3D CADのマルチボディ設計とは
3D CADで複数の部品から構成される製品や装置を設計するとき、最初から部品ファイルを一つずつ作成する方法だけが選択肢ではありません。一つの設計ファイルの中に、互いに独立した複数の立体形状を作り、それぞれを別のボディとして管理する方法があります。この設計方法がマルチボディ設計です。
一般的な3D CADでは、一つのボディは連続した一つの立体として扱われます。通常の部品設計では一つのファイル内に一つのボディを作ることが多いですが、マルチボディ設計では同じファイル内に二つ以上のボディを保持します。それぞれのボディは個別に表示や非表示を切り替えたり、形状を追加したり、切り取ったりできます。設計が固まった段階で、各ボディを別々の部品として取り出す運用も可能です。
たとえば、上下に分割する樹脂ケース、複数枚に分かれた外装カバー、複数の鋼材から構成される架台、左右で形状が連続する意匠部品などで活用できます。最初に完成状態の外形を一体で作り、後から必要な位置で分割することで、各部品を別々に作るよりも形状のつながりを保ちやすくなります。
マルチボディ設計は、単に同じファイル内へ複数の立体を置くための機能ではありません。製品全体の形状を基準に部品境界を決め、各部品の位置関係を保ちながら設計を進めるための方法です。分割前の全体形状を設計の基準として残せるため、外形寸法や曲面形状を変更した場合にも、関連する部品へ変更を反映しやすくなります。
複数部品を最初から独立したファイルとして設計すると、一方の部品を変更した後に、隣接部品の形状や穴位置を手作業で調整しなければならないことがあります。修正の対象が多いほど、更新漏れや寸法の不一致が発生しやすくなります。マルチボディ設計では、複数のボディを同じ基準形状や寸法から作れるため、設計変更の影響をまとめて管理しやすい点が特徴です。
ただし、マルチボディ設計を使えば、どのような製品でも自動的に設計が簡単になるわけではありません。設計範囲を広げすぎたり、ボディ同士の参照関係を複雑にしたりすると、変更時にモデルが崩れる可能性があります。全体形状、分割面、接合部、部品化という順序を意識し、設計意図を整理しながら使うことが重要です。
マルチボディ設計で部品分割が楽になる理由
マルチボディ設計が部品分割に適している大きな理由は、完成状態の外形を確認しながら部品境界を決められることです。最初から部品ごとに設計すると、個々の形状を作る作業に意識が向きやすく、製品全体のまとまりや隣接部品との連続性を確認しにくくなる場合があります。
マルチボディ設計では、製品全体を一つの形状として作った後に、製造方法や組立方法に合わせて分割できます。分割位置を変更するときも、分割に使う基準面や曲面を修正することで、部品構成を見直しやすくなります。設計初期に部品境界を完全に決められない場合でも、全体形状の検討を先に進められます。
特に効果が大きいのは、複数部品にまたがる曲面を持つ製品です。外装部品を別々に作ると、境界付近で面の向きや曲率がわずかにずれ、組み立てたときに段差や不自然な折れが見えることがあります。全体の曲面を先に作ってから分割すれば、各部品が分割前の連続した面を引き継ぐため、外観のつながりを保ちやすくなります。
共通寸法をまとめて管理できることも利点です。全体幅、全体高さ、中心位置、外周の曲率、取付基準面などを上流の設計情報として定義し、複数のボディから参照できます。主要寸法を変更したときに、関連する部品形状が同じ基準から更新されるため、別ファイルへ同じ数値を何度も入力する負担を減らせます。
分割位置を比較しやすい点も実務では重要です。たとえば、大きなカバーを一体部品にするか、左右に分割するか、上下に分割するかを検討する場合、全体形状を残したまま複数の分割方法を試せます。材料寸法、加工設備、搬送経路、作業人数、保守方法などの条件を見ながら、適切な部品構成を選びやすくなります。
また、ボディ同士が同じ座標系に存在するため、位置合わせの確認も行いやすくなります。別ファイルで作った部品を組立モデルへ配置する場合、基準面や拘束条件の設定が必要です。マルチボディ設計では、分割前から正しい位置関係を保持しているため、初期の形状検討では配置作業を減らせます。
一方で、便利だからといって多くの部品を一つのファイルへ詰め込むと、設計履歴が長くなり、再計算の負荷や管理の難しさが増すことがあります。部品分割を楽にするためには、形状の関係が強い部品を適切な範囲にまとめることが大切です。
手順1 設計範囲と基準形状を決める
マルチボディ設計の最初の手順は、一つのモデルで扱う設計範囲を決めることです。すぐに細かな立体形状を作り始めるのではなく、どの部品群を同じ全体形状から作るかを整理します。
装置全体に数多くの部品が含まれていても、全てを一つのマルチボディモデルへまとめる必要はありません。形状のつながりが強い部品、同じ外形を共有する部品、分割位置を同時に検討したい部品などに範囲を絞ります。
たとえば、機械装置に架台、外装カバー、操作部、配管、配線支持部品が含まれている場合、装置全体を一つのマルチボディモデルにすると管理が複雑になりやすくなります。この場合は、外装カバーだけを一つの設計単位にし、架台や配管は別の部品または組立モデルとして管理する方法が考えられます。
外装カバーの前面、側面、上面が連続した外形を持つのであれば、その範囲を一つのマルチボディモデルで設計する効果が得られます。一方、外形との関連が少ない内部の購入部品や共通部品まで含めると、設計変更の影響範囲が不必要に広くなる可能性があります。
設計範囲を決めたら、全体の基準となる座標系、中心面、基準軸、取付面を定めます。左右対称の製品であれば中心面を基準にし、床や架台へ設置する製品であれば底面や取付面を高さ方向の基準にします。実際の組立や検査で使用する基準と、3D CAD上の基準を近づけることが重要です。
基準が不明確なモデルでは、形状を変更するたびに位置がずれたり、左右の部品が非対称になったりすることがあります。最終的な部品寸法だけでなく、製品全体がどこを起点に配置されるかを決めておくことで、各ボディを安定して作れます。
次に、複数のボディで共有する主要寸法を整理します。全体幅、全体高さ、奥行き、中心位置、板厚、外周のすき間、取付部の位置などが対象です。これらを個々の形状へ直接入力するのではなく、共通のスケッチや基準形状から参照できる構成にすると、変更時の修正箇所を減らせます。
設計初期には、完成品の大まかな外形を表す簡略形状を作ります。箱形、円筒形、押し出し形状などを使い、必要な大きさや周囲との離隔を確認します。この段階で、ねじ穴、細かな面取り、文字形状、小さな凹凸などを作り込みすぎないことが大切です。
初期段階から詳細形状を増やすと、後で分割位置を変更した際に、多くの形状を修正しなければならなくなります。まずは全体寸法と主要な機能空間を確定し、詳細は部品構成が固まってから追加するほうが、設計履歴を整理しやすくなります。
また、完成形だけでなく、内部に必要な空間も簡略形状で表します。搭載機器、配線、配管、可動部、作業者の手、工具などが占める範囲を仮のボディとして配置し、外形設計の参考にします。実部品と補助形状を区別できるように名称を付け、不要になった補助ボディは整理します。
この手順で目指すのは、細部まで完成した形状を作ることではありません。どの形状を全体設計の基準とし、どの範囲を後から部品へ分割するかを明確にすることです。基準が整理されていれば、分割方法を変更してもモデル全体が崩れにくくなります。
手順2 分割前の全体形状を作る
設計範囲と基準を決めたら、複数の部品を組み立てた後の全体形状を作ります。この段階では、個々の部品を意識しすぎず、製品として必要な外形や内部空間を一つのまとまりとして考えます。
樹脂ケースであれば、前面側と背面側を別々に作る前に、両方を合わせた外形を作成します。板金カバーであれば、複数の板が組み合わさった完成状態の輪郭を定義します。溶接構造物であれば、完成時の骨格や外周を先に作ります。
全体形状の作成方法は、対象によって異なります。直線的な構造では、断面形状の押し出しや基本立体の組み合わせが使いやすくなります。複雑な外装では、複数の断面やガイド形状を使って外周面を作り、後から厚みを与える方法があります。骨組み構造では、中心線や骨格となるスケッチを作成し、それを基準に部材形状を配置します。
重要なのは、分割後にも維持したい形状の連続性を、この段階で作っておくことです。外装の曲面を滑らかにつなぎたい場合は、分割前の全体形状で面の流れを確認します。各部品を別々に作ってから境界を合わせる方法では、面の向きや曲率がわずかに異なる可能性があります。
全体形状を作る際は、外側から見える面だけでなく、内部に必要な空間も確認します。搭載部品を収める空間、配線や配管を通す経路、可動部の動作範囲、締結作業に必要な工具空間などを考慮します。
外観上は問題のない形状でも、内部部品と干渉していたり、工具が入らなかったりすることがあります。マルチボディ設計の目的は、形状を簡単に分割することだけではありません。製品全体を見ながら、部品構成を合理的に決めることにあります。
設計履歴は、上流から下流へ自然に流れるように構成します。基本外形を作り、大きな切り欠きや開口を追加し、必要に応じて共通の肉厚を設定し、その後に分割処理を行う流れです。下流の細かな形状を上流の基準として使うと、変更時に参照関係が複雑になりやすくなります。
分割前に作る形状と、分割後に作る形状を区別することも重要です。複数部品にまたがる外周面や大きな開口は、分割前に作ると位置関係を管理しやすくなります。一方、特定の部品だけに存在する固定穴、補強リブ、局所的な面取りなどは、分割後に追加したほうが設計意図を理解しやすくなります。
たとえば、二つのカバーにまたがって見える表示部の外形は、全体形状の段階で決めることができます。しかし、片側のカバーだけに設ける締結穴を分割前に作ると、どの部品のための形状なのか分かりにくくなる場合があります。変更時に連動させたい形状は上流へ置き、部品固有の形状は下流へ分けることが基本です。
全体形状ができたら、正面、側面、上面だけでなく、断面や斜め方向からも確認します。薄すぎる部分、急激な断面変化、加工しにくい奥まった形状、強度上の弱点になりそうな箇所がないかを見ます。
曲面を含む場合は、光の反射や面の連続性を確認できる表示方法を利用し、不自然な折れやうねりがないかを確認します。分割後に境界付近の曲面を大きく直すと、複数のボディへ影響が広がるため、全体形状の段階で整えておくことが大切です。
手順3 製造と組立を考えて分割面を作る
全体形状を作った後は、部品をどこで分けるかを決めます。マルチボディ設計における分割位置は、見た目だけで決めるものではありません。製造方法、材料、組立順序、締結方法、保守性、搬送条件などを考慮する必要があります。
分割には、基準平面、作成した曲面、スケッチを基にした面、既存形状の面などを利用します。単純な箱形状であれば平面で分けられますが、複雑な意匠面や外装では、形状に沿った分割面が必要になることがあります。
まず確認したいのは製造方法です。切削加工、板金加工、成形、溶接、積層による造形などでは、適した部品の大きさや分割方向が異なります。使用する材料の寸法、加工設備に収まる範囲、工具が届く方向、加工時に保持できる面などを考慮します。
板材から作る部品では、分割後の形状が材料寸法に収まるかを確認します。切削部品では、加工機へ固定できるか、工具が必要な面へ到達できるかを検討します。型を使う部品では、型から取り出せる方向や、引っ掛かりとなる形状の有無を確認します。
次に、組立方向を考えます。分割後の部品をどの方向から近づけ、どの順番で固定するのかを確認します。完成状態で部品同士が重なっていなくても、組立途中の移動経路で干渉することがあります。
締結部へ工具が入るかどうかも重要です。ねじや固定部品を配置できても、工具を回す空間がなければ組み立てられません。作業者の手が入る範囲や、工具を斜めに入れなければならない箇所も確認します。
保守性を考慮する場合は、交換頻度の高い部品や点検対象へアクセスしやすい位置に分割線を設けます。内部機器を点検するためのカバーであれば、周辺部品を多数取り外さなくても開閉できる構成が望ましい場合があります。
分割位置の近くに穴、切り欠き、薄肉部がある場合は注意が必要です。分割面が穴のすぐ近くを通ると、幅の狭い突起や薄い縁が残ることがあります。このような形状は加工や成形が難しく、運搬や組立の途中で変形する可能性があります。
接合部に必要なすき間も考慮します。3D CAD上で二つのボディを完全に接触させても、実際の製造では寸法のばらつきや表面処理の厚みが生じます。すき間を全く設けない設計では、組立時に入らない、接触して傷が付く、外周に段差が出るといった問題が起こる可能性があります。
必要なすき間は、材料、製造方法、部品寸法、温度変化、求める外観などによって変わります。特定の値を一律に使うのではなく、製造側と確認しながら設定することが大切です。
外観面に分割線を置く場合は、製品を見る方向も確認します。正面から目立つ場所を避け、形状の折れ、角部、陰になりやすい位置へ分割線を移すことで、外観への影響を抑えられる場合があります。ただし、外観だけを優先して組立性や加工性を悪化させないようにします。
分割面は、後から位置を変更しやすい独立した基準として作ると管理しやすくなります。小さな面や一時的なエッジを直接参照すると、その形状が設計変更で消えた際に分割処理が成立しなくなる可能性があります。主要寸法から作った基準面や、安定したスケッチを使うことが有効です。
複雑な形状を分割する場合は、一度に細かく分けるのではなく、大きな単位から順に分割します。最初に左右へ分け、その後に上部と下部へ分けるなど、設計意図が追える順序にします。一つの分割操作で多くのボディを作ると、後からどの境界を変更すべきか分かりにくくなることがあります。
分割を実行した後は、生成されたボディの数を確認します。分割面が複雑な凹凸を通ると、意図しない小さなボディが生じる場合があります。全てのボディを一つずつ表示し、必要な範囲が正しいボディに含まれているかを確認します。
手順4 ボディごとに接合部と固有形状を追加する
分割によって複数のボディを作成したら、それぞれを実際の部品として成立させるための形状を追加します。全体形状を分けただけでは、締結、位置決め、補強、製造に必要な構造が不足していることがあります。
最初に、各ボディの役割を明確にします。外装を形成する部品なのか、内部機器を支持する部品なのか、荷重を受ける部品なのか、点検時に取り外す部品なのかを整理します。役割が曖昧なまま形状を追加すると、同じ機能が複数の部品に重複したり、必要な構造が不足したりする可能性があります。
次に、部品同士を接合する方法を決めます。ねじなどで締結する場合は、穴位置、座面、締結部品を収める空間、工具の進入方向を確認します。はめ合わせを使う場合は、挿入方向、かかり量、解除方法、繰り返し着脱するかどうかを考慮します。
接着や溶接を使う場合は、接合面の広さや作業方向を確認します。熱を伴う接合では、変形や周辺部品への影響も検討します。接合方法を決めずに分割すると、後から必要な接合面を確保できず、分割位置を見直すことになる場合があります。
位置決め構造と締結構造は分けて考えることが重要です。締結用の穴には組立のためのすき間があることが多く、穴だけでは部品位置が正確に決まらない場合があります。段差、突起、溝、基準面などを設け、組み立てたときに自然に位置が決まる構造を検討します。
マルチボディ設計では、隣接するボディを同時に表示しながら接合部を作れるため、対応する形状を確認しやすくなります。片側に突起を設け、もう片側に受け形状を作る場合も、位置や大きさを同じ設計空間で確認できます。
ただし、相手側ボディの細かな面やエッジを直接参照しすぎると、変更時に参照切れが起こりやすくなります。接合部の位置を共通スケッチや基準面で定義し、それぞれのボディが同じ基準を参照する構成にすると、参照関係を単純化できます。
部品間のすき間や重なりも調整します。外装部品の合わせ目では、均一なすき間だけでなく、内部が直接見えにくい構造や、異物が入りにくい重なりを設けることがあります。段付き形状や入り組んだ合わせ面を使う場合は、製造誤差によって組み付けられなくならないように注意します。
可動部を含む場合は、静止状態だけでなく動作中の干渉も確認します。閉じた状態では接触していなくても、開閉途中で角部が周辺ボディへ当たることがあります。回転中心、移動方向、最大位置を設定し、動作範囲全体で必要なすき間を確認します。
次に、各部品に固有の形状を追加します。補強リブ、取付穴、局所的な肉厚変更、面取り、丸みなどです。これらは部品の製造方法や役割に合わせて設計します。
板金部品では、曲げ位置、曲げ方向、展開した形状が成立するかを確認します。樹脂部品では、肉厚の急変や成形方向を考慮します。切削部品では、工具が届かない内角や深い溝がないかを確認します。溶接部品では、接合順序や作業姿勢を検討します。
3D CAD上で形状を作成できることと、実際に製造できることは同じではありません。製造方法が未確定の場合でも、候補となる方法を想定し、極端に加工しにくい形状を避ける必要があります。
細かな形状を追加する順序も重要です。分割位置や接合方法が確定する前に、多数の穴や面取りを作ると、上流の変更によって多くの形状が作り直しになる可能性があります。まず部品構成、接合部、位置決めを成立させ、その後で細部を追加します。
各ボディの名称もこの段階で整理します。自動的に付けられた番号だけでは、ボディが増えたときに判別しにくくなります。前面カバー、背面カバー、右側支持部、上部補強部など、位置や役割が分かる名称を付けます。
手順5 各ボディを部品化して検証する
各ボディの形状が整ったら、個別の部品として扱える状態へ整理します。マルチボディモデル内で形状が成立していても、部品ファイルへ分けた後や組立モデルへ配置した後に問題が見つかることがあります。
最初に、どのボディを正式な部品として取り出すかを確認します。検討用の補助ボディ、加工範囲を示すボディ、内部空間を示すボディなどが含まれている場合は、実部品と混同しないようにします。
ボディ名、部品名、図面名、管理番号の対応を整理します。名称が一致していないと、修正対象や手配対象を間違える可能性があります。社内の命名規則がある場合は、それに沿って部品ファイルを作成します。
各ボディを個別部品として保存する際は、元のマルチボディモデルとの参照関係を確認します。元モデルの変更を個別部品へ反映させたい場合は、関連を維持した状態で管理する方法があります。一方、設計確定後に個別部品を独立して編集する場合は、適切な時点で参照を整理します。
参照関係を維持すると、全体外形や分割位置を変更したときに個別部品を更新しやすくなります。ただし、元ファイルの名称や保存場所を変更すると、個別部品が元形状を見つけられなくなる可能性があります。チームで運用する場合は、ファイルの保存場所、名称変更、移動方法を統一することが重要です。
部品化した後は、組立モデルへ配置して検証します。マルチボディモデル内では全てのボディが正しい位置にあるため、配置作業が不要に見えるかもしれません。しかし、個別部品として組み直すことで、基準面、部品の向き、固定方法、組立条件が適切かを確認できます。
干渉確認では、明確な重なりだけでなく、必要なすき間が確保されているかも確認します。接触してはならない部品がわずかに離れているだけでは、製造ばらつきや組立誤差によって干渉する可能性があります。
設計上必要な最小距離を決め、その距離を下回る箇所を確認します。可動部では、複数の姿勢や動作途中の状態も検証します。配線や柔らかい部材がある場合は、静止位置だけでなく、曲がりや移動によって占める範囲も考慮します。
組立順序の検証も欠かせません。完成状態で部品同士が干渉していなくても、所定の位置へ入れるための経路がなければ組み立てられません。最初に固定する部品、その後に取り付ける部品、最後に締結する箇所を想定します。
工具空間も含めて確認します。締結部品を配置できても、工具を差し込む方向や回転させる空間が不足している場合があります。組立時だけでなく、保守や交換時に工具へアクセスできるかも確認します。
個別部品の図面化を想定し、加工や検査に使う基準面を整理します。全体モデルの中心面だけを基準に形状を作ると、部品単独の図面で寸法を指示しにくいことがあります。実際に加工や測定で使用する面を、個別部品の基準として設定します。
部品化後には、更新テストを行います。全体幅、高さ、分割位置など、影響の大きい寸法を一時的に変更し、全てのボディ、接合部、個別部品、組立モデルが正しく更新されるかを確認します。
変更によって形状が崩れたり、参照エラーが出たりする場合は、不安定な面やエッジを参照している可能性があります。エラーが起きた形状だけを修正するのではなく、参照元や設計順序を見直します。
更新テストの後は寸法を元へ戻し、警告や未解決の参照が残っていないことを確認します。設計の最後にまとめて検証するのではなく、主要な分割や接合部を作るたびに確認すると、問題の原因を特定しやすくなります。
マルチボディ設計で起こりやすい失敗
マルチボディ設計で起こりやすい失敗の一つは、一つのファイルへ多くの部品をまとめすぎることです。形状の関連が少ない部品まで含めると、設計履歴が長くなり、変更の影響範囲も分かりにくくなります。
マルチボディ設計は、形状や寸法を共有する部品に適しています。単に同じ装置に使われるという理由だけで、関係の薄い部品を全てまとめる必要はありません。全体モデルの再計算に時間がかかったり、一つの変更が不必要に多くの部品へ影響したりする可能性があります。
分割前に細部を作り込みすぎることも失敗につながります。小さな穴、文字形状、装飾的な凹凸、全周の面取りなどを全体形状へ追加してから分割すると、各ボディに不要な形状が引き継がれる場合があります。
分割位置を変更した際に細部の参照が崩れ、多数のエラーが発生することもあります。共通性の高い外形は分割前に作り、部品固有の詳細は分割後に追加する方法が扱いやすくなります。
不安定な面やエッジを基準に使うことにも注意が必要です。設計変更によって面が二つに分かれたり、エッジの数や位置が変わったりすると、後続の形状が参照先を失う可能性があります。
特に、小さな面取りの端や複雑な曲面の境界を分割基準にすると、上流の形状変更に弱くなります。中心面、主要な基準面、明確な寸法で管理されたスケッチなど、消えにくい設計情報を使うことが重要です。
ボディ同士を連鎖的に参照しすぎることも問題です。一つ目のボディから二つ目を作り、二つ目から三つ目を作る構成では、上流の小さな変更が下流全体へ影響します。
全てのボディを共通の基準形状やスケッチから作る構成にすると、依存関係を単純化できます。隣接部品の形状を直接利用する必要がある場合でも、どちらが基準となる部品かを明確にします。
設計の正となるファイルが曖昧な状態も避ける必要があります。全体形状を持つマルチボディモデルと、取り出した個別部品の両方を自由に変更すると、どちらが最新の設計か分からなくなります。
全体形状や分割境界はマルチボディモデルで変更し、部品固有の加工形状は個別部品で変更するなど、編集範囲を決めます。運用方法は使用する3D CADや社内体制によって変わりますが、更新方向を統一することが重要です。
検討用のボディを残しすぎることも混乱の原因です。工具形状、加工前形状、比較用形状、過去案などが同じモデルに残っていると、どのボディが最終部品なのか判別しにくくなります。
検討用ボディには用途が分かる名称を付け、不要になったものは削除または別の状態として保管します。表示と非表示を切り替えるだけで放置すると、部品化の際に誤ったボディを選ぶ可能性があります。
3D形状だけを見て分割を決めることにも注意が必要です。製品として形状が成立していても、使用する材料寸法に収まらない、加工機へ固定できない、搬入経路を通れない、作業者が持ち上げられないといった問題が起こる可能性があります。
マルチボディ設計の中だけで判断を完結させず、製造、組立、施工、保守を担当する関係者と分割位置を確認することが大切です。
設計変更に強いモデルへ整える方法
マルチボディ設計の利点を維持するには、変更に耐えやすいモデル構成と運用ルールが必要です。完成時に形状が正しく見えるだけでは、実務で扱いやすいモデルとは限りません。
最初に、設計の基準となる情報を上流へ集約します。全体幅、高さ、板厚、中心位置、主要な開口寸法など、複数のボディに影響する値を共通の寸法として管理します。
同じ意味の寸法を複数箇所へ個別に入力すると、一部だけ変更される可能性があります。たとえば、左右のカバーで同じ板厚を使う場合、それぞれへ別々に値を入力するよりも、共通の基準値から参照したほうが変更漏れを防ぎやすくなります。
設計履歴には、操作内容ではなく設計意図が分かる名称を付けます。単に押し出しや切り取りとするのではなく、全体外形、上部開口、左右分割、前面接合部などの名称にします。後から別の担当者が変更する場合でも、目的の形状を探しやすくなります。
形状を作る順序も整理します。基本外形、主要開口、分割、接合部、部品固有形状、細部という流れを意識します。途中で過去の形状へ戻って無理に参照を追加すると、設計履歴の関係が複雑になりやすくなります。
共通スケッチを使いすぎることにも注意します。一つの大きなスケッチに多くの部品形状を詰め込むと、寸法拘束が複雑になり、編集時に意図しない箇所が動く可能性があります。
全体外形、分割位置、接合位置など、目的ごとにスケッチを分けると、設計意図を整理しやすくなります。ただし、同じ寸法を複数のスケッチへ重複して持たせないようにします。
分割面は、後から変更する可能性を考えて独立させます。全体寸法や中心面から分割位置を定義すれば、部品構成の見直しが必要になった際に、分割面を動かして対応しやすくなります。
接合部も共通基準から作ります。片側の完成形状をそのまま相手側へ転写する方法は便利ですが、元の形状が変更されたときに意図しない更新が起こることがあります。どの部分を連動させ、どの部分を独立させるかを決めます。
大きな設計変更を行う前には、影響範囲を確認します。全体幅を変えた場合、外形だけでなく、接合部、穴位置、補強形状、図面、組立条件へ影響する可能性があります。
3D CADがエラーなく再計算できても、製造や組立の条件が保たれているとは限りません。必要なすき間、工具空間、材料寸法、強度上の条件なども再確認します。
変更前後の状態を比較できるようにすることも有効です。外形、部品数、接合位置、主要寸法などの変更点を記録します。設計変更の理由も残しておけば、後から分割位置を戻す場合や、類似製品を設計する場合に判断材料として使えます。
ファイルの保存場所や名称変更のルールも重要です。個別部品が元のマルチボディモデルを参照している場合、元ファイルを移動すると更新できなくなる可能性があります。チーム内で共通の保存場所を使い、関連ファイルを個人の作業場所へ分散させないようにします。
設計を確定する段階では、不要な参照、検討用ボディ、使われていないスケッチを整理します。ただし、将来の変更に必要な基準まで削除すると、モデルを再利用しにくくなります。製造用に固定する情報と、設計変更用に残す情報を分けて判断します。
マルチボディ設計に向いている対象
マルチボディ設計は、形状の関係が強い複数部品に向いています。共通する外形、連続する曲面、共通の基準寸法を持つ部品では、全体を一体で設計してから分割する効果が高くなります。
代表的な対象の一つが、上下や前後に分割するケースです。全体の外形を先に作り、内部部品の配置や組立方向を確認しながら分割位置を決められます。合わせ面や位置決め構造も、両方のボディを見ながら設計できます。
複数に分かれた外装カバーにも適しています。連続した曲面や外周線を一つの全体形状として作れるため、部品境界付近の外観を整えやすくなります。設計途中でカバーの枚数や分割方向を変える場合にも、全体形状を維持したまま検討できます。
溶接構造物や架台にも活用できます。完成状態の外形や骨格を先に作り、使用する鋼材や加工方法に合わせて各ボディへ分けます。部材同士の接合位置や干渉を同じ設計空間で確認できます。
一つの素材から複数部品を切り出す設計でも、マルチボディの考え方が使えます。加工前の素材形状と加工後の部品形状を同じモデル内で管理し、材料の使用範囲や加工順序を検討できます。
一方、互いの形状関係が少なく、独立して変更される部品は、最初から別部品として管理したほうが扱いやすい場合があります。規格寸法で繰り返し使用する共通部品や、他の製品でも再利用する部品をマルチボディモデルへ固定的に含めると、再利用性が下がる可能性があります。
担当者や変更時期が異なる部品も注意が必要です。一つのファイルへまとめると、複数の担当者が同時に編集しにくくなる場合があります。形状の関連性だけでなく、設計体制、承認手順、データ管理方法も考慮して設計範囲を決めます。
大規模な装置では、全体を一つのマルチボディモデルにするのではなく、外装、架台、操作部、支持構造などの単位に分ける方法があります。それぞれの単位内でマルチボディ設計を使い、単位間の関係は組立モデルで管理します。
マルチボディ設計を使うかどうかは、部品点数だけでは判断できません。部品間で共有する形状が多いか、分割位置を変更する可能性があるか、共通寸法をまとめて管理したいか、個別編集の必要性が高いかを基準に判断します。
現場条件を反映して部品分割の精度を高める
既存設備へ追加するカバー、架台、支持部品などを設計する場合、3D CAD上の図面情報だけでは十分でないことがあります。既存設備が図面どおりに設置されていなかったり、施工時の調整によって位置が変わっていたりするためです。
現場に合わせた部品分割を検討するには、設置対象の位置、周辺設備との距離、搬入経路、作業空間などを確認する必要があります。取得した現場情報を3D CADへ反映できれば、全体形状を作る段階から実際の制約を考慮できます。
たとえば、大きな外装を一体部品として製造できても、建物の出入口や通路を通過できなければ設置場所まで運べません。階段、曲がり角、周辺設備などによって搬入姿勢が制限される場合は、運搬可能な大きさへ分割する必要があります。
搬入可能性を検討するときは、部品単体の幅や高さだけでなく、梱包や保護材を含めた大きさ、持ち上げるための空間、姿勢を変えるための余裕も考慮します。マルチボディ設計であれば、全体外形を保ったまま分割位置を調整し、複数の部品構成を比較できます。
設置後の組立空間も重要です。現場で部品を接合する場合、作業者が立てる場所、工具を動かせる範囲、締結部を目視できる方向などを確認します。3D CAD上では周囲に何もない状態で設計しやすいため、既存設備や構造物の形状を簡略化して配置することが有効です。
保守作業を考慮する場合は、完成後にカバーを取り外せるか、内部部品を交換できるかを確認します。設置時には組み立てられても、周囲に別の設備が追加された後は取り外せないことがあります。使用期間中の作業も想定して分割位置を決めます。
現場の床面や壁面が完全な平面とは限りません。取付対象に傾きや凹凸がある場合、3D CAD上の理想形状だけで部品を作ると、取付部にすき間が生じる可能性があります。調整しろ、長穴、取付金具などを設け、現場差を吸収できる構造を検討します。
現場で得た位置や形状の情報は、取得条件によって精度や密度が異なります。そのまま製造寸法として扱うのではなく、必要に応じて既知寸法との照合や再確認を行います。設計に必要な精度と、現場情報の取得方法が合っているかを判断することが大切です。
現場条件を記録し、3D CADの設計データと照合する方法の一つとして、LRTK Phoneを活用することも考えられます。現地の位置や形状を確認し、設置範囲、周辺設備、搬入経路などの検討材料として利用すれば、机上の図面だけでは見つけにくい制約を把握しやすくなります。
マルチボディ設計は部品境界を調整しやすいため、現場確認で新しい条件が見つかった場合にも対応しやすい設計方法です。全体形状を一から作り直すのではなく、分割面や接合部を見直し、搬入しやすく、施工しやすい構成へ変更できます。
まとめ
3D CADのマルチボディ設計は、複数の部品を一つの全体形状から作り、設計の途中または終盤で分割する方法です。部品間で外形や曲面、基準寸法を共有できるため、各部品を最初から別々に作る場合よりも、形状のつながりを保ちやすくなります。
部品分割を楽にするための最初の手順は、一つのモデルで扱う範囲と基準形状を決めることです。関連性の低い部品までまとめず、形状や寸法を共有する部品群に範囲を絞ります。
次に、複数部品を組み立てた完成状態の外形を一つのモデルとして作ります。共通する外周面や主要な開口を先に作り、部品固有の細かな形状は後の工程へ分けます。
全体形状が整ったら、製造方法、組立方向、保守性、搬送条件などを考慮して分割面を作ります。外観だけで分割位置を決めず、材料寸法、加工設備、工具空間、部品の強度なども確認することが重要です。
分割後は、各ボディへ接合部、位置決め構造、補強形状などを追加します。隣接ボディを直接参照しすぎず、共通の基準面やスケッチから形状を作ることで、設計変更に強いモデルへ整えられます。
最後に、各ボディを個別の部品として保存し、組立モデルで干渉、すき間、組立順序、工具空間を検証します。主要寸法を一時的に変更する更新テストも行い、参照関係や分割処理が安定しているかを確認します。
マルチボディ設計では、分割機能そのものよりも、どの情報を共通化し、どの段階で部品固有の形状へ分けるかという設計判断が重要です。全体形状と共通寸法を上流にまとめ、接合部と個別形状を下流へ整理することで、部品分割だけでなく、その後の設計変更も進めやすくなります。
既存設備へ取り付ける部品では、3D CAD内の理想形状だけでなく、現場の設置位置、搬入経路、作業空間も確認する必要があります。現場情報と設計データを照合しながら部品構成を検討したい場合は、LRTK Phoneの活用も選択肢になります。