3D CADとECAD連携が必要とされる理由
電子機器の開発では、基板を設計する電気系の担当者と、筐体や内部構造を設計する機械系の担当者が、異なる設計環境で作業することが一般的です。電気系の設計では、回路、基板外形、電子部品の配置、配線、電気的な制約などを扱います。一方、3D CADを利用する機械系の設計では、筐体形状、ねじ止め部分、ボス、リブ、放熱構造、防水構造、組立方法などを検討します。
それぞれの担当者が個別に設計を進めるだけでは、基板と筐体の間に物理的な干渉が発生する可能性があります。たとえば、基板上の電子部品が筐体の内壁や補強リブに接触する、コネクタの位置と筐体開口部がずれる、固定用のねじが基板上の部品に当たるといった問題です。画面上ではわずかな位置ずれに見えても、試作段階では組み立てられない、ケーブルを接続できない、蓋が閉まらないといった重大な不具合につながります。
こうした問題を防ぐためには、基板の設計情報を3D CADへ取り込み、筐体の内部に配置した状態で確認する必要があります。逆に、機械系で決めた筐体の内形、固定位置、開口部、部品を置いてはいけない範囲などを、電気系の設計へ正しく戻すことも重要です。単に一度だけデータを受け渡すのではなく、双方の変更を繰り返し反映できる連携方法を整えることで、試作前の段階から問題を発見しやすくなります。
ただし、3D CAD上で基板が表示できたからといって、連携が正しく完了したとは限りません。座標系の違いによって基板が反転していることや、部品高さが簡略化されていること、禁止領域が欠落していることもあります。データの見た目だけで判断せず、基板外形、部品配置、固定位置、開口部、クリアランス、配線経路、変更履歴まで確認することが必要です。
本記事では、3D CADとECADを連携して基板と筐体の干渉を防ぐために、実務で確認したい7つの項目を解説します。これから連携の仕組みを整える担当者だけでなく、すでに設計データを受け渡しているものの、試作時の手戻りが減らない担当者にも役立つ内容です。
確認1 基板外形と座標系を一致させる
最初に確認したいのは、基板外形と座標系です。基板外形は、筐体内部への配置や固定方法を決める基礎となる情報です。外形寸法がわずかに違うだけでも、筐体の内壁、ガイド、押さえ部品、シール材などと干渉する可能性があります。角部の面取りや円弧、切り欠き、長穴などが省略されていないかも確認する必要があります。
基板の設計では、外形を表す線と、加工の参考として描かれた補助線が同じ画面に存在する場合があります。3D CADへ受け渡す際に対象となる線を誤ると、本来とは異なる形状の基板が作成されることがあります。二重線、閉じていない輪郭、重複した線分、微小な隙間が含まれていると、立体化に失敗したり、意図しない面が生成されたりすることもあります。
そのため、受け渡し前には基板外形が一つの閉じた輪郭として認識されているかを確認します。内部の穴や切り欠きも、加工対象として正しく区別されている必要があります。基板厚さについても、設計値と3Dモデルの値が一致しているかを確認しましょう。基板厚さが初期設定のままになっていると、筐体のガイド幅やコネクタ高さの検討に誤差が生じます。
座標系の確認も欠かせません。電気系と機械系で原点の位置、軸の向き、表裏の定義が異なると、データを読み込んだ際に基板がずれたり反転したりします。特に、基板の上面と下面をどちらの方向として扱うかは、部品配置の確認に大きく影響します。基板外形が正しく見えていても、下面部品が上面側に配置されている状態では、正確な干渉確認ができません。
連携を安定させるには、基板上の基準点を明確に定めます。原点だけでなく、基準となる取付穴や基板角部を使い、位置と方向を確認できるようにすると効果的です。基準点を一つだけにすると回転方向を判断できないため、原点に加えて方向を示す別の点や辺を決めておくと、配置ミスを発見しやすくなります。
3D CADへ取り込んだ後は、基板外形の全長と全幅を測定し、元データの寸法と照合します。さらに、主要な取付穴から外形端までの距離や、基準穴同士の間隔も確認します。見た目だけでは分からない単位の違いや縮尺の誤りを発見するためです。
単位設定にも注意が必要です。一方の設計環境がミリメートル単位で、もう一方が異なる単位として解釈すると、極端に大きいモデルや小さいモデルとして取り込まれることがあります。明らかな縮尺違いはすぐに気づけますが、変換処理や丸めによってわずかな誤差が生じた場合は見落としやすくなります。代表寸法を数値で照合する習慣が重要です。
基板外形と座標系が正しくなければ、その後に行う部品高さや開口部の確認も意味を失います。連携作業では、最初にこの基準を固定し、設計変更後も同じ基準で更新できる状態を整えることが大切です。
確認2 電子部品の高さと占有空間を確認する
次に確認するのは、基板上に配置された電子部品の高さと占有空間です。筐体との干渉は、平面上の位置だけでなく、高さ方向で発生することが多いためです。基板上の部品が筐体の天面、底面、リブ、ボス、放熱部品などに接触しないかを、立体的に確認する必要があります。
電子部品の3D形状には、詳細なモデルが使われる場合と、直方体などの簡略モデルが使われる場合があります。干渉確認を目的とする場合、必ずしも細かな端子形状まで再現する必要はありませんが、最大外形と最大高さが正しく表現されていることが重要です。外観をきれいに見せることよりも、部品が占有する空間を安全側に表現できているかが判断基準になります。
部品の高さ情報が未設定の場合、基板上に薄い図形としてしか表示されないことがあります。この状態では、筐体の蓋や内部構造との干渉を確認できません。また、実際よりも低い高さで登録されていると、3D CAD上では問題がなくても、試作時に部品が接触する可能性があります。
高さを確認する際は、部品本体だけでなく、端子、はんだ、放熱部、固定金具、絶縁部品なども考慮します。部品によっては、本体より端子や金具が外側に張り出す場合があります。ケーブルを接続するコネクタでは、接続後のプラグやケーブルの曲がりも占有空間に含めなければなりません。
部品の実装公差や基板の反りも、必要に応じて考慮します。設計上の高さが筐体内面にぎりぎり収まっていても、製造ばらつきによって接触する可能性があります。そのため、単純に形状同士が交差していないことだけを確認するのではなく、部品の上面から筐体までに必要な余裕が確保されているかを確認します。
必要な余裕は、製品の構造、材料、温度条件、振動条件、組立方法などによって変わります。一律の値をすべての部品に適用するのではなく、接触してはいけない部品、放熱部品のように筐体との接触を意図する部品、絶縁距離が必要な部品などに分けて判断することが重要です。
基板の上面だけでなく、下面の部品も確認します。下面部品は、筐体底面のボスや補強構造、基板を支える台座と干渉しやすい部分です。特に、取付穴の周辺に小型部品が配置されている場合、ねじ頭、座金、支柱などと接触する可能性があります。
3D CAD上では、電子部品を種類や重要度に応じて分類すると確認しやすくなります。高さの大きい部品、発熱する部品、筐体開口部と位置を合わせる部品、接触禁止の部品などを識別できるようにすると、設計レビューの効率が上がります。表示色に依存するだけでなく、部品属性や名称で検索できる状態にしておくと、データ更新後の再確認にも役立ちます。
部品モデルの欠落にも注意が必要です。3D形状が登録されていない部品があると、基板上に何も存在しないように見えるため、筐体側へ構造を追加してしまうおそれがあります。3Dモデルが存在しない部品については、最低限の占有形状を仮に設定し、未確認であることを識別できるようにします。
すべての電子部品を詳細に再現すると、データ量が増えて操作性が低下する場合があります。実務では、干渉確認に必要な精度を保ちながら形状を簡略化することが重要です。ねじ山や細かな面取りなど、干渉判断に影響しにくい形状は省略し、外形、高さ、取付位置、接続方向を優先して表現します。
確認3 コネクタと筐体開口部の位置を照合する
コネクタと筐体開口部の位置は、基板と筐体の連携で特に問題が起こりやすい部分です。コネクタ本体が筐体と干渉していなくても、差し込み口と開口部がずれていれば、外部から接続できません。位置だけでなく、向き、高さ、差し込み方向、接続後の占有空間まで確認する必要があります。
まず、コネクタ中心と筐体開口部の中心が一致しているかを確認します。ただし、中心位置が一致しているだけでは十分ではありません。コネクタの外形に対して、開口部の幅と高さが適切であるか、組立ばらつきを吸収できる余裕があるかも確認します。
開口部を必要以上に大きくすると組立は容易になりますが、外観、防じん、防水、遮光、強度などに影響する場合があります。反対に開口部を小さくしすぎると、基板や筐体の寸法ばらつきによって接続できなくなる可能性があります。製品に求められる性能と組立性の両方を考慮して寸法を決める必要があります。
コネクタの差し込み方向も重要です。外部からプラグをまっすぐ差し込むためには、筐体の外側に作業空間が必要です。開口部の周辺に段差や壁があると、プラグ本体や指が当たり、接続しにくくなる場合があります。ケーブルが太い場合や固定機構がある場合は、接続操作に必要な空間がさらに大きくなります。
接続後のケーブル経路も確認します。コネクタから出たケーブルがすぐに筐体内壁へ当たると、無理な曲げが生じる可能性があります。ケーブルの曲げ半径やコネクタ根元への負荷を考慮し、直線部分と曲がり部分に必要な空間を確保します。筐体内部にケーブルを収める場合は、蓋を閉めたときにケーブルが挟まれないかも確認します。
基板を筐体へ組み込む順序によっては、コネクタが開口部を通過できないことがあります。完成位置では正しく配置されていても、組立途中に筐体の壁やガイドと衝突する場合があるためです。3D CAD上では完成状態だけでなく、基板を挿入する方向や回転させる動きも確認します。
複数のコネクタが並ぶ場合は、それぞれの間隔も重要です。隣接するプラグ同士が接触しないか、同時に接続できるか、抜き差しの操作ができるかを確認します。ケーブルの向きが重なる場合は、接続順序や取り回しも検討します。
表示部品や操作部品についても、コネクタと同様の考え方が必要です。表示位置と窓の位置、押しボタンと筐体側の操作部、音を出す部品と音孔など、基板上の機能部品と筐体側の開口や構造を照合します。位置が合っていても、筐体の厚さや部品の突出量によって機能しないことがあるため、高さ方向も確認します。
筐体側で開口部を変更した場合は、その変更を電気系へ共有する必要があります。基板担当者が古い開口位置を基準に部品を配置すると、設計が再びずれてしまいます。コネクタと開口部は双方の設計に強く影響するため、どちらの担当者が基準を管理するかを決めておくことが重要です。
確認4 取付穴と固定部品の整合性を確認する
基板を筐体へ固定するための取付穴、ねじ、支柱、ボス、押さえ部品の整合性も重要な確認項目です。取付穴の位置がわずかにずれていると、ねじを挿入できない、基板が傾く、基板へ無理な力がかかるといった問題が発生します。
最初に、基板側の取付穴位置と筐体側のボス位置を同じ座標基準で照合します。穴径だけでなく、穴の中心間距離、外形端からの距離、基準穴からの位置を確認します。長穴を使用する場合は、長手方向と調整可能な範囲も確認します。
基板の穴径と使用する固定部品の外径が適合しているかも確認します。ねじの呼び寸法だけで判断するのではなく、ねじ部、軸部、座金、ねじ頭などが占有する範囲を3D CAD上で確認すると、部品との接触を発見しやすくなります。
取付穴の周辺には、部品を配置しない範囲が必要になる場合があります。ねじ頭や座金が基板上の部品、配線、端子などへ接触しないようにするためです。下面側では、支柱やボスの外径に対して十分な空間が確保されているかを確認します。穴だけを見て問題がないと判断すると、周辺構造の干渉を見落とす可能性があります。
筐体側のボス高さも重要です。ボスが高すぎると基板位置が上がり、上面部品が蓋へ接触する可能性があります。反対に低すぎると、基板下面の部品が筐体底面へ近づきすぎたり、コネクタと開口部の高さが合わなくなったりします。
複数のボスで基板を支える場合は、それぞれの高さがそろっているかを確認します。高さに差があると、ねじを締めたときに基板へ曲げが生じることがあります。設計上は同じ高さでも、筐体材料や製造方法によって寸法ばらつきが生じるため、基板に過大な変形が生じない構造を検討する必要があります。
ねじの締結方向と工具の作業空間も確認します。ねじ自体が干渉していなくても、工具をまっすぐ入れられない場合は組立が困難です。周辺の筐体壁、電子部品、ケーブル、別の固定部品などが工具と干渉しないかを確認します。
基板を押さえる爪やガイドを使用する場合は、基板外形との位置関係だけでなく、挿入時の動きも確認します。爪が固すぎる、基板を大きく変形させる、実装部品の近くを押すといった構造は、組立不良や基板損傷につながる可能性があります。
固定構造は、筐体強度にも影響します。ボスの周辺に補強リブを設ける場合、そのリブが基板下面の部品や配線領域へ入り込まないかを確認します。筐体側では必要な補強であっても、基板側から見ると干渉物になるため、双方の設計情報を重ねて判断する必要があります。
取付穴は基板と筐体を位置決めする基準として使われることが多いため、変更時の影響範囲が広くなります。穴位置を変更する際は、ボス、開口部、コネクタ、放熱部品、配線経路などの再確認が必要です。変更した穴だけを見るのではなく、基板全体の位置がどう変化するかを確認することが重要です。
確認5 禁止領域と必要なクリアランスを設定する
干渉確認では、現在の形状同士が重なっていないことだけでなく、部品や構造物を配置してはいけない領域を明確にする必要があります。禁止領域は、基板上の部品配置を避ける範囲や、筐体側の構造を入れてはいけない範囲を立体的に表したものです。
代表的な禁止領域には、ねじや支柱の周辺、筐体リブの通過範囲、コネクタの差し込み空間、ケーブル経路、表示窓の視認範囲、無線部品の周辺、発熱部品の放熱空間などがあります。これらは単なる干渉チェックでは把握しにくいため、設計初期から明示的な空間として設定することが有効です。
禁止領域は、平面上の線だけでなく、高さを持った立体として管理すると確認しやすくなります。たとえば、ねじ頭の周辺に部品を置いてはいけない範囲を円柱状の空間として表現すれば、基板上面と下面の両方で干渉を確認できます。コネクタについても、プラグの外形だけでなく、挿入時に通過する空間を立体で表現することが重要です。
必要なクリアランスは、禁止領域と合わせて検討します。形状同士が接触していなくても、隙間が極端に小さい場合は、製造ばらつき、組立ばらつき、熱変形、振動などによって接触する可能性があります。3D CAD上で測定した最小距離を確認し、設計上必要な余裕を確保します。
クリアランスを検討する際は、筐体と電子部品の寸法公差を別々に見るのではなく、組み合わせた状態で考えます。基板位置のばらつき、部品実装位置のばらつき、筐体内寸のばらつきが同じ方向に重なると、想定より隙間が小さくなる場合があります。
熱による変化も考慮します。発熱部品の周辺では、筐体や基板の温度が上がり、材料の膨張や変形が生じる可能性があります。常温で十分な隙間があるように見えても、使用条件によっては接触する場合があります。放熱部品については、接触させる場所と接触させない場所を明確に区別します。
電気的な理由から必要となる距離については、機械的な干渉とは別の観点で確認する必要があります。導電部と筐体、異なる電位の部分、絶縁材の端部などについて、製品の用途や設計条件に応じた距離を確保します。3D CAD上で物理的に接触していないだけでは、電気的な安全性を判断できません。
基板端部と筐体の隙間も確認します。基板外形が筐体に入っていても、隙間が小さすぎると組立時に引っ掛かったり、筐体変形によって基板へ力が加わったりします。基板をスライドさせて挿入する構造では、挿入方向に沿って一定の余裕が必要です。
禁止領域を設定する際は、誰がその領域を定義し、誰が変更できるかを決めます。電気系が設定した領域を機械系が認識できず、筐体側で構造を追加してしまっては意味がありません。反対に、筐体側の制約が基板設計へ反映されなければ、部品配置のやり直しが発生します。
双方が参照できる共通のデータとして禁止領域を管理し、名称や目的を分かりやすく記録すると、設計変更時にも判断しやすくなります。「空けておく範囲」だけではなく、「ねじ締結用」「ケーブル曲げ用」「放熱用」など、理由を残すことが重要です。
確認6 配線経路と組立作業に必要な空間を確認する
基板と筐体が静止した完成状態で干渉していなくても、配線や組立作業を考慮すると問題が見つかることがあります。内部ケーブル、電線、可動部品、工具、人の指などは、完成モデルだけを見ていると見落としやすい要素です。
内部配線がある場合は、コネクタ間を結ぶ経路を3D CAD上で確認します。直線で結べるかどうかだけでなく、必要な曲げ半径を保てるか、鋭い筐体端部に接触しないか、ねじや可動部品へ巻き込まれないかを確認します。
ケーブルは完全に決められた位置へ固定されるとは限りません。組立時のばらつきや使用中の振動によって移動することがあります。そのため、中心線だけでなく、ケーブル外径と移動範囲を含む占有空間として確認することが重要です。
複数のケーブルを束ねる場合は、束ねた状態の太さや硬さを考慮します。一本ずつなら通過できる隙間でも、束ねると入らない場合があります。分岐部や固定具の周辺では、局所的に必要な空間が大きくなることにも注意が必要です。
組立順序については、基板を筐体へ挿入し、コネクタを接続し、ねじを締め、蓋を閉めるまでの流れを確認します。最終位置だけを基準にすると、途中で部品が干渉する問題を発見できません。基板を斜めに入れる必要がある場合や、ケーブル接続後に基板を回転させる場合は、その動きに必要な空間も検討します。
3D CADの移動や回転の機能を使い、組立動作を段階的に再現すると、静止状態では見えない問題を発見しやすくなります。精密な動作解析を行わない場合でも、基板の挿入方向、工具の進入方向、ケーブルの接続方向を確認するだけで、多くの手戻りを防げます。
工具空間は、ねじ締結だけでなく、コネクタの固定、部品の押し込み、接着材の塗布、検査端子への接触などでも必要です。作業者がどの方向から手を入れるのか、工具先端だけでなく工具本体が周辺構造へ当たらないかを確認します。
検査や修理を想定する製品では、組立後のアクセス性も重要です。特定の基板を交換するためにすべての部品を取り外す必要がある構造では、作業時間が増えます。検査用の端子や表示部品が見えない、測定器を接続できないといった問題も、3D CADとECADの情報を重ねることで発見しやすくなります。
筐体内に可動部品がある場合は、その動作範囲と基板、電子部品、ケーブルの位置関係を確認します。通常位置では隙間があっても、可動端で接触する場合があります。ばねや柔軟な部品については、変形後に占有する可能性のある空間も考慮します。
組立作業に必要な空間は、設計図面上で寸法として表しにくいことがあります。そのため、3D CAD上に工具や手の代わりとなる簡略形状を配置し、作業可能かを確認する方法が有効です。詳細な人間モデルを用意しなくても、必要な直径や長さを持つ円柱や直方体を置くだけで、作業空間の不足を見つけられます。
確認7 設計変更を確実に反映して履歴を管理する
3D CADとECADの連携で最も注意したいのは、設計変更の反映漏れです。最初のデータ交換が正しく行われていても、その後に片方だけが更新されると、古い情報を基に設計を進めることになります。試作直前まで問題が見つからない原因の一つが、変更履歴の不一致です。
基板外形、取付穴、コネクタ位置、部品高さ、筐体開口部などを変更した場合は、相手側の設計へ反映する必要があります。しかし、毎回すべてのデータを置き換えるだけでは、どこが変わったのか分かりにくくなります。変更箇所と変更理由を記録し、確認が必要な範囲を明確にすることが重要です。
設計データには、版番号や更新日時を付けます。ファイル名だけで管理すると、複製や名称変更によって最新版が分からなくなる可能性があります。設計データ内の属性や管理台帳にも版情報を残し、受け取った側が現在の版を判断できるようにします。
更新時には、基板全体を再配置してしまわないように注意します。既存の基準座標を維持したまま更新できれば、筐体側で追加した寸法や拘束を保ちやすくなります。原点や基準穴が変わる場合は、その影響を明示し、再配置が必要であることを共有します。
変更前後の比較も重要です。基板外形が変わったのか、部品が追加されたのか、部品位置が移動したのか、部品高さだけが変わったのかを確認します。形状全体を目視するだけでは小さな変更を見落とすため、差分を識別できる方法を用意すると効果的です。
変更を受け取った側は、単にデータを読み込むだけでなく、再度干渉確認を行います。一度確認済みの箇所であっても、近くの部品や構造が変更されれば再確認が必要です。特に、取付穴や基板外形の変更は基板全体の位置に影響するため、広い範囲を確認します。
変更の承認手順も決めておきます。電気系から機械系へデータを渡しただけでは、反映が完了したかどうか分かりません。受領、反映、干渉確認、承認という状態を区別し、誰がどこまで確認したかを記録します。
緊急の変更では、口頭や短いメッセージだけで内容が共有されることがあります。しかし、後から変更理由や対象範囲を追跡できなくなるため、最終的には正式な記録へ反映することが重要です。小さな変更でも、試作や量産へ影響する可能性がある場合は履歴を残します。
連携頻度についてもルールを設けます。設計が大きく変わるたびに交換するのか、一定の段階でまとめて交換するのかを決めます。頻繁すぎる交換は管理負担を増やしますが、間隔が空きすぎると双方の設計が大きく進み、修正範囲が拡大します。
設計初期では、基板外形、取付穴、主要コネクタなど影響の大きい情報を早めに共有します。詳細設計へ進んだ後は、部品高さ、禁止領域、配線経路などを追加し、段階に応じて確認内容を深める方法が実務的です。
3D CADとECAD連携を安定させる実務フロー
3D CADとECADの連携を安定させるためには、担当者の経験だけに頼らず、共通の作業フローを決めることが大切です。データを受け渡すたびに手順が変わると、設定漏れや確認漏れが起こりやすくなります。
最初の段階では、製品全体の基準座標を決めます。基板原点、筐体原点、基準穴、表裏、軸方向を文書化し、双方が同じ定義を使用します。この基準は、設計途中で安易に変更しないことが重要です。
次に、初期の基板外形と取付穴を機械系へ共有します。機械系では、筐体内に基板を配置し、外形、取付位置、挿入方法を確認します。筐体構造がある程度決まった段階で、内壁、開口部、ボス、禁止領域などの情報を電気系へ戻します。
電気系では、受け取った制約を基に部品配置を進めます。主要コネクタや高さの大きい部品、発熱部品などを優先して配置し、再び3D情報を機械系へ共有します。この段階で、基板と筐体を組み合わせた干渉確認を実施します。
干渉が見つかった場合は、単にどちらかの形状を削るのではなく、設計意図を確認します。基板側の部品を移動できるのか、筐体側のリブを変更できるのか、強度、放熱、電気性能、組立性への影響を比較して対応を決めます。
設計が進んだ後は、主要部品だけでなく、下面部品、固定部品、ケーブル、工具空間なども含めて確認します。完成状態の干渉だけでなく、組立順序や接続作業も確認します。
試作前には、基板外形、部品高さ、取付穴、開口部、禁止領域、クリアランス、配線経路、変更履歴をまとめて再確認します。確認結果を記録し、問題がないと判断した版を明確にします。
試作後に不具合が見つかった場合は、単にモデルを修正するだけでなく、なぜ設計段階で発見できなかったかを振り返ります。部品モデルが欠落していたのか、クリアランス基準がなかったのか、変更反映が遅れたのかを整理し、次の設計へ反映します。
干渉確認で見落としやすい注意点
3D CAD上の干渉検出機能を実行し、結果がゼロであっても、設計上の問題がないとは限りません。干渉検出は、基本的に形状同士が重なっている部分を見つけるための機能です。必要な隙間が不足している状態や、組立途中だけで発生する接触は、別途確認する必要があります。
部品モデルの精度にも注意が必要です。簡略化された形状が実物より小さい場合、実際には干渉する部分を検出できません。反対に、実物より大きな安全側の形状を使う場合は、意図的な余裕を含んでいることを関係者が理解しておく必要があります。
柔らかい部品や変形する部品は、固定形状として表現しにくい対象です。ケーブル、シール材、緩衝材などは、設計上の初期形状だけでなく、組立後の変形状態を考慮します。必要に応じて複数の状態を作り、周辺部品との関係を確認します。
筐体の製造方法によっては、設計形状と実物形状に差が生じる場合があります。抜き勾配、角部の丸み、板材の曲げ部、接合部、成形時の変形などが、内部空間へ影響することがあります。3D CADモデルが理想形状だけになっていないかを確認します。
基板側でも、実装後の状態が設計モデルと完全に一致するとは限りません。部品位置や高さのばらつき、はんだ量、基板反りなどが影響します。特に隙間が小さい場所では、設計値だけでなく製造上のばらつきを考慮した確認が必要です。
表示設定による見落としにも注意します。透明表示や断面表示は内部確認に便利ですが、重なり方によって部品が見えにくくなる場合があります。視点を変える、断面位置を変える、部品を一時的に非表示にするなど、複数の方法で確認します。
設計レビューでは、電気系と機械系の担当者が同じ画面を見ながら確認することが有効です。それぞれの担当者だけでは、相手側の設計意図を正確に判断できない場合があります。部品を移動できるか、筐体構造を変更できるか、必要な空間にどのような意味があるかを話し合うことで、適切な対応を決めやすくなります。
確認項目を毎回同じ順序で実施することも重要です。基板外形、座標系、部品高さ、コネクタ、取付穴、禁止領域、配線、変更履歴という流れを決めておけば、担当者が変わっても一定の品質を保ちやすくなります。
まとめ
3D CADとECADを連携することで、基板と筐体を同じ三次元空間で確認できるようになり、試作前に多くの干渉問題を発見しやすくなります。ただし、基板データを3D CADへ取り込んだだけでは、十分な確認を行ったことにはなりません。
最初に基板外形、厚さ、原点、軸方向、表裏を確認し、双方の座標系を一致させる必要があります。次に、電子部品の高さや最大外形を確認し、筐体内壁やリブ、ボスなどとの距離を検討します。
コネクタと筐体開口部については、中心位置だけでなく、差し込み方向、プラグ形状、ケーブルの曲げ、操作空間まで確認することが重要です。取付穴についても、穴位置だけではなく、ねじ頭、座金、支柱、工具の作業空間を含めて確認します。
さらに、部品を置いてはいけない禁止領域と必要なクリアランスを立体的に設定し、製造ばらつきや組立ばらつきを考慮します。完成状態だけでなく、基板の挿入、ケーブル接続、ねじ締結、蓋の取付といった組立途中の動きも確認します。
設計変更が発生した場合は、最新版を共有するだけでなく、変更箇所、変更理由、確認状況を記録します。古い基板データや筐体データが残っていると、正しい干渉確認を行えません。双方が同じ版を参照していることを確認し、変更後は影響範囲を再点検する必要があります。
3D CADとECADの連携は、単なるデータ変換ではなく、電気系と機械系が設計条件を共有するための仕組みです。基準座標、交換時期、確認担当、承認方法を標準化することで、担当者の経験に依存しにくい運用へ近づけます。
製品設計だけでなく、現場で筐体の設置位置、周辺設備との離隔、既設構造物との位置関係を確認したい場合は、設計した3Dデータを現実空間と結び付ける方法も有効です。設計室内の干渉確認から現場での位置確認まで一貫して扱いたいときは、LRTK Phoneを活用した三次元計測や位置情報付きデータの運用も検討できます。