3D CADで人間工学解析を行う重要性
機械、設備、操作盤、工具、作業台、車両の運転空間などを設計するときは、部品同士が干渉せず、必要な強度や機能を満たしているだけでは十分とは限りません。完成した製品や設備を実際に人が使用した際に、操作部へ無理なく手が届くか、表示内容を確認しやすいか、長時間使用しても身体へ過度な負担がかからないかまで検討する必要があります。
こうした人と製品の関係を設計段階で確認する方法が、3D CADを活用した人間工学解析です。3D CAD上に人体モデルを配置し、製品や設備との位置関係を確認することで、実物を製作する前から操作性や作業性の問題を発見しやすくなります。
人間工学解析を行わずに設計を進めると、試作や現場設置の後で操作しにくさが判明する場合があります。たとえば、操作レバーに手は届くものの、腰を大きく曲げなければならない、表示部がカバーの陰に隠れる、工具を差し込めても回転させる空間がないといった問題です。
こうした問題を後工程で修正すると、操作部の位置変更だけでは済まない可能性があります。筐体、フレーム、配線、配管、カバー、制御部品など、周辺設計まで変更が広がることがあります。製作済みの部品を作り直したり、設置済みの設備を改修したりすれば、工程や費用にも影響します。
3D CADによる人間工学解析を設計初期から取り入れることで、操作性に関する問題を形状が固まる前に検討できます。複数の配置案を比較しやすくなるため、構造や製造性とのバランスを取りながら改善案を選択できます。
ただし、人体モデルを3D CAD上に置いただけでは、十分な人間工学解析にはなりません。どのような利用者が、どの位置に立ち、どの姿勢で、どのような順序で操作するのかを具体的に設定する必要があります。解析条件が実際の使用状況と異なれば、画面上では問題がなくても、現場では操作しにくいという結果になりかねません。
また、人間工学解析で評価値が許容範囲に入っていても、すべての利用者が快適に操作できるとは限りません。体格、筋力、利き手、経験、作業服、保護具、疲労、照明、床面など、操作性へ影響する条件は多数あります。
そのため、3D CADの人間工学解析は、操作性を保証するものではなく、設計判断を支援する手段として使用することが重要です。解析によって問題を早期に絞り込み、必要に応じて簡易モックアップや試作機を使った確認へつなげます。
実務で特に確認したいのは、利用者の体格差と到達範囲、操作時の姿勢、表示部の視認性、操作力と把持性、作業動線と操作頻度の5項目です。これらを設計工程の中で順番に確認することで、完成後の操作しにくさを防ぎやすくなります。
1.利用者の体格差と到達範囲を確認する
人間工学解析で最初に確認したいのが、利用者の体格差と操作対象への到達範囲です。平均的な体格の人体モデルだけで確認すると、小柄な人には操作部へ手が届かず、大柄な人には周辺空間が狭いという問題を見落とす可能性があります。
製品や設備の利用者には、身長、腕の長さ、肩幅、座高、手の大きさなどの違いがあります。立った状態で操作するのか、椅子に座った状態で操作するのかによっても、無理なく手が届く範囲は変わります。
3D CAD上で人体モデルを配置するときは、想定する利用者層を明確にします。特定の担当者だけが使う専用設備なのか、不特定多数が使う製品なのかによって、設定すべき体格条件は異なります。
不特定多数が使用する設備では、一つの人体モデルだけで判断せず、小柄な利用者と大柄な利用者を想定した複数条件で確認することが重要です。小柄な利用者については、遠い位置や高い位置への到達性を中心に確認します。大柄な利用者については、頭部、肩、肘、膝、足元などに十分な空間があるかを確認します。
到達範囲の解析では、指先が操作部に触れられるかだけで判断してはいけません。肩を大きく前へ出す、上体をひねる、椅子から腰を浮かせるといった動作が必要であれば、形式上は届いていても、快適に操作できる位置とはいえません。
頻繁に使用するスイッチやレバーは、自然な姿勢を維持したまま腕を動かせる範囲へ配置する必要があります。点検時だけ使う操作部や、設定変更時に限って使用する部分については、頻度を考慮しながら配置を判断します。
利用者が立つ位置や座る位置も、解析結果へ大きく影響します。操作部へ手を届かせるために人体モデルの位置を自由に移動させると、現実には取れない姿勢を問題のない状態として評価してしまいます。
設備の前に立つ場合は、足元にフレーム、配管、段差、ペダルなどがないかを確認します。足を前へ出せなければ、上体を設備へ近づけられず、想定した位置から操作できないことがあります。
座って使用する製品では、椅子の座面高さ、奥行き、背もたれ、前後調整範囲なども設定します。深く座る場合と浅く座る場合では、手の到達範囲や目の位置が変わります。設計側に都合のよい座り方を設定するのではなく、実際に想定される姿勢を再現する必要があります。
調整機構を備える製品では、調整範囲の両端だけでなく、中間位置も確認します。最も手前の位置では操作しやすくても、奥へ移動させると別の部品が邪魔になることがあります。また、調整機構そのものへ手が届くか、調整中に指を挟む部分がないかも検証対象です。
到達性を確認するときは、手だけでなく前腕、肘、肩を含めた身体全体の干渉を見ます。操作部の手前に支柱やカバーがあると、指先は届いても肘を動かせず、実際には操作できない場合があります。
工具を使用する作業では、工具を持った状態で到達できるかを確認します。手で直接触れられる位置であっても、工具の長さや角度によっては作業できません。工具の3Dモデルを配置し、装着、操作、取り外しまでに必要な空間を確認します。
保守作業では、通常運転時とは異なる状態も再現します。扉やカバーを開けた状態、部品を引き出した状態、交換部品を持った状態などです。設備の状態が変わると、作業者が立てる場所や手を伸ばせる方向も変化します。
到達範囲の解析条件は、設計データとともに記録しておくことが重要です。使用した人体モデルの体格、足や座面の基準位置、操作対象、作業姿勢などを残せば、設計変更前後を同じ条件で比較できます。
2.操作姿勢と関節への負担を確認する
操作部へ手が届いていても、腰を曲げる、首をひねる、腕を高く上げるといった姿勢が必要であれば、長時間の作業には適さない可能性があります。そこで3D CADの人間工学解析では、手先の位置だけでなく、操作時の全身姿勢を確認します。
姿勢の検討では、一つの静止状態だけを見るのではなく、作業の開始から終了までの動きを想定する必要があります。部品を取る、設備へ取り付ける、固定する、操作する、確認する、取り外すという一連の作業では、それぞれ異なる姿勢が発生します。
特に確認したいのが、腰を前方へ曲げた姿勢、上体をひねった姿勢、首を下へ向け続ける姿勢、肩より高い位置へ腕を上げる姿勢です。短時間であれば大きな問題が表れなくても、繰り返し作業や長時間作業では負担が蓄積する可能性があります。
3D CAD上では、人体モデルの肩、肘、手首、首、腰、膝などの関節を動かして作業姿勢を再現します。その際、手だけを操作対象へ合わせるのではなく、各関節の動きが自然につながっているかを確認します。
たとえば、奥まった位置の部品へ手を伸ばす場合、腕の長さだけでは届かず、上体を大きく前へ倒すことがあります。この姿勢では腰への負担が増えるだけでなく、足元の安定性も低下する可能性があります。
操作中に身体を支える場所があるかも重要です。大きな力を加える作業では、足を踏ん張れる空間や身体を安定させる位置が必要です。足元が狭い、床に段差がある、身体を支えると危険な部分へ触れるといった条件がないかを確認します。
手首の角度も見落としやすい項目です。押しボタンへ指が届いていても、手首を大きく曲げなければ押せない配置では、繰り返し操作時の負担につながります。レバーやハンドルの向きが腕の自然な方向と合っているかを確認します。
操作部の角度や高さを少し変更するだけで、肩や手首の姿勢が改善する場合があります。そのため、解析では問題の有無だけを確認するのではなく、操作面の高さ、奥行き、傾き、向きを変更した案を比較することが有効です。
立位作業では、操作部の位置によって膝や腰の曲がり方が変わります。低い位置の操作を繰り返す場合は、作業台の高さを変更する、操作部を傾斜面へ移す、座位で操作できるようにするといった改善案を検討します。
座位作業では、背もたれから身体を離したまま作業する時間が長くならないかを確認します。操作部が遠すぎると、利用者は上体を前へ出した姿勢を続けることになります。表示部と操作部の位置関係を調整し、安定した座位を保ちやすくします。
部品や工具を持つ場合は、その重量や重心も姿勢へ影響します。人体モデルが空の手で操作している状態だけでは、実際の負担を十分に再現できません。必要に応じて保持する部品の形状と重量を条件へ反映します。
両手で持つ部品を片手作業として解析しないことも重要です。作業者が片手で部品を支え、もう片方の手で固定具を操作する場合は、左右の腕に異なる負担がかかります。実際の作業順序に沿って人体モデルの姿勢を設定します。
保守や清掃では、通常操作よりも不自然な姿勢が発生しやすくなります。設備の下へかがむ、狭い点検口から内部をのぞく、腕を奥まで差し込むといった動作です。通常運転時に問題がなくても、保守作業で危険な姿勢になる場合があります。
姿勢の評価結果は、3D CADの表示だけで機械的に判断しないことが大切です。作業時間、作業回数、保持重量、足場の状態などを考慮し、自社の設計基準や安全上の条件と照合して判断します。
3.表示部の視認性と視線の動きを確認する
操作しにくさは、手の届きやすさや姿勢だけでなく、表示内容の見え方によっても発生します。表示部、目盛、警告表示、確認窓などが見えにくいと、利用者は顔を近づけたり、上体を傾けたりしながら情報を確認することになります。
3D CADの人間工学解析では、人体モデルの目の位置を基準にして、表示部までの視線を確認できます。設計者が画面上の視点を自由に動かすと問題なく見える表示でも、実際の利用者の位置からは隠れていることがあります。
視認性を検討するときは、利用者の目の高さを一つに固定しないことが重要です。立位では身長によって目の位置が変わり、座位では座高や椅子の調整位置によって変わります。小柄な利用者と大柄な利用者の両方について、必要な表示が確認できるかを検証します。
表示部の前にハンドル、カバー、配管、ケーブルなどがあると、特定の方向から表示が隠れる場合があります。人体モデルの視点を固定し、通常の操作位置から遮蔽物がないかを確認します。
表示部が見えていても、見る角度が大きく傾いている場合は、文字や図形を読み取りにくい可能性があります。表示面の角度、目からの距離、利用者の頭部姿勢を併せて確認します。
操作しながら表示を確認する場面では、表示部と操作部の位置関係が重要です。操作するたびに視線を大きく移動させる配置では、確認に時間がかかり、操作間違いにもつながる可能性があります。
一方で、表示部と操作部を近づけすぎると、操作する手で表示が隠れる場合があります。右手で操作するときと左手で操作するときでは、隠れる範囲が変わります。想定する利き手や両手作業を条件へ含めます。
表示内容を見ながら数値を調整する場合は、操作中の手や腕が表示部の前を通らないかを確認します。開始姿勢では見えていても、操作動作の途中で一時的に隠れることがあります。
警告表示や状態表示は、通常作業中に自然に目へ入る位置にあるかを確認します。身体を大きく移動しなければ見えない場所や、開いたカバーの裏側へ隠れる場所では、重要な情報を見落とすおそれがあります。
表示部の視認性には、周囲の照明や表面反射も影響します。3D CAD上で実際の明るさを完全に再現できない場合でも、照明の方向、表示面の角度、周辺カバーとの位置関係を検討することで、反射が発生しやすい配置を避けやすくなります。
点検作業では、設備内部を目視するための視線経路も確認します。点検口から対象部品が見えるか、頭部を近づける空間があるか、保護帽などを装着した状態でも周囲へ接触しないかを確認します。
確認窓が設けられていても、内部部品の位置によっては必要な部分が見えないことがあります。人体モデルの視点から確認窓を通る視線を設定し、点検対象まで遮られていないかを検証します。
視線移動を減らすことだけを優先すると、表示部が密集して情報を識別しにくくなることがあります。操作順序、情報の重要度、誤操作時の影響を考慮し、見やすさと区別しやすさの両方を検討します。
表示部の角度を調整できる設計では、調整後だけでなく、調整操作そのものも確認します。角度変更用のつまみに手が届くか、調整中に指を挟まないか、動かした表示部が周辺部品へ接触しないかを3D CAD上で検証します。
文字の大きさや表示の明暗は、3D形状だけで判断できない部分もあります。そのため、3D CAD解析では目からの距離、見る角度、遮蔽の有無を確認し、文字や色の見やすさは別途実機や表示試験で検証します。
4.操作力と把持しやすさを確認する
3D CAD上で操作部へ手が届き、姿勢にも大きな問題がないように見えても、実際には操作力が大きすぎたり、握りにくい形状だったりすることがあります。レバー、ハンドル、つまみ、押しボタン、工具、着脱部品などは、把持しやすさと力の伝えやすさを確認する必要があります。
把持性の検討では、手のひらや指と操作部の接触状態を確認します。握る部分が太すぎると指が十分に回らず、細すぎると力を加えにくくなることがあります。手の大きさには個人差があるため、一つの人体モデルだけで判断しないことが重要です。
手袋を使用する作業では、素手よりも指先が太くなり、細かな操作が難しくなります。周囲の隙間が小さいつまみや、間隔の狭いボタンは、素手では操作できても手袋を装着すると使いにくくなる可能性があります。
押しボタンでは、目的のボタンだけを確実に押せる間隔があるかを確認します。隣接するボタンとの距離が近すぎると、誤って複数のボタンへ触れることがあります。周囲にガードを設ける場合は、指を入れられる空間を確保する必要があります。
回転式のつまみでは、指先で回すのか、手全体で握って回すのかによって必要な寸法が変わります。操作中の指や手の軌跡を確認し、周囲のカバーや別の操作部へ接触しないかを検証します。
レバーやハンドルへ大きな力を加える場合は、力の方向と身体の姿勢を合わせて確認します。腕だけで押すのか、身体全体を使って押すのか、手前へ引くのかによって、適切な高さや向きは異なります。
力を加える方向に身体を安定させられるかも重要です。足元が狭い、床面に段差がある、後方に壁があるといった条件では、必要な力を安全に加えられない可能性があります。
操作力は3D形状だけでは決まりません。ばね、摩擦、部品重量、密閉部材、軸受、機構の効率などによって必要な力が変わります。そのため、3D CADの人間工学解析では、力を加える方向と姿勢を確認し、実際の操作力は機構計算や試験結果と組み合わせて判断します。
工具を使用する作業では、工具を締結部へ取り付けられるかだけでなく、操作範囲を確保できるかを確認します。工具の柄がフレームへ当たり、十分な角度を回せないことがあります。
工具を一度で回転できない場合は、差し替え動作が必要になります。その際、工具を抜き差しする空間があるか、手を入れ直せるか、部品を見ながら作業できるかを確認します。
着脱部品では、利用者がどこを持つかを想定します。設計者が想定した持ち手が分かりにくい場合、利用者は別の場所を握り、指を挟んだり部品を落としたりする可能性があります。
持ち手の形状や位置を3D CAD上で検討し、部品の重心に対して安定して保持できるかを確認します。重心から離れた場所しか持てない場合は、部品が傾きやすくなり、取り付けや取り外しが難しくなります。
重量物を扱う場合は、持ち上げる開始位置と置く位置の高さも確認します。床面付近から持ち上げる、肩より高い位置へ置く、身体から離れた位置で保持するといった動作は、身体への負担が大きくなる可能性があります。
部品を両手で持つ場合は、左右の手を配置できる空間が必要です。片側に配線やカバーがあると、片手しか使えず、不安定な状態で作業することになります。
操作部周辺の角部や突起にも注意が必要です。静止状態では手が触れていなくても、操作途中で指の側面や手の甲が当たることがあります。開始位置と終了位置だけでなく、動作中の手の経路を確認します。
把持しやすさは、表面の滑りやすさや触感にも左右されます。これらは3D CADだけでは評価しにくいため、形状と空間を解析した後に、実物に近い試作品で確認することが必要です。
5.作業動線と操作頻度を確認する
個々の操作部が使いやすくても、作業全体の移動距離が長かったり、身体の向きを何度も変えたりする設計では、作業効率が低下し、疲労が増える可能性があります。そこで、人間工学解析では作業動線と操作頻度も確認します。
作業動線とは、作業者が工程中に移動する経路だけでなく、手や視線を動かす順序も含みます。3D CAD上で作業工程を再現することで、個別の操作確認では見つけにくい問題を把握できます。
たとえば、部品を取る場所、設備へ取り付ける場所、操作盤、完成品を置く場所が離れていると、作業者は工程ごとに移動しなければなりません。一回の移動距離が短くても、作業回数が多ければ、一日を通じた移動量は大きくなります。
解析では、作業開始位置から部品の取得、設備への装着、固定、操作、確認、取り外し、搬出までを順番に再現します。それぞれの位置に人体モデルを配置し、身体の向きや移動経路を確認します。
使用頻度の高い操作部は、身体の正面に近く、自然に手が届く位置へ配置することが基本です。使用頻度の低い設定部や点検部は、主要な操作を妨げない位置へ移すことを検討できます。
ただし、使用頻度だけで配置を決めてはいけません。非常停止や異常時の操作などは、普段ほとんど使用しなくても、必要なときに素早く操作できる位置へ配置する必要があります。
連続して操作する部品は、手や視線の移動を抑えられるように配置します。一方、誤操作した際の影響が大きい操作部は、他の操作部と十分に区別できる位置や形状にする必要があります。
作業者が身体の向きを変える回数にも注目します。設備を操作した直後に背後の作業台へ部品を置く工程が続く場合、上体を繰り返しひねることになります。作業台や部品置き場の位置を変更できないか検討します。
左右の手の役割も確認します。一方の手で部品を保持しながら、反対の手で操作する場合、必要な操作部が保持する手と同じ側にあると、持ち替えが発生します。実際の作業順序に合わせて左右の動きを再現します。
複数人で作業する設備では、人体モデルを複数配置します。一人だけを対象にすると問題がなくても、別の作業者が近くを通ることで動線が交差したり、互いの作業範囲が重なったりすることがあります。
作業者同士が背中合わせになる、重量物を持ったまますれ違う、扉を開けると通路をふさぐといった問題は、複数人の作業を再現することで見つけやすくなります。
台車や運搬機器を使用する場合は、人体モデルだけでなく、運搬物を含めた通路幅や旋回範囲を確認します。台車を押す位置、曲がるときの軌跡、設備へ接近する方向などを3D CAD上で再現します。
通路幅に余裕があるように見えても、設備の扉やカバーを開くと通れなくなることがあります。運転中、点検中、部品交換中など、設備の状態を切り替えて確認することが重要です。
保守作業では、工具箱や交換部品を運ぶ動線も検討します。通常作業では使わない通路であっても、点検時には大きな部品を持って移動する場合があります。
移動距離を短くするだけでなく、安全に歩ける経路かを確認します。段差、床面の突起、頭上の障害物、開閉部、移動部品などがある場合は、最短経路が安全な経路とは限りません。
作業頻度や作業順序は、設計部門だけでは正確に把握できないことがあります。製造、保守、安全管理などの担当者から情報を集め、実際の工程を解析条件へ反映することが重要です。
3D CADで人間工学解析を進める手順
人間工学解析を有効に進めるには、最初に解析の目的を明確にします。操作部の到達性を確認したいのか、保守時の姿勢を評価したいのか、作業動線を改善したいのかによって、必要なモデルや条件が異なります。
次に、対象となる利用者を設定します。通常の運転者、保守担当者、清掃担当者など、役割ごとに行う作業を整理します。同じ設備でも、担当者によって立つ位置や使用する工具が変わります。
対象者を決めた後は、確認する作業場面を設定します。通常操作、部品の供給、製品の取り出し、点検、清掃、消耗品交換、異常対応などに分けると、条件を整理しやすくなります。
3D CADモデルは、解析に必要な状態へ整えます。操作性に関係しない細かな形状をすべて表示すると、データが重くなり、確認しにくくなる場合があります。必要な形状を残しながら、解析しやすい表示状態を作ります。
人体モデルを配置する際は、床面や座面などの基準を明確にします。足の位置、椅子の位置、身体の向きなどを決めてから、操作対象へ姿勢を合わせます。
解析中に人体モデルの位置を自由に変更すると、設計変更前後の比較が難しくなります。基準位置や代表姿勢を保存し、同じ条件で再解析できるようにします。
到達範囲を確認した後は、関節の角度や全身姿勢を見ます。次に視線、把持、工具空間、作業動線を確認します。項目ごとに順番を決めると、確認漏れを防ぎやすくなります。
問題が見つかった場合は、人体モデルの姿勢を無理に変更して解決したことにしないよう注意します。操作部の位置、高さ、角度、周辺空間など、製品側の設計を見直します。
改善案は一つに限定せず、複数作成して比較します。操作部を手前へ移す案、高さを変える案、角度を変える案、配置順を入れ替える案などを検討します。
人間工学上の改善が、構造や製造へ悪影響を与えないかも確認します。操作部を移動した結果、配線が長くなる、カバーが大型化する、保守部品へアクセスできなくなるといった問題が発生する場合があります。
解析結果は、画像だけでなく条件と判断内容を記録します。対象者の体格、作業姿勢、確認した操作、問題点、改善案、採用理由などを残します。
設計審査では、人体モデルと設備全体の位置関係が分かる視点と、問題部分を拡大した視点を用意します。3D CADの操作に詳しくない関係者にも伝わる資料にすることが重要です。
設計変更後は、同じ条件で再解析します。一つの問題を改善した結果、別の操作部が使いにくくなっていないかも確認します。
人間工学解析で見落としやすい条件
人間工学解析では、人体モデルを使用していることで十分な確認を行ったように感じやすい一方、条件設定の不足によって重要な問題を見落とすことがあります。
代表的な見落としは、平均的な体格だけで評価することです。平均的な人体モデルで問題がなくても、小柄な人には届かず、大柄な人には狭い場合があります。
静止姿勢だけで判断することも見落としにつながります。開始位置と終了位置だけでは、動作途中で肘や工具が周囲へ接触する問題を確認できません。
作業服や保護具を考慮しないことにも注意が必要です。厚い手袋、保護帽、防護服などを使用すると、身体寸法や視野、指の動かしやすさが変わります。
人体モデルの位置を都合よく動かすことも避けます。実際には足を置けない位置へ人体モデルを移動させると、到達性を正しく評価できません。
設備が停止した状態だけで確認することも問題です。稼働中には搬送物が通る、可動部が移動する、カバーが閉じるといった変化があります。作業が行われる瞬間の状態を再現する必要があります。
通常運転だけを対象にして、点検や清掃を除外することも見落としにつながります。使用頻度が低くても、危険な姿勢や重量物の保持が必要な作業は設計段階で確認します。
工具の形状を省略することにも注意します。手が届く位置でも、工具を使用できない場合があります。実際に使用する工具と同等の形状を配置して検証します。
部品重量を考慮しない場合も、解析結果が実態と異なります。軽い部品を持つ姿勢と、重い部品を持つ姿勢では、身体への負担や必要な足元空間が変わります。
操作性を改善した結果、別の工程へ影響する場合もあります。操作盤を手前へ移動したことで通路が狭くなるなど、周辺への影響を確認する必要があります。
解析結果の数値だけで判断することも避けます。評価値が一定の範囲内でも、視認性、滑りやすさ、心理的な不安などが残る可能性があります。
解析結果を設計変更へ反映する方法
人間工学解析で問題を発見しても、設計変更へ適切に反映できなければ、解析を行った効果は限定的です。問題の内容を具体的に整理し、変更対象と優先度を明確にする必要があります。
まず、問題が発生する作業場面を特定します。誰が、どの位置で、どの操作をしたときに、どのような負担や使いにくさが生じるのかを記録します。
次に、問題の原因を分けて考えます。操作部が遠いのか、足元が狭くて身体を近づけられないのか、周辺部品が腕の動きを妨げているのかによって、適切な対策は異なります。
操作部へ手が届かない場合でも、単純に手前へ移動すればよいとは限りません。操作部を手前へ移すことで、通路や保守空間を狭める可能性があります。
高さ、奥行き、角度、向き、配置順序など、変更可能な条件を整理します。複数の案を3D CAD上で作成し、同じ人体モデルと作業条件で比較します。
改善案の評価では、利用者全体への効果を確認します。小柄な人に合わせて操作部を下げた結果、大柄な人が腰を曲げる必要が生じる場合があります。調整機構を設ける方法も含めて検討します。
人間工学上の改善だけでなく、安全性、製造性、保守性、構造強度なども確認します。設計変更によって新たな挟み込み箇所や干渉が発生していないかを検証します。
変更理由を記録しておくと、後から別の担当者が設計を修正する際にも意図を理解しやすくなります。形状だけを見ても、なぜその高さや角度になっているのかは分からないことがあります。
設計変更後は、問題が解消されたかを再解析します。さらに、変更箇所の周辺に新たな操作性の問題が生じていないかを確認します。
3D CAD解析と実機検証を組み合わせる
3D CADによる人間工学解析は、試作前に問題を発見できる有効な方法ですが、画面上の解析だけですべての操作性を確定することは困難です。
人体モデルでは、実際の筋力差、触った感覚、表面の滑りやすさ、疲労、心理的な不安などを完全には再現できません。そのため、解析後には簡易モックアップや試作機による確認を行います。
設計初期では、3D CAD解析によって明確な問題を絞り込みます。形状が固まった段階で、操作部や作業空間を実物大に近い状態で再現し、実際の利用者に近い人が操作します。
実機検証では、操作できたかだけでなく、身体の動きや迷い方を観察します。顔を近づけて表示を見る、操作部を何度も握り直す、片手で身体を支えるといった動作があれば、使いにくさが残っている可能性があります。
設計者は構造や操作方法を理解しているため、無意識に使いにくさを補うことがあります。初めて操作する人や現場担当者にも確認してもらうことで、設計者の想定と実際の操作の違いを把握できます。
実機で見つかった問題は3D CADモデルへ反映します。解析時に設定した姿勢と実際の姿勢が異なっていた場合は、条件を見直します。この繰り返しによって、次回以降の解析精度を高められます。
大型設備では、完成品全体の試作が難しい場合があります。その場合は、操作盤、点検口、作業台など、確認したい範囲だけを実物大で再現します。
現場へ設置する設備では、周辺環境も操作性へ影響します。床面、壁、既設設備、仮設物、通路などが設計時の想定と異なると、人体モデルで確認した位置へ立てない場合があります。
設置場所の状態を3次元データとして記録し、3D CADモデルと比較することで、周辺空間を含めた操作性を検討しやすくなります。
現場の位置関係や形状を記録する方法として、LRTK Phoneを活用する方法があります。取得した位置情報や3次元データを設計モデルと照合すれば、操作場所の周囲に障害物がないか、設計時に想定した作業空間を確保できているかを確認しやすくなります。
現場データと3D CADモデルを組み合わせる際は、座標系、縮尺、基準位置、データ取得時の状態を確認します。位置合わせが不正確なままでは、実際とは異なる空間として評価してしまう可能性があります。
3D CAD解析、モックアップ確認、現場データの照合を段階的に行うことで、設計室内だけでは分からない操作性の問題を減らせます。
まとめ
3D CADの人間工学解析では、人体モデルを配置すること自体が目的ではありません。利用者がどこに立ち、何を見て、どのような姿勢で、どの順序で操作するかを再現し、設計段階で使いにくさを発見することが目的です。
特に確認したいのは、利用者の体格差と到達範囲、操作姿勢と関節への負担、表示部の視認性と視線の動き、操作力と把持しやすさ、作業動線と操作頻度の5項目です。
これらを個別に確認するだけでなく、一連の作業としてつなげて評価することで、実際の使用状況に近い問題を発見しやすくなります。
解析では、平均的な人体モデルだけに頼らず、小柄な人と大柄な人を想定します。通常操作に加えて、清掃、点検、部品交換、異常対応なども検討対象に含めます。
また、人体モデルの姿勢を都合よく変更して問題を解消したことにせず、操作部の位置や周辺空間を見直すことが重要です。
3D CAD上で問題がないことは、すべての利用者にとって快適であることを保証するものではありません。操作力、触感、疲労、保護具、設置環境など、画面上では評価しにくい条件があります。
そのため、3D CAD解析で問題を絞り込み、簡易モックアップや試作機で確認し、必要に応じて設計へ戻す流れが有効です。
現場の周辺環境まで含めて操作性を確認したい場合は、現場の位置情報や3次元データと設計モデルを組み合わせる方法もあります。3D CADによる人間工学解析を実際の設置条件へ近づける手段として、LRTK Phoneを活用した現場記録も検討するとよいでしょう。