既存設備の改修、交換部品の設計、製造終了品の再製作、現物しか残っていない部品の図面化などでは、実物の形状を3D CAD上に再現する必要があります。しかし、元の設計データや2D図面が残っていない場合、ノギスや巻尺だけで複雑な形状を測りながらモデルを起こすのは簡単ではありません。
そこで活用できるのが、3Dスキャナーや写真計測などから取得した点群データです。対象物の表面形状を多数の三次元座標として取得し、その点群を3D CAD上で参照すれば、既存部品の寸法や曲面、穴位置、取付面などを確認しながらモデルを作成できます。
ただし、点群を3D CADに読み込めば、そのまま正確なソリッドモデルが完成するわけではありません。点群にはノイズや欠測が含まれることがあり、エッジや穴の中心、理想的な平面や円筒面も必ずしも明確には表れません。また、使用目的によっては現物の摩耗や変形を忠実に再現するのではなく、本来あるべき設計形状を推定してモデル化する必要があります。
重要なのは、点群を完成形として扱うのではなく、3D CADで既存部品を再構築するための形状参照データとして利用することです。本記事では、点群から既存部品を3D CADで再現する基本的な流れを6ステップに分け、計測からモデル作成、精度確認までの考え方を詳しく解説します。
点群から既存部品を再現する前に決めておきたいこと
点群から既存部品を3D CADで再現するとき、最初に決めたいのは「どこまで現物を忠実に再現するのか」です。同じ部品を対象にしていても、目的によって必要なモデルの作り方は異なります。
例えば、既設設備との干渉確認が目的なら、外形や取付位置を中心に再現すれば十分な場合があります。一方、交換部品を新たに製作するのであれば、穴径、軸径、取付面、厚さ、中心距離など、加工や組立に関係する寸法をより慎重に決める必要があります。
現物には摩耗、腐食、変形、塗装の厚み、溶接ビードなどが存在することもあります。スキャンした点群には、こうした現在の状態も形状として含まれます。そのため、「現物の現在形状をそのまま残したいのか」「新品時の設計形状に近い状態を復元したいのか」を区別することが重要です。
例えば、本来直径50mmで製作されたと考えられる軸を点群から測定したところ、場所によって49.7mmから49.9mm程度に見える場合があります。ここで点群表面をそのままトレースすると、わずかに不規則な軸形状になります。しかし交換部品を設計する目的であれば、周辺形状や規格、測定結果を踏まえて、理想的な円筒としてモデル化するほうが適している可能性があります。
このように、点群からのモデリングでは「測った形」と「設計する形」を区別する必要があります。3D CADは点群をなぞるためだけの道具ではなく、計測結果を基に設計意図を整理し、再利用可能な形状へ置き換えるための道具として考えると作業を進めやすくなります。
ステップ1 対象部品と再現目的を整理する
最初のステップは、対象部品のどの部分を、何のために3D CAD化するのかを整理することです。ここが曖昧なまま計測を始めると、後から必要な面が撮れていなかったり、重要な穴の周囲だけ点群密度が不足していたりすることがあります。
まず確認したいのは、部品全体を再現する必要があるのか、それとも接続部や交換対象部分だけでよいのかという点です。大型設備の一部だけを交換するのであれば、周辺すべてを細かくスキャンする必要はありません。ただし、取付関係を確認するためには、交換対象の周辺形状を一定範囲まで取得しておく必要があります。
次に、モデルに必要な精度を考えます。配置検討用のモデルと、機械加工用のモデルでは求められる精度が異なります。外形干渉を確認したいだけなら数mm程度の形状差が問題にならない場合もありますが、嵌合部やボルト穴を再現する場合は、より細かな確認が必要になることがあります。
また、計測前に「設計基準として使えそうな面」を探しておくと、その後の作業が進めやすくなります。例えば、機械加工された平面、円筒軸、ボルト穴列、対称面などです。
こうした形状は、点群を3D CAD上で位置合わせするときの基準にもなります。部品の底面をXY平面に合わせ、軸中心をZ軸に合わせるといったルールを最初に決めておけば、その後に作成するスケッチや寸法も整理しやすくなります。
対象物の材質や表面状態も確認しておきたいポイントです。光沢の強い金属、黒色の表面、透明部品、細いエッジなどは、使用する計測方法によって取得しにくいことがあります。深い穴や奥まった部分も、外側からのスキャンだけでは点が取得できないことがあります。
そのため、点群だけですべてを測定しようとするのではなく、必要に応じてノギス、マイクロメーター、巻尺、デプスゲージなどによる直接測定を組み合わせる考え方が有効です。
点群は広い範囲の形状関係を一度に把握するのが得意ですが、すべての寸法を自動的に保証するものではありません。目的と必要精度を先に整理することで、点群を使う部分と直接測定する部分を切り分けやすくなります。
ステップ2 点群を取得して不要点を整理する
再現目的を決めたら、対象物の点群を取得します。重要なのは、単に点の数を増やすことではなく、3D CADで形状を判断するために必要な面を途切れず取得することです。
例えば箱形部品なら、正面だけでなく側面、背面、上面、底面付近まで取得できているかを確認します。円筒部品であれば、一方向からだけ取得すると反対側が欠測し、円の中心や直径を正しく推定しにくくなる場合があります。
複数方向から計測する場合は、それぞれのデータを適切に位置合わせする必要があります。位置合わせにずれが生じると、本来1枚の平面である部分が二重に見えたり、円筒面が厚く見えたりします。この状態で3D CADモデルを作ると、寸法判断を誤る原因になります。
点群取得後は、対象部品以外の不要点を整理します。作業台、床、周囲の設備、治具、作業者、配線などが含まれている場合、それらを可能な範囲で分離します。
特に小型部品を扱う場合、対象物の周囲に大量の背景点があると、CAD上で断面を確認するときに視認性が低下します。対象物から離れた点を削除し、必要な形状だけを扱える状態にすると、その後の作業が効率化できます。
ノイズの除去も必要です。ただし、点群をきれいにしようとして強い平滑化や大量の点削除を行うと、本来存在する小さな段差や角部まで失われる可能性があります。
例えば、部品に1mm程度の段差がある場合、強いノイズ除去によってその境界が曖昧になることがあります。したがって、点群処理では見た目を滑らかにすることよりも、必要な幾何形状が残っているかを優先します。
点の密度も均一とは限りません。スキャナーから近い部分は密度が高く、陰になる部分は低くなることがあります。点がほとんど存在しない場所については、周囲の点から安易に形状を補間しないことも重要です。
点群が存在しない部分は「何もない」のではなく、「計測できていない」可能性があります。欠測部分を自動補間したメッシュだけを見てしまうと、実際には確認できていない形状を存在するものとして扱う危険があります。
そのため、既存部品の再現では、元の点群を残しながら作業することが重要です。メッシュ化や平滑化を行う場合も、元点群と比較できる状態を維持しておくと、後工程で判断根拠を確認しやすくなります。
ステップ3 座標系と基準面を決めて点群を位置合わせする
点群を3D CADに読み込んだ直後は、対象部品が任意の角度や位置に配置されている場合があります。その状態でもモデリングはできますが、後のスケッチや寸法設定が複雑になります。
そこで、部品の形状に合わせて基準座標を設定します。
例えば、底面が機械加工された平面であれば、その面をXY平面に合わせます。円筒軸を中心に構成された部品であれば、その中心軸をX軸またはZ軸に合わせます。左右対称の部品なら、対称面をCADの基準面に合わせる方法もあります。
重要なのは、点群の一つの点だけを基準にするのではなく、多数の点から平面や円筒を推定して基準を作ることです。
実物の表面には計測誤差や粗さがあります。そのため、同じ平面を計測してもすべての点が完全に同一平面上に並ぶわけではありません。個々の点に合わせるのではなく、対象範囲全体の傾向から基準面を推定する必要があります。
例えば、底面に数万点の点群がある場合、その全体から代表平面を求め、その平面をCADのXY平面に合わせます。次に側面や穴中心などを使って回転方向を決めれば、部品の姿勢を整理できます。
この基準合わせは、後の寸法作成に大きく影響します。
点群がわずかに傾いた状態のまま断面を切ると、本来円形の穴が楕円のように見えることがあります。本来垂直な側面も、断面上では斜めに表示されます。その結果、必要以上に複雑なスプラインや不規則な形状を作ってしまうことがあります。
また、組付け相手のCADモデルが存在する場合は、単に点群単体で姿勢を整えるだけでなく、実際の組付け座標との関係も確認します。
例えば、既存部品の取付面と既存設備側の取付面を一致させたり、基準穴の中心位置を合わせたりすることで、復元した部品モデルをそのままアセンブリ検討に使用しやすくなります。
座標系を決める工程は、一見すると準備作業に見えますが、後のモデリング品質を左右する重要な工程です。基準が曖昧なままモデリングを進めると、途中でモデル全体を回転させたり、寸法基準を作り直したりすることになりやすいため、早い段階で整理しておくことが大切です。
ステップ4 断面から基本形状と寸法を読み取る
点群の位置合わせができたら、いよいよ具体的な形状を読み取ります。ここで有効なのが、任意の位置で点群を切断して断面を見る方法です。
三次元の点群をそのまま眺めていると、細かな段差や穴の境界を判断しにくい場合があります。一方、一定幅の断面として表示すると、輪郭や中心位置を確認しやすくなります。
例えば回転体の部品であれば、中心軸を通る断面を作成します。すると、外径、段付き部、溝、フランジ厚などを二次元形状として確認できます。断面形状を基にスケッチを作成し、回転フィーチャーを使用すれば、比較的少ない操作でモデル化できます。
箱形部品の場合は、上面、正面、側面に平行な複数の断面を確認します。一つの断面だけで形状を判断すると、局所的な変形やノイズの影響を受ける可能性があります。
例えば幅100mm程度に見える部品でも、中央断面だけを見ると99.8mm、端部では100.3mmのようにばらついて見えることがあります。この場合、どの寸法を採用するかは目的によって変わります。
現物形状を忠実に記録したいなら、場所ごとの変化を残す選択があります。一方、製造用モデルを作るのであれば、本来の設計寸法を推定して100mmとして定義する判断も考えられます。
円や穴についても同様です。点群の輪郭を一点ずつつないで円らしき形状を作るのではなく、複数の点から円や円筒をフィッティングし、中心と直径を求める方法が有効です。
穴の入口部分は面取りや摩耗によって輪郭が不明瞭な場合があります。そのため、入口の一点だけで直径を判断するのではなく、穴内部の複数断面を確認したほうが形状を把握しやすくなります。
平面、円、円筒、球、円錐といった基本的な幾何形状として整理できる部分は、できるだけ理想形状に置き換えて考えます。
これは点群から3D CADモデルを作るうえで非常に重要です。点群の表面をそのまま細かくトレースすると、微小な凹凸を大量に含んだモデルになり、寸法変更や加工データ作成が難しくなります。
既存部品には、多くの場合、設計時の幾何学的な意図があります。平面は平面、軸は円筒、穴は円、対称部は対称として作られていることが一般的です。点群からその設計意図を読み取り、CADのフィーチャーとして置き換えることが、再利用しやすいモデルを作るポイントです。
ステップ5 3D CADでフィーチャーを再構築する
形状と主要寸法を読み取ったら、3D CAD上でモデルを構築します。
ここでの考え方は、点群表面をそのままコピーするのではなく、通常の部品設計と同じようにスケッチ、押し出し、回転、穴、フィレット、面取りなどのフィーチャーを組み合わせて形状を再構築することです。
例えば、フランジ付きの軸部品なら、中心断面をスケッチし、回転フィーチャーで基本形状を作れます。その後、ボルト穴やキー溝、面取りなどを追加します。
ブラケットのような部品なら、基準となる板厚を押し出しで作成し、取付穴、補強部、切欠きなどを順番に追加します。
この方法の利点は、完成モデルに設計寸法と履歴を持たせられることです。
点群から直接作成したポリゴンモデルでは、直径を変更したいときに表面を直接編集する必要があります。一方、3D CADで直径50mmの円筒として作成しておけば、寸法値を変更することで形状を更新できます。
また、穴同士の位置関係を寸法拘束したり、左右対称条件を与えたりできます。将来似た部品を設計するときにも流用しやすくなります。
モデリングの順序にも注意が必要です。
最初から細かなフィレットや面取りまで作り込むより、まず主要な外形、取付面、穴、軸などを作成し、点群と一致するか確認するほうが効率的です。
基本形状がずれている状態で細部まで作り込むと、後で大きな修正が必要になります。
例えば、最初に本体幅、全長、主要高さ、中心軸、取付穴位置を決めます。この段階で点群との位置関係を確認し、大きな問題がなければ、溝、リブ、フィレット、面取りなどを追加します。
鋳造品や樹脂成形品のように自由曲面が含まれる場合は、単純な押し出しだけでは再現できません。この場合は複数断面から輪郭を作成し、ロフトやサーフェスなどを利用する方法があります。
ただし、自由曲面でも点群の一点一点を通る面を無理に作る必要はありません。点群にはノイズが存在するため、すべての点を通過する曲面を作ると細かなうねりが生じる可能性があります。
複数の代表断面を取り、その形状傾向を確認しながら滑らかな曲面を作るほうが、元の設計意図に近いモデルになる場合があります。
対称性も積極的に利用できます。
点群では左右でわずかな差があっても、それが製造誤差や使用中の変形によるものなのか、もともと非対称設計なのかを考える必要があります。本来対称な部品と判断できる場合は、片側を作成してミラーすることで、構造が明確なモデルになります。
一方、本当に左右で形状が異なる場合は、無理に対称化してはいけません。点群、現物観察、組付け状態などを組み合わせて判断します。
ネジ穴についても注意が必要です。点群ではねじ山まで安定して取得できるとは限らないため、穴径だけからねじ規格を断定しないことが重要です。現物確認や既存資料、相手部品などの情報を使って判断する必要があります。
このように、3D CADによる再構築は単なる形状トレースではありません。点群から読み取れる情報と、機械設計として合理的な形状を組み合わせながらモデルを作る工程です。
ステップ6 点群とCADモデルを比較して仕上げる
3D CADモデルができたら、最後に元の点群と重ね合わせて確認します。
この工程を省略すると、見た目は似ていても、一部の寸法や位置関係がずれたまま完成してしまう可能性があります。
まず確認したいのは全体的な位置関係です。点群とCADモデルを半透明表示などで重ね、外形が大きくずれていないかを確認します。
次に、主要な基準部分を確認します。取付面、穴中心、軸中心、接触面、全長、全幅、全高など、機能に直接関係する部分を優先します。
比較機能を利用できる環境では、CADモデル表面と点群の距離を確認する方法もあります。ただし、距離差が存在するからといって、必ずCADモデルが間違っているとは限りません。
例えば鋳肌や塗装面では、表面の微小な凹凸によって差が生じます。使用済み部品では摩耗や変形による差もあります。
そのため、差分を評価するときは、「なぜ差が生じているのか」を考えることが重要です。
機械加工面で全体的に一定方向へずれているなら、CAD寸法や位置合わせが誤っている可能性があります。一方、局所的な傷や突起だけに差がある場合は、現物特有の状態である可能性があります。
断面比較も有効です。
例えば10mm間隔など複数位置で断面を作り、点群とCAD輪郭を重ねます。自由曲面や鋳物部品では、三次元表示だけよりも断面のほうが形状差を見つけやすい場合があります。
穴位置については、各穴を個別に確認するだけでなく、穴同士の中心距離や配列も確認します。
四隅にボルト穴がある部品なら、それぞれの穴径だけでなく、横方向と縦方向のピッチ、中心線からの距離などを確認します。取付互換性を確保するうえでは、外形より穴位置のほうが重要になることもあります。
また、点群比較とは別に直接測定値との照合も行います。
例えばノギスで測定した板厚、軸径、穴径などがあるなら、CAD寸法と一致しているかを確認します。異なる計測方法を組み合わせることで、点群だけに依存した誤判断を減らせます。
最終的には、どの寸法を点群から決め、どの寸法を直接測定し、どの部分を推定したのかを記録しておくとよいでしょう。
特に製造用モデルとして使用する場合、「点群に見えているから正しい」と考えるのではなく、重要寸法について確認根拠を残すことが大切です。
点群から既存部品を再現するときに起こりやすい失敗
点群を利用した3D CADモデリングでは、いくつか典型的な失敗があります。
代表的なのが、点群表面をそのまま正解として扱ってしまうことです。
実物の部品は完全な幾何形状ではありません。表面粗さ、摩耗、塗装、汚れ、腐食、へこみ、溶接などによって、設計上の寸法と現在の表面形状には差が生じます。
例えば機械加工された平面でも、点群では完全な一枚の平面には見えません。そこで点ごとの凹凸をCAD形状へ反映してしまうと、本来必要のない複雑な面を作ることになります。
もう一つは、一つの断面だけで寸法を決めることです。
点群には局所的なノイズがあります。円筒部品の直径を一つの断面だけから決めると、その位置に傷や欠測があった場合に誤った寸法になる可能性があります。複数位置で断面を確認し、形状の傾向を見ることが重要です。
基準面を決めずにモデリングを始める失敗もあります。
対象物が数度傾いた点群のままスケッチを作成すると、本来水平な面に対して斜めの寸法を設定することになります。モデルが複雑になり、後から修正しにくくなります。
また、見えない部分を想像だけで補完することにも注意が必要です。
点群の欠測部分に対して、周囲の形状から「たぶんこうだろう」と推定してモデル化することはあります。しかし、その部分が製造や組付けに重要であれば、追加計測や現物確認を行うほうが安全です。
特に深穴、裏面、接合面、内部構造などは、外側の点群だけでは確認できない場合があります。
さらに、点群の密度が高ければ高精度だと考えるのも避けたいところです。
大量の点があっても、元の計測精度や位置合わせが不十分なら、正確なモデルになるとは限りません。逆に、必要な形状が明確に取得できていれば、点数が必要以上に多くなくても寸法判断できる場合があります。
重要なのは点数そのものではなく、必要な位置が適切に計測され、形状を判断できる品質になっているかです。
再現精度を高めるために確認したいポイント
既存部品の再現精度を高めるには、すべての場所を同じ精度で作ろうとするのではなく、部品の機能に応じて重要部分を分けて考える方法が有効です。
例えばブラケットなら、取付面とボルト穴位置は重要度が高い一方、外側の面取り形状は比較的重要度が低い場合があります。
軸部品なら、嵌合する軸径や軸中心、肩位置は重要ですが、把持に関係しない端部形状は多少簡略化できる場合があります。
こうした優先順位を付けることで、必要な部分へ計測とモデリングの時間を集中できます。
また、寸法値だけでなく形状の関係性を見ることも大切です。
例えば二つの穴の中心距離が100mmであったとしても、それぞれの穴が基準面に対してどの位置にあるかが不明確なら、取付互換性を確保できないことがあります。
そのため、点群から寸法を取得するときは、基準面からの距離、中心線からの距離、対称関係、平行関係、直角関係などを確認します。
複数箇所の測定結果を比較することも有効です。
例えば本来同じ直径と考えられる4個の穴を測定したとき、それぞれの推定径がわずかに異なる場合があります。このとき平均的な値だけを見るのではなく、ばらつきの原因も考えます。
計測ノイズなのか、摩耗なのか、穴ごとに異なる設計なのかによって、CADに設定する値は変わります。
現物の設計意図を推定するときには、一般的な加工方法もヒントになります。
旋削された形状なら、同一軸上に複数の円筒や段差が存在することが多く、フライス加工された部品なら平面や直交形状が中心になります。
ただし、こうした考え方はあくまで推定を助けるためのものです。点群や現物確認よりも加工上の想像を優先してはいけません。
特に交換部品や安全性に関係する部品では、推定部分を明確にし、必要に応じて設計者や製造担当者と確認することが重要です。
点群からの3D CAD化が向いている部品
点群を使った既存部品の3D CAD化は、図面や元データがない部品で特に役立ちます。
例えば、長年使用している設備のカバー、ブラケット、架台、配管周辺部品、治具、鋳物部品などです。
単純な直方体や円筒だけで構成された小さな部品であれば、ノギスなどによる直接測定だけで十分なこともあります。一方、複数の面が複雑に組み合わさっていたり、自由曲面を含んでいたり、穴位置が多数存在したりする部品では、点群によって全体形状を一度に記録できるメリットがあります。
大型部品にも向いています。
大型設備の一部は、ノギスでは測れず、巻尺だけでは三次元的な位置関係を把握しにくい場合があります。点群なら、離れた場所にある穴や面同士の関係も同一の三次元データ上で確認できます。
一方、細かなねじ山、微小な溝、内部穴など、使用する計測方法では十分に取得できない形状もあります。
そのため、対象物を見て「点群だけで全部作る」と考えるのではなく、点群が得意な全体形状と、直接測定が得意な細部寸法を組み合わせることが重要です。
点群を使っても人の判断が必要になる理由
点群処理や3D CADには自動化機能があります。平面や円筒を自動抽出したり、点群からメッシュを生成したり、形状を近似したりできる環境もあります。
しかし、既存部品の再設計では、自動処理だけで完成モデルを決めるのが難しい場面があります。
その理由は、点群が表しているのが「設計値」ではなく、「計測された現物表面」だからです。
例えば、点群から円筒をフィッティングして直径49.86mmという結果が得られたとしても、その部品が本来49.86mmで設計されていたとは限りません。
元は50mmで、摩耗や計測条件によって49.86mmと推定されている可能性もあります。反対に、特殊な嵌合条件によって意図的に50mmより小さい寸法だった可能性もあります。
点群だけでは、その設計意図までは判断できません。
また、鋳造品の自由曲面では、どこまで形状を忠実に残し、どこから滑らかな設計面へ置き換えるかという判断が必要です。
補修履歴がある部品では、溶接された部分や追加工された部分が元の設計なのか、後から変更されたものなのかも点群だけでは分かりません。
したがって、点群から3D CADモデルを作る作業では、自動変換よりも「どの形状を設計情報として採用するか」という判断が重要になります。
点群は非常に強力な情報源ですが、最終的なCADモデルを構成する寸法や拘束条件は、用途に合わせて決める必要があります。
3D CADモデルを再利用しやすくする考え方
点群から既存部品を再現する作業には時間がかかるため、一度作成したモデルをその後も利用できる状態にしておくことが大切です。
再利用しやすいモデルにするポイントの一つは、主要寸法をパラメータとして持たせることです。
例えば、全幅、全高、板厚、穴径、穴ピッチ、軸径などをスケッチ寸法として定義しておけば、類似部品を作るときに寸法変更だけで対応しやすくなります。
フィーチャー名やスケッチ名も整理しておくと、後からモデルを見た人が構造を理解しやすくなります。
点群から作ったモデルでは、「スケッチ1」「押し出し2」といった名称だけでは、どの部分を表しているのか分かりにくくなりがちです。
例えば基準外形、取付穴、中心軸、補強リブといった形で役割が分かる名称を付けておくと、後から修正しやすくなります。
また、元の点群をCADモデルと一緒に管理しておくことも重要です。
数か月後に寸法を見直す必要が生じたとき、CADモデルだけでは「なぜこの寸法にしたのか」が分からなくなることがあります。元点群が残っていれば、形状を再確認できます。
可能であれば、重要寸法の測定方法や判断理由も記録します。
例えば、ある穴径について「点群から複数断面を確認し、直接測定値も参照して決定した」といった情報が残っていれば、後工程でモデルの信頼性を確認しやすくなります。
点群から作った3D CADモデルを単発の成果物ではなく、設備保全や設計変更、交換部品製作に使えるデジタル資産として管理することが、長期的な活用につながります。
点群から既存部品を再現するときは計測と設計を分けて考える
点群を利用すると、従来は多数の寸法を手作業で測定していた既存部品でも、三次元形状を確認しながら3D CADモデルを作成できます。
特に複雑な部品では、全体形状、穴位置、曲面、取付面などを同一データ上で確認できるため、リバースエンジニアリングの効率化につながります。
一方で、点群はあくまで計測された表面の集合です。そこにはノイズ、欠測、摩耗、変形、汚れなども含まれます。
そのため、点群をそのままCAD形状へ変換することだけを目的にするのではなく、どの形状が本来の設計意図なのかを考えながら再構築する必要があります。
今回紹介した6ステップでは、まず再現目的を整理し、必要な点群を取得します。その後、基準座標を決め、断面から基本形状を読み取り、3D CADのフィーチャーとしてモデル化し、最後に点群との比較によって確認します。
この流れを守ることで、単に見た目が似ているだけではなく、寸法変更や製造、組付け検討にも利用しやすいモデルを作りやすくなります。
まとめ
3D CADで点群から既存部品を再現する際は、最初から点群の表面を細かくトレースするのではなく、部品の設計意図を読み取りながら基本形状へ置き換えることが重要です。
ステップ1では対象部品と再現目的を明確にし、必要な精度と重要部分を整理します。ステップ2では複数方向から必要な点群を取得し、背景や不要点を整理します。ステップ3では基準面や中心軸を使って座標系を決め、3D CAD上で扱いやすい姿勢に点群を配置します。
ステップ4では複数の断面を確認し、平面、円、円筒、段差などの基本的な形状と寸法を読み取ります。ステップ5ではそれらをスケッチ、押し出し、回転、穴、ロフトなどのCADフィーチャーとして再構築します。そしてステップ6では完成したCADモデルを元点群と重ね、取付面、穴位置、外形、軸などの重要部分を中心に差を確認します。
点群から既存部品を再現するときに大切なのは、点群を絶対的な正解として扱わないことです。現物には摩耗や変形が存在し、点群にも計測誤差や欠測が含まれる可能性があります。
再製作や設計変更に使用する3D CADモデルでは、現在の現物形状を残すべき部分と、本来の設計形状へ整理すべき部分を切り分ける必要があります。
点群による三次元計測と3D CADによるパラメトリックなモデリングを組み合わせれば、図面が残っていない既存部品でも、形状を確認しながらデジタルモデルへ再構築できます。交換部品の設計、既設設備の改修、干渉確認、治具製作など、現物を起点とした設計業務を進めるうえで有効な方法です。