3D CADの設計ライブラリが必要な理由
3D CADを使った設計業務では、過去に作成した部品とよく似た形状を新しい案件で扱う場面が少なくありません。取付穴の位置だけが違うブラケット、長さだけが異なるシャフト、接続口の向きが変わった配管部品など、既存モデルを基に短時間で設計できそうな部品は数多く存在します。
しかし、過去の3D CADデータを個人のフォルダから探し出し、そのままコピーして使う方法では、設計効率が安定しません。どのデータが最新版なのか、どの案件で使用されたのか、寸法や材質を変更しても問題ないのかが分からないためです。見た目が似ていても、荷重条件、取付基準、加工方法、表面処理、寸法公差などが異なれば、そのまま流用することはできません。
そこで重要になるのが、再利用を前提として設計データを整理した設計ライブラリです。設計ライブラリは、単に3D CADファイルを一か所に集めた保管庫ではありません。再利用できる部品を選別し、検索に必要な情報を付与し、変更してよい範囲と変更してはいけない範囲を定め、承認されたデータだけを利用できる状態にする仕組みです。
設計ライブラリが適切に構築されていると、設計者はゼロから形状を作る必要がなくなります。過去の設計実績を確認しながら、条件に合う部品を短時間で選択できます。新規作図の時間を減らせるだけでなく、すでに製造実績のある形状や加工方法を活用しやすくなるため、設計変更や製造準備に伴う手戻りも抑えやすくなります。
また、部品の共通化にもつながります。設計者ごとに似た部品を別々に作成していると、わずかな寸法差しかない部品番号が増え、購買、在庫、製造、検査、保守の負担が大きくなります。設計ライブラリを通じて既存部品を検索する習慣が定着すれば、新しい部品を作る前に共通部品で代用できないかを検討できます。
ただし、最初からすべての3D CADデータを登録しようとすると、分類や確認に多くの工数がかかります。登録件数だけを増やしても、検索しにくい、内容を信用できない、修正方法が分からないという状態では利用されません。大切なのは、よく使う部品から対象を絞り、使いやすさと信頼性を両立させながら段階的に整備することです。
構築前に理解したい使い回しとコピーの違い
3D CADデータを再利用するときは、既存ファイルの単純なコピーと、管理された使い回しを分けて考える必要があります。コピーは短時間で始められる一方、元データとの関係が切れやすく、変更履歴や使用条件が分からなくなることがあります。管理された使い回しでは、どの部品を基にしたのか、どこを変更したのか、元の設計意図を引き継いでいるのかを追跡できる状態にします。
例えば、ある取付金具の3D CADデータを複製し、穴径だけを変更したとします。形状変更そのものは簡単ですが、その穴径が使用する締結部品に適合しているか、穴周辺の肉厚が不足しないか、加工工具が入るか、図面上の寸法や注記も更新されているかを確認しなければなりません。形状だけを見て流用すると、関連情報の変更漏れが発生しやすくなります。
設計ライブラリでは、再利用方法をいくつかの型に分けておくと管理しやすくなります。完成品として変更せずに使用する標準部品、決められた寸法だけを変更できる可変部品、参考形状として複製してから個別設計するひな型部品では、必要な管理方法が異なります。
変更せずに使う標準部品では、利用者による形状編集を原則として行わず、登録された部品番号と版をそのまま使用します。可変部品では、長さ、幅、高さ、穴数などの変更可能な項目を明確にし、入力できる範囲も定めます。ひな型部品では、コピー後に元データとの関連を残すか、別部品として独立させるかを決めておく必要があります。
この区別が曖昧なままライブラリを構築すると、同じデータが変更可能なテンプレートとして使われたり、変更禁止の標準品として使われたりします。その結果、設計者ごとに判断が分かれ、意図しない上書きや重複登録が起こります。
使い回しのルールを考える際は、3D形状だけでなく、図面、材質、質量、表面処理、加工方法、調達区分、検査条件なども対象に含めます。3D CADモデルが同じでも、材質や仕上げが異なれば別部品として扱う必要がある場合があります。反対に、案件ごとに異なる管理番号が付いていても、実際には同じ形状と仕様である可能性もあります。
設計ライブラリの目的は、似たファイルをたくさん保管することではなく、再利用可能な設計資産を安全に選べるようにすることです。そのためには、形状の類似性だけでなく、仕様と使用条件の一致を確認できる仕組みが欠かせません。
ステップ1:対象部品と再利用範囲を棚卸しする
最初のステップは、設計ライブラリに登録する対象を決めることです。すべての3D CADデータを一度に整理するのではなく、再利用の効果が高い部品群から着手します。使用頻度が高い部品、形状の違いが寸法変更に限られる部品、複数案件で繰り返し設計されている部品などが有力な候補です。
棚卸しでは、過去の案件フォルダや設計データ管理領域から、類似する部品を集めます。ファイル名だけで判断せず、3D形状、主要寸法、材質、加工方法、取付条件、図面の有無などを確認します。名称が異なっていても同じ形状の部品が存在することがあり、反対に同じ名称でも仕様が異なる場合があります。
集めた部品は、完全に同一のもの、寸法だけが異なるもの、一部の形状が異なるもの、用途は似ているが設計条件が異なるものに分けて考えます。この分類によって、共通部品として登録するのか、寸法可変型の部品にまとめるのか、ひな型として残すのかを判断しやすくなります。
再利用の優先順位を決める際は、設計時間だけでなく、後工程への影響も確認します。例えば、毎回少しずつ異なる取付金具を設計している場合、設計時間は短くても、部品番号の増加、材料手配の分散、加工段取りの増加、検査項目の増加などが発生している可能性があります。共通化によって複数部門の負担を減らせる部品は、ライブラリ化の効果が大きいと考えられます。
一方で、形状が似ているからといって、すべてを統合する必要はありません。強度条件が大きく異なる部品、法令や社内基準による管理が必要な部品、顧客ごとの承認仕様を含む部品などは、安易に共通化すると問題が生じます。再利用できる範囲を明確にし、用途や条件によって分けることが重要です。
棚卸しの段階では、代表となるマスター候補も選びます。作成日時が新しいだけでは、マスターとして適切とは限りません。製造実績があること、設計根拠を確認できること、寸法拘束が安定していること、不要な履歴や参照切れがないこと、図面や仕様情報がそろっていることなどを確認します。
3D CADモデルの内部構造も確認が必要です。見た目が同じでも、形状作成の手順が複雑すぎるモデルや、特定のアセンブリに依存した外部参照を持つモデルは、再利用時にエラーが起こりやすくなります。ライブラリ登録前に、不要な参照、未使用形状、重複した寸法、意図の分からない拘束などを整理しておくと、その後の運用が安定します。
また、登録対象から除外する基準も決めておきます。試作途中のデータ、検証が終わっていない形状、顧客固有情報を含むデータ、製造中止になった部品、設計根拠が確認できない部品などは、承認済みライブラリとは分けて保管します。参考資料として残す場合も、正式な再利用対象ではないことが分かる状態にします。
このステップの成果は、登録候補の一覧だけではありません。どの部品群から始めるか、どの程度まで共通化するか、どのデータをマスターとするかという判断基準を組織内で共有することが重要です。対象範囲を明確にすることで、登録作業の肥大化を防ぎ、早い段階で利用価値のあるライブラリを作れます。
ステップ2:命名規則と属性情報を標準化する
設計ライブラリの使いやすさは、3D CADモデルの見た目だけでなく、検索に使える情報の質によって決まります。ファイル名や部品名が設計者ごとに異なっていると、必要なデータが登録されていても見つけられません。そのため、ライブラリ構築の初期段階で命名規則と属性情報を標準化します。
命名規則では、名称に何を含めるかを決めます。部品の種類、用途、主要寸法、材質などをすべてファイル名に入れる方法は、一見分かりやすく見えます。しかし、情報を詰め込みすぎると名前が長くなり、仕様変更のたびにファイル名を変えなければなりません。名称は部品の識別に必要な最小限の情報にし、詳しい条件は属性として管理するほうが扱いやすくなります。
部品番号を使用する場合は、番号の付与単位を明確にします。形状が同じでも材質が異なれば別番号にするのか、表面処理の違いを別番号として扱うのか、長さ違いを個別番号にするのかを統一します。この判断が部門ごとに異なると、ライブラリ内に重複部品が増えます。
属性情報には、検索と判断に必要な項目を設定します。代表的な項目として、部品分類、用途、主要寸法、材質、表面処理、質量、製造方法、調達区分、使用可能な環境、承認状態、作成者、確認者、改訂番号、更新日などがあります。ただし、項目を増やしすぎると登録の負担が大きくなり、入力されない欄が増えます。
最初は、検索結果を絞り込むために必要な項目と、利用可否を判断するために必要な項目を優先します。例えば、取付金具を検索する場合、名称だけでなく、取付対象、荷重方向、穴径、穴間隔、材質などが分かると、候補を絞り込みやすくなります。
属性の入力方法も統一します。同じ材質を異なる略称や表記で登録すると、検索結果が分散します。全角と半角、記号の有無、単位の書き方、大小文字の違いなども検索性に影響します。選択式の項目を利用できる場合は、自由入力を減らし、登録者による表記差を抑えるとよいでしょう。
単位の管理も重要です。主要寸法を数値属性として登録するときは、使用する単位を統一します。入力欄に単位を含めるのか、システム側で単位を固定するのかを決め、数値だけを見ても意味が分かる状態にします。異なる単位体系のデータが混在する環境では、変換ミスを防ぐ確認手順も必要です。
設計ライブラリでは、検索用の分類を細かくしすぎないことも大切です。階層を深くしすぎると、登録者がどこに分類すべきか迷い、同じ種類の部品が別々の場所に入ってしまいます。大分類では機能や用途を基準にし、必要に応じて属性で絞り込む構造にすると運用しやすくなります。
また、利用者が実際にどのような言葉で検索するかを確認します。管理部門が使う正式名称と、設計現場で使われる呼び方が異なることは珍しくありません。正式名称だけでなく、一般的な呼称や社内で通用する別名を検索用キーワードとして登録すると、目的の部品を見つけやすくなります。
命名規則と属性情報は、最初に完全なものを作る必要はありません。ただし、途中で頻繁に変更すると、既存データの修正が必要になります。まず代表的な部品を使って試験登録し、実際の検索を行い、不足している項目や分かりにくい表現を確認してから全体へ展開すると安定します。
ステップ3:マスターモデルと派生ルールを設計する
ライブラリに登録する3D CADモデルは、再利用しても壊れにくい構造に整える必要があります。単に完成形状を保存するだけではなく、どの寸法を変更できるのか、どの基準面を使うのか、変更によって関連形状がどのように追従するのかを明確にします。
まず、マスターモデルの設計意図を整理します。部品の取付位置を決める基準面、中心軸、原点、主要な輪郭などを安定した基準として設定します。後から形状を追加した面や、変更によって消える可能性がある端面を参照基準にすると、寸法変更時に拘束が失われることがあります。
寸法可変型の部品では、変更可能な寸法を限定します。すべての寸法を自由に変更できる状態では、設計者が想定外の形状を作成し、強度や加工性を損なうおそれがあります。長さ、幅、穴間隔など、再利用時に変更する項目をあらかじめ選び、それ以外の寸法は設計意図を保てるように拘束します。
変更可能な寸法には、必要に応じて上限と下限を設けます。例えば、板幅を小さくしすぎると穴周辺の肉厚が不足し、長さを大きくしすぎるとたわみが増える可能性があります。3D CAD上で入力制限を設定できない場合でも、属性情報や説明欄に推奨範囲を記載し、範囲外の使用には再検討が必要であることを示します。
複数の寸法組み合わせを扱う場合は、代表的なバリエーションを整理します。寸法表や構成設定を使って一つのモデルから複数形状を管理する方法もありますが、バリエーションを増やしすぎると、どの組み合わせが承認済みなのか分かりにくくなります。製造実績がある組み合わせと、入力可能ではあるものの未検証の組み合わせを区別することが重要です。
マスターモデルには、形状以外の情報も関連付けます。材質、密度、質量計算条件、表面処理、図面、検査に必要な寸法などが一貫しているかを確認します。モデルを変更した際に質量や図面寸法が更新される仕組みであっても、自動更新だけに頼らず、登録時の確認項目を定めます。
部品モデルと図面の関係にも注意が必要です。3D CADモデルを派生させても、元の図面を複製し忘れたり、図面が古いモデルを参照したままになったりすることがあります。ライブラリから部品を取り出す手順に、関連図面や仕様書の扱いを含めておくと変更漏れを防ぎやすくなります。
アセンブリで使用する部品では、配置に使う基準も整えます。取付面、中心位置、接続方向などが部品ごとにばらばらだと、挿入するたびに拘束方法を考えなければなりません。共通部品では、同じ用途の部品に共通した配置基準を設定することで、組立モデルへの配置時間を短縮できます。
外部参照を含むモデルは、ライブラリ環境から取り出しても正しく開けるかを確認します。元案件のアセンブリや別フォルダのスケッチを参照していると、ファイルを移動した際に参照切れが発生します。ライブラリ登録用のモデルは、必要な関係だけを残し、特定案件への不要な依存を取り除きます。
再利用方法が複数ある場合は、利用者が迷わないようにします。変更せずに挿入する部品、寸法を選択して生成する部品、コピーして新規部品として編集するひな型では、操作手順と管理方法が異なります。ライブラリ画面や説明文で用途を明示し、誤った方法で編集されないようにします。
マスターモデルは一度作れば終わりではありません。実際に複数の寸法へ変更し、再計算エラーが起こらないか、フィレットや穴が消えないか、図面寸法が崩れないかを検証します。登録前に代表的な最小寸法、標準寸法、最大寸法で確認することで、利用開始後の問題を減らせます。
ステップ4:登録・検索・承認の流れを整える
設計ライブラリが継続的に使われるためには、登録から利用までの流れを分かりやすくする必要があります。登録手順が複雑すぎると、設計者はライブラリを更新せず、個人フォルダで管理を続けます。反対に、誰でも自由に登録できる状態では、重複データや未確認データが増え、ライブラリの信頼性が低下します。
まず、登録を申請する人、内容を確認する人、公開を承認する人を決めます。小規模な組織では一人が複数の役割を担当しても構いませんが、確認項目は明文化しておく必要があります。設計者の経験だけに頼ると、担当者が変わった際に基準が変化します。
登録時には、3D形状が正常に開けること、不要な外部参照がないこと、属性が入力されていること、部品番号が重複していないこと、図面や関連資料が正しいモデルを参照していることなどを確認します。可変部品では、変更可能な寸法と使用条件が記載されていることも必要です。
承認状態は、利用者が見てすぐに判断できるようにします。登録準備中、確認中、承認済み、使用停止、廃止などの状態を区別し、原則として承認済みデータだけを正式設計に使用します。過去の部品を参照目的で残す場合も、現在の設計にそのまま使えると誤解されない表示が必要です。
検索画面やフォルダ構成は、利用者の作業手順に合わせます。部品名が分かっている人だけでなく、必要な機能や寸法から探す人もいます。名称検索、分類検索、属性による絞り込み、形状の確認など、複数の入口を用意できると使いやすくなります。
検索結果には、判断に必要な情報を表示します。部品番号と名称だけでは、複数の候補から適切なものを選べません。主要寸法、材質、用途、承認状態、更新日などを一覧で確認できると、候補を開く回数を減らせます。3D形状の簡易表示が利用できる環境では、外観を確認してから詳細データを開けるようにすると効率的です。
似た部品が見つからなかった場合の手順も決めます。新規作成を始める前に、検索条件が適切だったか、別の分類に登録されていないかを確認します。それでも該当部品がない場合は、新規部品として作成し、完成後にライブラリ登録の対象になるかを判断します。
部品を利用した履歴を残せると、ライブラリ改善に役立ちます。どの部品がどの案件で使われたかが分かれば、使用頻度の高い部品を重点的に整備できます。また、不具合や設計変更が発生した際に、影響を受ける案件を確認しやすくなります。
マスターデータを直接編集できる権限は限定します。利用者が誤って上書きすると、その部品を参照している複数の設計へ影響が及ぶ可能性があります。通常の利用者は読み取りまたは派生作成のみとし、マスターの変更は申請と承認を経て行う仕組みが安全です。
改訂を行う場合は、旧版を残すか、どの時点から新版を使用するかを決めます。形状変更が既存製品へ影響する場合、単純な上書きではなく、改訂番号を更新して旧版との関係を残します。互換性がない変更では、新しい部品番号を付与する判断も必要です。
設計ライブラリの信頼性は、登録件数よりも承認の明確さによって高まります。利用者が安心して使えるデータを少しずつ増やし、未確認データと混在させないことが重要です。
ステップ5:運用指標を見ながら継続改善する
設計ライブラリは、公開した時点で完成するものではありません。実際の利用状況を確認し、検索しにくい部分、登録が進まない原因、使われない部品の特徴などを見ながら改善します。
最初に確認したいのは、ライブラリの利用率です。新しい設計で既存部品がどの程度検索され、どの程度再利用されているかを確認します。登録件数が増えていても、新規設計時に参照されていなければ、分類や検索方法、周知方法に問題がある可能性があります。
新規部品の作成数も有効な指標です。ライブラリ導入前後で、類似部品の新規登録が減っているかを確認します。ただし、新規部品が多いこと自体が問題とは限りません。新しい用途や仕様に必要な部品であれば作成すべきです。重要なのは、既存部品で対応できるにもかかわらず、検索不足によって重複部品が作られていないかを確認することです。
検索にかかる時間や、目的の部品を見つけられなかった件数も改善に役立ちます。利用者から、どのような言葉で検索したか、どの属性が不足していたかを聞き取ると、検索用キーワードや分類を見直せます。
登録作業の負担も確認します。必須属性が多すぎる、承認に時間がかかる、登録方法が分かりにくいといった問題があると、正式なライブラリを使わずに個人管理へ戻ってしまいます。品質を維持するための確認は必要ですが、利用頻度の低い情報まで一律に求めると運用が続きません。
定期的な棚卸しでは、重複部品、使用されていない部品、古い仕様の部品、参照切れのある部品を確認します。廃止した部品はすぐに削除するのではなく、過去案件との関係を確認できる状態で使用停止にする方法があります。旧版を完全に消してしまうと、過去の設計を再現できなくなる可能性があります。
利用者から不具合報告を受けた場合の対応手順も必要です。モデルの再計算エラー、属性の誤り、図面との不一致などが見つかったときは、一時的に使用停止とし、影響範囲を確認します。修正版を公開した後は、変更内容と適用範囲を利用者に伝えます。
ライブラリの管理責任を特定の担当者だけに集中させないことも重要です。一人だけが分類方法や登録手順を理解している状態では、異動や退職によって運用が止まります。判断基準、承認方法、改訂手順を文書化し、複数人で対応できるようにします。
改善活動では、利用者の意見を集める場を設けます。大規模な会議を頻繁に開く必要はありません。検索できなかった部品、追加してほしい属性、使いにくかったテンプレートなどを記録し、定期的に優先順位を付けて修正します。
設計ライブラリの成果は、単純な設計時間の短縮だけでは測れません。重複部品の減少、製造実績のある形状の利用増加、設計変更件数の減少、部品表の整理、調達品種の削減など、周辺業務への効果も確認します。複数部門に効果が見えると、データ整備への協力を得やすくなります。
類似部品ライブラリで起こりやすい失敗
設計ライブラリ構築で起こりやすい失敗の一つは、過去の3D CADファイルを分類せずに集めただけで完成と考えることです。ファイル数が多くても、最新版や承認状態が分からなければ、設計者は安心して利用できません。結果として、ライブラリを検索した後に内容を一から確認する必要が生じ、ゼロから作成したほうが早いと判断されます。
次に多いのが、分類を細かくしすぎることです。管理者にとって論理的な分類でも、利用者が保存場所を予測できなければ検索性は高まりません。一つの部品が複数の用途に使われる場合、保存場所だけで分類する方法には限界があります。分類階層は簡潔にし、用途や寸法などは属性で補うほうが柔軟です。
マスターモデルの作り込み不足も問題になります。寸法を変更すると形状が崩れる、不要な参照が残っている、図面が追従しないといった問題が一度でも起こると、利用者はライブラリ全体を信用しなくなります。登録前の検証を省かず、想定する変更範囲で安定して動作することを確認します。
反対に、マスターモデルを複雑にしすぎる失敗もあります。あらゆる形状を一つの可変モデルで表現しようとすると、条件分岐や寸法関係が増え、修正が難しくなります。用途や加工方法が大きく異なる部品は、無理に一つへまとめず、複数のマスターに分けたほうが安全です。
登録件数を目標にしてしまうことにも注意が必要です。件数を増やすことが優先されると、利用頻度の低い部品や確認不足のデータまで登録されます。設計ライブラリの価値は、必要な部品を早く見つけ、安心して使えることにあります。少数でも再利用効果の高い部品を整備するほうが、初期段階では成果を示しやすくなります。
既存部品の利用を過度に強制することも避けるべきです。共通化は重要ですが、使用条件に合わない部品を無理に流用すると、重量増加、加工性低下、組立性悪化などを招くことがあります。既存部品を優先して検討しつつ、新規設計が必要な場合には理由を記録して作成できる運用が現実的です。
また、3D CADデータだけを管理し、図面や仕様情報を別々に扱うと、不一致が起こりやすくなります。形状は新版なのに図面が旧版のまま、材質属性と注記が一致していないといった問題を防ぐため、関連資料をまとめて確認できる仕組みを整えます。
教育不足もライブラリが定着しない原因です。システムの操作方法だけでなく、なぜ既存部品を検索するのか、標準部品とひな型部品はどう違うのか、マスターを直接編集してはいけない理由は何かを共有します。利用者が目的を理解すると、ルールを形式的な負担ではなく、手戻りを減らすための仕組みとして受け入れやすくなります。
小さく始めて定着させる導入手順
設計ライブラリを現場へ定着させるには、対象を絞った試験運用から始める方法が有効です。最初から全部門、全製品、全3D CADデータを対象にすると、分類ルールの調整だけで時間がかかり、利用開始まで進まないことがあります。
まず、一つの製品群や一つの部品分類を選びます。繰り返し利用され、設計者が共通化の効果を実感しやすい部品が適しています。取付金具、カバー、スペーサー、軸部品など、主要寸法の違いで複数の類似品が存在する部品群は、試験対象として扱いやすいでしょう。
次に、代表的な設計者と管理担当者が協力し、登録候補を選びます。実際にその部品を使う人が参加することで、検索に必要な属性や、変更可能にしたい寸法を具体的に決められます。管理側だけでルールを作ると、現場で使われる名称や判断基準が反映されないことがあります。
選んだ部品をライブラリへ登録した後は、実際の設計案件で使用します。どのような検索語で見つけたか、候補の比較に必要な情報が表示されていたか、アセンブリへの配置がしやすかったか、寸法変更で問題が起こらなかったかを確認します。
試験運用で見つかった問題は、全体展開前に修正します。属性項目が多すぎる場合は減らし、検索結果が広すぎる場合は絞り込み条件を追加します。可変モデルが不安定な場合は、変更可能な範囲を狭めるか、複数モデルへ分割します。
一定期間の運用後、設計時間の変化、再利用件数、新規部品の作成数、利用者の評価などを確認します。効果が見えたら、隣接する部品群へ対象を広げます。このように小さな単位で成功例を積み重ねると、社内でライブラリ利用の必要性を共有しやすくなります。
新しい部品を設計した際に、ライブラリ登録を検討する流れも通常業務へ組み込みます。案件完了後にまとめて整理しようとすると、設計意図や注意点を忘れてしまうことがあります。設計承認や図面発行のタイミングで、再利用可能性を判断する工程を設けると、ライブラリを継続的に更新できます。
過去データの整理と、新規データの登録は分けて進めることも有効です。過去の膨大な3D CADデータをすべて整理し終えるまで新しい運用を始めない方法では、重複部品が増え続けます。新規設計について先に登録ルールを適用し、その後で利用頻度の高い過去データを順番に整備すると、ライブラリの品質を保ちやすくなります。
まとめ
3D CADで類似部品を効率よく使い回すには、過去データを一か所へ集めるだけでは不十分です。再利用に適した部品を選び、検索できる属性を付け、変更可能な範囲を定め、承認されたデータを安全に利用できる仕組みが必要です。
最初のステップでは、使用頻度や共通化の効果を基準に登録対象を棚卸しします。次に、命名規則と属性情報を統一し、名称が分からなくても用途や寸法から検索できる状態を整えます。マスターモデルでは、安定した基準と変更可能な寸法を明確にし、想定範囲で形状が崩れないことを検証します。
その後、登録、確認、承認、改訂の流れを決め、利用者が承認状態を判断できるようにします。運用開始後は、再利用率や検索状況、重複部品の発生数などを確認しながら、分類や属性、テンプレートを改善していきます。
設計ライブラリの構築は、一度に大量のデータを登録する作業ではありません。よく使う部品から小さく始め、実際の設計で利用し、問題を修正しながら対象を広げることが定着への近道です。信頼できる設計資産が蓄積されれば、新規設計の時間を短縮するだけでなく、部品の共通化、設計品質の安定、製造や調達の負担軽減にもつながります。
さらに、設計ライブラリを現場で取得した情報と組み合わせると、既存部品や設備の状態を確認しながら設計を進めやすくなります。位置情報や現況形状を設計検討へ反映したい場面では、現場情報を取得して共有できるLRTK Phoneの活用も検討できます。