつきを管理する場合には、必要に応じて幾何的な許容範囲を含めて考えることが重要です。
特に複数の穴を同時に合わせる構造では、単純な穴径と部品幅の寸法公差だけでは組立性を判断できない場合があります。
3D CAD上ではすべての穴を理想位置へ配置できるため、こうした位置ずれが見えにくくなります。
公差計算で十分なすきまが確認できているにもかかわらず、試作品で組み立てにくい場合は、一次元の寸法積み上げ以外の要因を確認する必要があります。
面の姿勢、穴の位置、部品の変形、締結による移動などを含めて原因を調べます。
一方で、あらゆる形状へ厳しい管理条件を設定すると図面や検査が複雑になります。
製品機能へ影響する要素を見極め、重要な位置や姿勢を適切な基準から管理することが大切です。
3D CADモデルを確認するときも、理想的な形状が一致しているかだけではなく、どの面や軸が実際の位置決めへ使われるのかを確認すると、公差設計を考えやすくなります。
製造と測定まで含めて公差を決める
公差設計は3D CADや図面の中だけで完結するものではありません。
設定した公差を実際の製造工程で実現できるか、その結果を適切に測定できるかまで考える必要があります。
必要以上に厳しい公差を設定すると、加工条件の管理や検査に大きな負担がかかる可能性があります。
一方、製造しやすさだけを優先して公差を広げると、製品機能を満たせなくなる可能性があります。
そのため、機能要求、製造能力、測定能力のバランスを取ることが重要です。
たとえば公差積み上げ計算の結果、ある部品の厚さを非常に狭い範囲で管理する必要があると判明した場合、その厚さを現実的に加工できるか確認します。
難しい場合は、加工方法を変えるだけでなく、公差連鎖を短くする設計変更や調整機構の追加なども検討できます。
測定方法についても同様です。
基準面から奥まった形状までの距離や、複雑な三次元形状の位置を管理する場合、設計した公差をどのように検査するのかを事前に考えます。
測定基準と設計基準が一致していれば評価しやすくなりますが、大きく異なる場合は測定値を別の基準へ変換しなければならないことがあります。
大型部品や施工物では、設計段階の3D CADデータと実際の現場形状を比較したいケースもあります。
この場合も、設計寸法の公差と現場で取得する三次元データの測定精度は分けて考える必要があります。
小型機械部品の細かな寸法公差を管理する用途と、現場施工された構造物の位置や形状を確認する用途では、必要な測定方法や精度が異なるためです。
公差設計では、数値を厳しく設定すること自体を目的にするのではなく、必要な機能を現実の製造と検査で安定して実現できる状態を目指すことが重要です。
まとめ|3D CADと公差計算を組み合わせて設計品質を高める
3D CADでは理想形状を高い精度で作成できますが、実際に製造される部品には寸法ばらつきがあります。
個々の部品がそれぞれ図面公差を満たしていても、複数の寸法が連続すると公差が積み上がり、最終的なすきまや位置が想定より大きく変化することがあります。
この問題を防ぐには、まず製品機能として守るべき寸法を明確にすることが重要です。
そのうえで、基準から評価対象までの寸法連鎖を整理し、公差ループを作ります。各寸法が評価対象を増加させる方向に働くのか、減少させる方向に働くのかを確認し、上限寸法と下限寸法を使って最大状態と最小状態を計算します。
最初の確認にはワーストケース法が分かりやすく、すべての構成寸法が公差限界へ達した場合でも必要な機能を確保できるかを評価できます。
量産時の実際のばらつきを予測したい場合には、前提条件を確認したうえで統計的な方法を利用する考え方もあります。
ただし、統計的方法を使う場合には、各寸法の分布や独立性、工程平均などを考慮する必要があります。
計算結果は数値だけで完結させず、3D CADモデルへ戻して確認することも重要です。
一次元の計算では問題がなくても、三次元形状では別の部分が接触する可能性があります。また、穴と締結部のすきまなどによって、実物では3D CAD上の理想位置から部品が移動する場合もあります。
公差積み上げによって要求を満たせないことが判明した場合、すべての部品公差を一律に厳しくする必要はありません。
重要寸法を共通基準から直接管理する、寸法連鎖を短くする、位置決め方法を変更する、調整できる構造を取り入れるなど、3D CAD上の設計そのものを見直すことで改善できる場合があります。
また、実際の組立品では寸法公差だけでなく、面や軸の姿勢、穴の位置などのばらつきも影響します。設計値だけで成立性を判断せず、製造方法、組立方法、測定方法まで含めて確認することが、安定した製品設計につながります。
3D CADによる設計と公差計算を組み合わせることで、試作や量産の段階で初めて組立誤差に気付くリスクを減らし、設計の早い段階から問題を検討しやすくなります。理想形状を作るだけでなく、実際の部品が公差範囲で変化しても機能する設計を目指すことが、公差設計の基本です。
さらに、現場施工物や大型構造物では、3D CAD上の設計情報だけでなく、現地で取得した位置情報や三次元データと照合することで、設計と実物の差を確認する活用方法も考えられます。設計した3Dデータを現場での位置確認や三次元計測へつなげたい場合には、センチメートル級の測位や現場での三次元計測に対応するLRTK Phoneの活用も選択肢になります。