樹脂成形品の設計では、3D CAD上で狙いどおりの寸法に仕上げても、実際に成形すると外形が小さくなったり、穴位置がずれたり、平面が反ったりすることがあります。主な要因の一つが、溶融した樹脂が金型内で冷却される過程に生じる収縮です。
ただし、収縮は材料ごとに一定の割合で発生する単純な現象ではありません。製品の肉厚、ゲート位置、樹脂の流れ、保圧の伝わり方、金型温度、冷却時間、繊維などの配向、取り出し後の保管状態によって、収縮量や変形方向は変わります。そのため、材料資料に示された代表的な収縮率をモデル全体へ一律に掛けるだけでは、重要寸法を安定させられない場合があります。
3D CADを活用すると、肉厚の偏りやリブ、ボスの集中を確認し、収縮補正の基準を明確にできます。さらに、金型構造やゲート候補、試作品の測定結果を設計モデルと関連付けることで、寸法ずれの原因を段階的に切り分けられます。
本記事では、3D CADを使って樹脂成形品の収縮による寸法ずれを抑えるための6つの対策を、設計、金型、成形、測定の観点から解説します。
樹脂成形品の収縮で寸法ずれが起こる理由
樹脂成形では、加熱されて流動可能になった材料を金型内へ充填し、冷却して固化させます。材料は温度が低下する過程で体積が変化するため、金型から取り出した製品の寸法は、金型の内寸と完全には一致しません。この寸法変化を見込まずに金型を製作すると、外形寸法、穴径、穴位置、平面度などが設計値から外れる可能性があります。
収縮量は材料の性質だけでは決まりません。例えば、同じ材料を使用していても、厚肉部と薄肉部では冷却速度が異なります。薄肉部は比較的早く固化しますが、厚肉部は内部に熱が残りやすく、周囲より遅れて収縮することがあります。この時間差によって、厚肉部が周囲を引っ張り、表面のヒケや製品全体の反りにつながります。
保圧の伝わり方も寸法へ影響します。金型へ樹脂を充填した後、材料の収縮を補うために圧力を加える工程がありますが、圧力は製品内へ均一に伝わるとは限りません。ゲートから遠い部分や、途中に薄肉部がある部分では圧力が伝わりにくくなり、収縮量が大きくなる場合があります。
繊維などを含む材料では、樹脂の流れに沿って内部の配向が生じます。この配向によって、流れ方向とそれに直交する方向で収縮量や剛性が異なることがあります。その結果、3D CAD上では円形に設計した穴が成形後にわずかに楕円化したり、長方形の製品が対角方向へねじれたりする可能性があります。
金型から取り出した後の状態も無視できません。製品内部に熱が残ったまま取り出すと、冷却が続く間に形状が変化することがあります。薄い板状部品や長尺部品では、自重、置き方、治具の支持位置によって変形することもあります。また、吸湿しやすい材料では、周囲の湿度や保管時間によって寸法が変化する可能性があります。
このように、収縮は単純な縮小ではなく、製品内で不均一に起こる現象です。3D CADを使った対策では、モデル全体へ一律の倍率を設定するだけでなく、形状、方向、位置、成形条件を分けて考える必要があります。
収縮対策を始める前に整理すべき設計条件
収縮対策を効率的に進めるためには、最初に製品のどの寸法を優先して守るのかを明確にします。すべての寸法を同じ厳しさで管理しようとすると、金型補正や成形条件の調整が複雑になり、量産時の許容範囲も狭くなります。
まず、相手部品との嵌合部、締結穴、シール面、摺動部、基準面、外観面など、製品機能へ直結する場所を整理します。例えば、製品の全長がわずかに変化しても機能に影響しない一方で、二つの取付穴の中心間距離がずれると組み付けられない場合があります。この場合、外形寸法より穴位置を優先して収縮補正を検討する必要があります。
重要寸法を整理するときは、寸法値だけでなく、基準となる面や軸も決めます。どの面を固定して寸法を評価するのかが曖昧だと、試作品と3D CADモデルを比較したときに差の見え方が変わります。組付け時に接触する面、位置決めに使用する穴、回転中心となる軸などを3D CAD上で明確にしておくことが重要です。
材料条件も設計初期に整理します。材料の分類、充填材の有無、繊維の配向性、吸湿性、想定される成形収縮、使用環境における温度変化などを確認します。同じ種類として扱われる材料でも、配合や充填材の割合が違えば収縮挙動が変わることがあります。
製品の評価時点も決めておきます。成形直後の寸法を基準にするのか、一定時間経過後に測定するのか、調湿後や組付け後を評価状態とするのかによって、目標寸法の考え方が変わります。測定時点を決めずに金型を補正すると、成形現場と品質管理部門で合否判定が食い違う可能性があります。
さらに、金型の分割方向、ゲート候補、突き出し方法、冷却経路を配置できる範囲なども、製品設計と並行して確認します。製品形状が完成してから金型設計を始めると、重要寸法の近くへ十分な冷却経路を設けられない、適切な方向から樹脂を流せないといった問題が生じます。
3D CADモデルを製品形状だけのデータとして扱うのではなく、材料条件、重要寸法、金型条件、測定基準を結び付ける情報の中心として管理することが、収縮対策の土台になります。
対策1 材料ごとの収縮特性を設計条件へ反映する
一つ目の対策は、使用材料の収縮特性を確認し、設計と金型の補正条件へ反映することです。樹脂成形品では、目標とする製品寸法に対して収縮分を見込んだ金型寸法を設定します。しかし、収縮率を一つの固定値として扱うと、形状や方向による差を見逃す可能性があります。
材料資料に示される収縮率は、一定の試験形状と成形条件で得られた代表値として扱う必要があります。実際の製品では、肉厚、流動距離、ゲート形状、金型温度、保圧、冷却時間などが異なるため、資料値と同じ結果になるとは限りません。初期設計では資料値を目安にしつつ、類似製品の成形実績がある場合は、実績との差も確認します。
特に繊維などを含む材料では、流れ方向と直交方向で収縮の程度が異なる可能性があります。このような材料に対して3D CADモデルを全方向へ同じ割合で拡大すると、長さは合っても幅がずれる、穴が楕円化する、平面が反るといった問題が残ることがあります。
方向による違いが想定される場合は、長手方向、幅方向、厚さ方向を分けて考えます。ただし、方向別の補正量は製品内で常に一定とは限りません。樹脂の流れが分岐する部分や、ウェルドが生じる部分では、局所的に配向が変わるためです。
3D CADで収縮補正を行う際は、補正の基準位置を明確にします。モデルの中心を基準に全体を拡大するのか、取付面を固定して一方向へ伸ばすのかで、重要部の位置が変わります。例えば、一方の端面を装置への取付基準とする長尺部品では、中心基準で拡大すると基準端面まで動いてしまいます。取付面を固定し、反対方向へ補正したほうが組付け位置を維持しやすい場合があります。
また、製品要求モデルと金型補正モデルは分けて管理することが大切です。製品要求モデルは完成品として必要な形状を示し、金型補正モデルは収縮を見込んだ製造用の形状を示します。両者を同じモデルへ上書きすると、どの寸法が要求値で、どの寸法が補正値なのか分からなくなります。
材料を変更するときも注意が必要です。調達や強度、外観などの理由で材料が変更された場合、以前の収縮補正をそのまま使用できるとは限りません。3D CADデータに材料条件と補正履歴を関連付けておけば、材料変更時に再確認すべき範囲を把握しやすくなります。
対策2 肉厚を均一化して局所的な収縮差を抑える
二つ目の対策は、製品の肉厚をできるだけ均一にし、局所的な冷却差や収縮差を小さくすることです。樹脂成形品では、厚肉部が必ず不具合になるわけではありませんが、周囲との肉厚差が大きいほど、ヒケや反りの原因になりやすくなります。
3D CAD上で外観だけを確認していると、内部に生じた厚肉部を見落とすことがあります。外壁、リブ、ボス、段差が重なる場所では、それぞれの形状が適切に見えても、断面では樹脂量が集中している場合があります。複数方向の断面表示や肉厚確認機能を使い、局所的に厚い場所を探します。
肉厚を均一にする際は、製品全体を完全に同じ厚さへそろえることだけを目的にしません。必要な強度、剛性、流動性、耐久性を満たしながら、急激な厚さの変化を避けることが重要です。厚肉部から薄肉部へ移行する場所には、可能な範囲で滑らかなつながりを設けます。
急な段差は、樹脂の流れを乱すだけでなく、冷却速度の差を大きくします。段差の近くに重要な穴や嵌合面がある場合、局所収縮によって位置や形状が変わる可能性があります。3D CAD上で断面を確認し、重要寸法の周辺に急激な肉厚変化がないかを重点的に調べます。
中実の厚肉形状が必要に見える場合でも、機能を維持したまま内部を肉抜きできることがあります。厚い台座をそのまま設けるのではなく、薄い壁と補強形状を組み合わせれば、樹脂量を減らしながら必要な剛性を確保できる場合があります。ただし、肉抜きによって樹脂の流れが複雑になったり、金型構造が成立しにくくなったりする可能性もあるため、製品設計だけで判断しないことが大切です。
穴や円筒部の周辺では、肉厚の偏りが真円度へ影響することがあります。穴の片側だけに厚い壁やリブがあると、その側の冷却が遅れ、中心位置や直径が一方向へ変化する可能性があります。穴径の数値だけでなく、穴周囲の肉厚がなるべく対称になっているかを確認します。
長尺部品では、長手方向に沿った肉厚分布も重要です。端部だけが厚い、中央に大きなボスがある、片側に補強が集中しているといった形状は、全体の反りやねじれにつながることがあります。3D CADで複数位置の断面を比較し、熱容量と剛性の偏りを確認します。
肉厚の均一化は、収縮を完全になくす対策ではありません。しかし、製品内の収縮差を小さくすることで、金型補正や成形条件の調整を行いやすくし、量産時の寸法変動を抑えやすくなります。
対策3 リブとボスの形状を見直してヒケや反りを減らす
三つ目の対策は、リブとボスの配置や根元形状を見直すことです。リブは製品の剛性を高め、ボスはねじ締結や位置決めなどの機能を持たせるために使われます。しかし、母材との接続部に樹脂が集中すると、冷却が遅れてヒケや反りが発生しやすくなります。
外観面の裏側へ厚いリブを配置すると、リブ根元の収縮によって表面にくぼみが生じることがあります。寸法上は許容範囲でも、光の反射や塗装後の見え方によって不良と判断される場合があります。外観面の裏側では、表面からリブ根元までの実質的な肉厚を3D CADの断面で確認します。
剛性を高めたいときに、一本のリブを厚くするだけでは、局所的な樹脂量が増えます。比較的薄いリブを複数配置し、荷重を分散できないか検討します。ただし、リブを増やしすぎると樹脂の流れ、ガスの排出、金型加工、離型へ影響するため、数を増やせばよいわけではありません。
リブの根元には応力集中を緩和するための丸みを設けることがありますが、大きすぎる丸みは厚肉化の原因になります。強度だけを考えて丸みを拡大すると、外観面のヒケや冷却時間の増加につながることがあります。母材の厚さ、リブの厚さ、荷重方向、外観面の位置を見ながら、必要な範囲で設定します。
ボスも同様に、外壁や底面と一体化する部分へ樹脂が集中しやすい形状です。ボスを外壁へ直接つなぐと接続部が厚くなる場合は、外壁から少し離して配置し、リブを介して支える方法を検討します。これにより、外観面へのヒケを抑えながら、ボスの倒れを防げる可能性があります。
ねじ締結用のボスでは、成形収縮だけでなく締結時の応力も考慮します。穴が小さく成形されると、ねじ挿入時の負荷が増え、ボスが割れたり外側へ膨らんだりする可能性があります。反対に穴が大きすぎると、必要な締結力を得にくくなります。3D CAD上でねじ締結後の荷重経路を想定し、ボスの内径、外径、高さ、周辺の逃げを検討します。
リブやボスの配置が左右非対称な場合は、製品全体の反りにも注意します。一方だけを強く補強すると、冷却時の収縮が拘束され、反対側との変形差が生じることがあります。機能上非対称な配置が避けられない場合は、反対側の剛性を調整したり、熱容量の偏りを小さくしたりする方法を検討します。
3D CADでリブやボスを確認するときは、個々の寸法だけでなく、製品全体の肉厚分布と剛性分布を同時に見ます。一つのリブを修正してヒケが減っても、製品全体の剛性が不足して反りが増えれば、対策として十分ではありません。
対策4 ゲート位置と樹脂の流れを考慮する
四つ目の対策は、ゲート位置と樹脂の流れを製品設計へ反映することです。ゲートは、金型内へ樹脂が入る入口です。その位置によって充填の順序、流れの方向、圧力の伝わり方、繊維などの配向が変わり、最終的な寸法や反りへ影響します。
左右対称の製品であっても、ゲートが片側にあると樹脂の流れは非対称になります。樹脂が一方向から流れることで、片側と反対側の冷却や配向に差が生じ、製品がねじれる可能性があります。3D CAD上の形状が対称であることと、成形時の収縮が対称であることは別に考える必要があります。
ゲートに近い部分は保圧が比較的伝わりやすい一方、遠い部分では圧力が低下する場合があります。長い流動経路や薄肉部を通過した先では、収縮を補う樹脂が十分に供給されず、寸法が小さくなる可能性があります。重要な嵌合部や穴位置がゲートから遠くなる場合は、成形担当や金型担当と早い段階で検討します。
樹脂の流れが二方向へ分かれ、再び合流する場所では、ウェルドが生じる可能性があります。ウェルドの位置は外観や強度だけでなく、局所的な収縮や変形にも関係します。重要な穴、薄肉部、荷重が集中する部分へ合流位置が来ないかを確認します。
繊維などを含む材料では、流れに沿った配向が寸法へ影響します。例えば、長手方向の収縮が比較的小さく、幅方向の収縮が大きくなるなど、方向性が現れることがあります。ただし、具体的な挙動は材料、形状、流動条件によって異なるため、一般的な傾向だけで金型補正量を決めることは避けます。
成形解析を利用できる場合は、充填時間、圧力、温度、配向、収縮、反りの傾向を確認します。解析結果は、設計案やゲート候補を比較するための材料として有効です。一方で、入力した材料特性や成形条件が実際と異なれば、結果にも差が生じます。解析で得た変形量を確定値としてそのまま金型へ反映するのではなく、傾向を把握する情報として活用します。
解析用に3D CADモデルを簡略化する場合は、省略した形状を記録します。小さなリブや段差、穴を削除すると計算を軽くできることがありますが、重要寸法の近くにある形状を省略すると、局所的な流れや冷却の影響が表現されません。
ゲート位置は外観、金型構造、後処理、取り出し方法にも関係します。製品設計者だけで決めるのではなく、3D CADモデル上へゲート候補、外観面、分割方向、突き出し位置を重ね、関係者が同じ形状を見ながら判断することが重要です。
対策5 金型の冷却条件と離型後の変形を想定する
五つ目の対策は、金型内の冷却条件と、製品を取り出した後の変形を設計段階から想定することです。樹脂成形品は、金型内で均一に冷えるとは限りません。金型表面から遠い部分、厚肉部、深いボス、複数のリブが集中する部分では、熱が残りやすくなります。
製品の片側だけに厚肉部や補強が集中すると、その側の冷却が遅れ、反りが一方向へ生じる可能性があります。このような形状を金型の冷却条件だけで補おうとすると、成形条件が複雑になり、量産時の変動に敏感になることがあります。可能であれば製品形状の段階で熱容量の偏りを小さくします。
3D CADでは、製品断面と金型側のスペースを同時に確認できます。重要寸法の近くに冷却経路を配置できるか、深い形状の周囲に十分な金型厚を確保できるかを検討します。製品モデルだけでは問題がなくても、金型構造上、冷却経路を配置できないことがあります。
金型の固定側と可動側で冷却状態が異なる場合も、製品の反りにつながります。片側だけが早く冷えると、収縮の進み方が不均一になります。外観面、取付面、リブ側など、製品の表裏で形状や金型構造が大きく異なる場合は、冷却差を想定します。
成形後に一定方向へ安定して反ることが確認された場合、金型形状へ逆方向の補正を設ける方法があります。ただし、試作前から根拠なく大きな逆反りを設定すると、成形条件の変化によって過剰な補正になる可能性があります。補正する場合は、実測した変形量、成形条件、測定方法を記録し、その条件に基づいて段階的に調整します。
離型時の製品温度も重要です。十分に剛性が安定していない状態で突き出すと、突き出し荷重や自重で変形することがあります。薄い面を少数の突き出し位置で押すと、局所的なくぼみや反りが生じる可能性があります。3D CAD上で突き出し位置と製品剛性の関係を確認します。
取り出し後の置き方によって変形する製品もあります。長尺部品を端部だけで支えたり、薄板部品を傾けて置いたりすると、冷却中に自重で形状が変わることがあります。必要に応じて支持治具を検討し、製品が安定するまでの保管方法を標準化します。
冷却時間を短縮すると生産性を高められる可能性がありますが、製品温度が高い状態で取り出せば、寸法が安定しにくくなる場合があります。成形時間だけでなく、寸法安定性、外観、変形、取り扱い方法を含めて条件を決めることが必要です。
対策6 試作結果を3D CADへ戻して補正する
六つ目の対策は、試作品の測定結果を3D CADへ戻し、根拠を残しながら補正を繰り返すことです。材料資料や解析を用いて事前検討を行っても、初回成形で全寸法が狙いどおりになるとは限りません。重要なのは、ずれが発生したときに感覚だけで修正しないことです。
最初に、設計値と実測値の差がどのように分布しているかを確認します。製品全体が均等に小さくなっているのか、長手方向だけが大きく縮んでいるのか、中央が反っているのか、穴が一方向へ移動しているのかによって、原因と対策は異なります。
重要寸法だけを数値で比較する方法に加え、実測形状を3D CADモデルへ重ねる方法も有効です。三次元測定などで取得した形状データを設計モデルと比較すれば、局所的な膨らみ、くぼみ、反り、ねじれを確認しやすくなります。
ただし、設計モデルと実測形状の位置合わせには注意が必要です。全体が最も重なるように自動調整すると、組付け基準から見た実際のずれが小さく表示される場合があります。製品の機能を評価する際は、取付面、基準穴、中心軸などを固定して比較します。
寸法ずれが見つかった場合は、製品形状、金型寸法、成形条件、測定方法のどこに原因があるかを切り分けます。例えば、複数の試作品が同じ方向へ安定してずれている場合は、金型補正や製品形状の見直しが候補になります。一方、試作品ごとのばらつきが大きい場合は、成形条件や材料状態、測定方法の安定性を確認する必要があります。
金型を修正するときは、加工によって修正しやすい方向も考慮します。金型材料を削る修正と、材料を追加する必要がある修正では、作業の難しさが異なります。初期の金型設計では、寸法調整の余地を残す考え方も必要です。
穴径が小さい場合でも、穴を作る金型部分だけを変更すればよいとは限りません。周辺の肉厚差や反りによって穴が楕円化している場合、単純な径変更では真円度や中心位置を改善できないことがあります。穴径、形状、中心位置、周囲の変形をまとめて確認します。
補正履歴は3D CADデータの版管理と関連付けます。初期の製品要求モデル、金型補正モデル、試作時の測定結果、修正後モデルを明確に区別します。ファイル名だけで管理すると、どの試作結果を反映したデータか分からなくなる可能性があります。
変更理由も記録します。単に寸法を変更したという履歴だけでは、材料変更や金型更新の際に判断を再現できません。どの成形条件で、どの方向へ、どの程度ずれたために補正したのかを残すことで、類似製品の設計にも知見を活用できます。
3D CADを使った収縮対策の実務手順
実務では、最初に製品の機能基準と重要寸法を3D CAD上で整理します。相手部品と接触する面、位置決め穴、締結部、シール面、摺動部、外観面を明確にし、どの寸法ずれが不具合へ直結するかを確認します。
次に、材料情報と成形条件の前提を整理します。材料の収縮特性、方向性、吸湿性、想定肉厚、成形後の評価時点を記録します。類似製品の実績がある場合は、材料、肉厚、ゲート、金型温度などの違いを確認してから参考にします。
その後、3D CADの断面表示や肉厚確認機能を用いて、厚肉部、急な肉厚変化、リブとボスの集中、非対称な補強を探します。特に、重要な穴や嵌合部の周囲、外観面の裏側、長尺部の中央と端部は重点的に確認します。
製品形状の検討と並行して、ゲート位置、金型分割方向、突き出し位置、冷却経路の候補を確認します。製品形状が確定してから金型条件を検討すると、重要部の近くにゲートや冷却経路を配置できず、形状変更が必要になることがあります。
必要に応じて成形解析を実施し、樹脂の流れ、圧力、温度、配向、反りの傾向を比較します。解析を行う場合は、入力した材料データや成形条件を記録し、実際の試作条件との違いを確認できるようにします。
製品形状が決まったら、要求形状を示すモデルとは別に、収縮補正を反映した金型用モデルを作成します。補正の基準位置、方向、倍率、局所補正の範囲を明確にし、関係者が確認できる状態にします。
試作後は、決められた条件で寸法を測定し、設計モデルと比較します。ずれの大きさだけでなく、方向、分布、試作品間のばらつきを確認します。修正が必要な場合は、製品形状を変えるのか、金型を補正するのか、成形条件を調整するのかを分けて判断します。
形状を修正した後は、別の問題が生じていないかを再確認します。リブの追加によって剛性が上がっても、厚肉化によるヒケが増える可能性があります。肉抜きによって冷却差が減っても、強度や流動性が不足する場合があります。一つの不具合だけに注目せず、製品全体への影響を確認します。
最終的には、標準条件だけでなく、管理範囲内で条件が変動した場合にも重要寸法が許容範囲へ入るかを確認します。特定の狭い条件でのみ合格する製品では、量産時のわずかな変化で不良が発生しやすくなります。設計の寸法余裕と成形工程の管理幅を整合させることが重要です。
寸法検証で統一したい測定条件
収縮対策の効果を正しく評価するためには、測定条件を統一する必要があります。測定値だけを比較しても、成形後の経過時間、製品温度、保管環境、支持方法が異なれば、設計変更や金型修正の効果を正しく判断できません。
まず、成形後から測定までの時間を決めます。金型から取り出した直後の製品は、内部に熱が残っている可能性があります。冷却が続いている状態で測定すると、測定開始時と終了時で寸法が変化することもあります。
吸湿しやすい材料では、保管時間と湿度も寸法へ影響します。成形直後の乾燥した状態で評価するのか、一定条件で保管した後に評価するのかを決めます。実際の使用状態で吸湿することが想定される場合は、その状態を踏まえた評価も必要です。
測定環境の温度も統一します。長尺部品や大きな製品では、温度差による寸法変化が測定結果へ影響する可能性があります。製品だけでなく、測定器や治具も同じ環境で安定させることが重要です。
反りや平面度を測定する場合は、製品の支持位置を決めます。薄い製品を端部だけで支えると自重でたわみ、実際より大きな反りとして測定される場合があります。反対に、治具で強く押さえると、本来の変形を矯正した状態で合格と判断する可能性があります。
穴径や円筒部を測定するときは、測定方向にも注意します。方向による収縮差がある場合、一方向の直径だけでは楕円化を見逃します。必要に応じて複数方向の直径、真円度、中心位置を確認します。
設計モデルと実測形状を比較する場合は、位置合わせの基準を統一します。組付け基準面を固定するのか、基準穴を使うのか、全体形状の平均で合わせるのかを決めます。比較ごとに位置合わせ方法が変わると、補正前後の効果を正しく評価できません。
複数個取りの金型では、取り位置ごとに測定結果を分けて管理します。流路や冷却経路の違いによって、同じ形状でも取り位置ごとに収縮傾向が異なることがあります。全製品を一つの平均値へまとめると、特定位置だけの不具合を見逃す可能性があります。
測定結果には、材料の識別情報、成形条件、金型の取り位置、成形日時、測定日時、測定方法を関連付けます。寸法値だけを残すのではなく、後から同じ条件を再現できる記録にすることが、3D CADモデルの補正精度を高めます。
収縮対策で起こりやすい失敗
収縮対策で起こりやすい失敗は、材料資料に記載された代表的な収縮率を、製品全体へそのまま一律に適用することです。代表値は初期検討の目安になりますが、実製品では肉厚、流れ方向、ゲート位置、保圧、冷却によって収縮量が変わります。
次に、寸法ずれをすべて金型寸法だけで修正しようとする失敗があります。製品形状の非対称性や局所的な厚肉が反りの原因である場合、金型へ逆方向の補正を加えても、成形条件が変わると再びずれる可能性があります。まず、製品形状自体に変形を起こしやすい要因がないかを確認します。
外形寸法だけを確認し、穴位置や基準関係を見落とすこともあります。全長や幅が許容範囲に入っていても、取付穴の中心間距離、基準面からの位置、平行度、真円度がずれていれば、組付け不良につながります。
解析結果を確定値として扱うことにも注意が必要です。解析は、設計案や成形条件を比較し、変形傾向を把握するために役立ちます。しかし、実際の材料状態、金型表面、冷却、成形機の挙動を完全に再現するものではありません。解析と実測が異なる場合は、入力条件と測定条件の両方を見直します。
試作品ごとに測定条件が異なると、変更効果を判断できません。成形直後の値と一定時間経過後の値を比較したり、異なる支持方法で平面度を測定したりすると、設計や金型の変更とは無関係な差が含まれます。
3D CADデータの版管理が不十分な場合も、重大な手戻りにつながります。製品要求モデル、収縮補正モデル、試作修正モデルが混在すると、誤ったモデルを基に金型加工が進む可能性があります。モデルの用途、版、承認状態、補正根拠を明確にします。
一度の試作で寸法が合っただけで、対策が完了したと判断することも避けます。材料状態、連続成形中の金型温度、周囲環境などが変われば、寸法も変動する可能性があります。複数個の測定と条件変動の確認を通じて、量産時の再現性を評価することが必要です。
設計者、金型担当、成形担当、品質担当の間で重要寸法が共有されていない場合も問題です。成形担当が外観や充填状態を優先して条件を変更した結果、設計者が重視する穴位置や平面度が変化することがあります。重要寸法と調整可能な条件の範囲を、3D CADモデルと関連資料で共有します。
まとめ
樹脂成形品の収縮による寸法ずれを防ぐためには、3D CADモデルへ一定の収縮率を設定するだけでは不十分です。材料特性、肉厚、リブやボス、ゲート位置、樹脂の流れ、金型冷却、離型後の状態、測定条件を一体として考える必要があります。
一つ目の対策は、材料ごとの収縮特性を確認し、補正の基準位置と方向を明確にすることです。二つ目の対策は、急激な肉厚変化や局所的な厚肉を減らし、製品内の冷却差を抑えることです。
三つ目の対策は、リブやボスの根元に樹脂が集中しない形状とし、ヒケや非対称な反りを抑えることです。四つ目の対策は、ゲート位置と樹脂の流れを考慮し、保圧の伝わり方や配向による方向差を管理することです。
五つ目の対策は、金型内の冷却差、突き出し荷重、取り出し後の支持状態まで想定することです。六つ目の対策は、試作品の測定結果を3D CADへ戻し、補正内容と理由を記録しながら改善を繰り返すことです。
寸法ずれが発生したときは、すぐに金型寸法だけを修正するのではなく、ずれの方向、分布、ばらつき、発生条件を確認します。製品形状に原因があるのか、材料や成形条件によるものか、測定方法による差なのかを切り分けることで、再現性の高い対策につながります。
3D CADを設計図の作成だけに使うのではなく、重要寸法、材料条件、金型補正、成形条件、試作結果を共有する基盤として活用すれば、設計から量産までの判断をそろえやすくなります。収縮を完全になくすことではなく、変化の傾向を把握し、機能上重要な寸法を安定して許容範囲へ収めることが実務上の目標です。
試作品の測定位置や保管場所、金型周辺の状況など、現場で得られる情報を設計データと結び付けて記録すると、寸法ずれの原因を追跡しやすくなります。設計と現場の情報共有を効率化し、位置情報を伴う記録を活用したい場合は、LRTK Phoneの導入も検討してみてください。